近年、急速な技術革新や働き方改革の進展に伴い、労働者のリスキリング(新しいスキルを身につけること)への需要が高まっている。
しかしながら、実際のリスキリング実施率は決して高くない。
労働者がリスキリングに取り組めない背景には、何らかの課題が背景にあると考えられる。
そこでスキルアップ研究所では、リスキリングに取り組んだことがない人向けに課題の調査を行い、人々がリスキリングに取り組まない理由となっている障壁や問題点を企業の現状とも照らしながら検証した。
- リスキリングに取り組まない理由第1位は金銭的理由
- 時間的理由・学習支援の少なさもネックとなっている
- 社内評価・風潮も影響は大きい
- リスキリングに取り組まない理由と企業の環境整備の至らない点は一致
リスキリングに取り組んでいない1番の理由は金銭面
リスキリングに取り組んでいない人に対し、リスキリングに取り組んでいない理由を尋ねたところおよそ半数近くが「金銭的余裕がない」と答えた。
次いで、「何をしたらいいのかわからない」「仕事が忙しく時間的余裕がない」が挙げられた。
また、複数回答の本設問で、回答者1人あたり平均で約2.26個の回答を挙げており、リスキリングを阻む要素には複数事項が重なっていることも示唆する結果となった。
金銭的負担の軽減は必須要件
次に費用補助が会社から出るならリスキリングに取り組むかについて尋ねたところ、7割近くの人々が「取り組む」あるいは「取り組みを前向きに検討する」と答えた。
リスキリング未経験者の7割ほどが「金銭的負担が減るならリスキリング講座を受講したいと思う」と答えた結果と重なるものがある(「リスキリング時の助成金の認知・利用に関する実態調査」)。また、同調査ではリスキリング経験者のおよそ30%が大変だったこととして金銭的負担を挙げている。
リスキリングに対して金銭的負担の有無の占める重要性が改めて明確になったといえよう。
企業によるリードでリスキリングは推進可能
会社からリスキリングの際の推奨資格や取り組むべきことを明示されたら取り組むかどうか、という質問に対しては8割近くに上る人が「取り組む」、あるいは、「取り組みを前向きに検討する」と回答した。
やるべきことが明らかになるだけで、リスキリングへの取り組み率は大幅に改善する可能性があることを示唆する結果となった。
過去調査の自由記述にも以下のような声が寄せられている。
望むキャリアを実現するために必要なスキルや能力を明示してほしい(例えば将来人事職を目指すのであれば社労士資格を優遇する など)
スキルアップ研究所「リスキリングに対する労働者の現場の声に関する調査」より抜粋
現場のリスキリングに対する熱意は高いという調査結果は既に出ている(「リスキリングに対する労働者の現場の声に関する調査 」)だけに、企業側がうまくリードしてリスキリングを推進することが必要である。
リスキリングへの取り組みには時間的余裕も必要
「残業が減ったらリスキリングに取り組みますか?」という質問に対しては、6割の人々が「取り組む」、「取り組みを前向きに検討する」と答えた。
リスキリング経験者の大変だったことの最も多かった意見が「仕事や家事で時間がない」であった(「リスキリング時の助成金の認知・利用に関する実態調査」)ことからも、仕事や家事に追われる社会人にとって、時間の捻出は大きな壁となっていることが分かる。
3割以上の人が週に5時間以上の残業
1週間の平均残業時間について質問をしたところ、5時間以上を選択する人が全体の3割以上となった。一方、残業がない人が約3割、5時間未満も同様に3割という結果になった。
5時間以上の残業の場合、1日に1時間以上残業をしている計算になる。残業後にリスキリングに取り組むというのは、体力・時間の双方の観点から見ても困難なものである。
リスキリングに取り組むためには週に20時間必要
残業時間に追加して自由時間の調査を行ったところ、およそ7割近くの人が週に15時間以内、つまり1日にたった2時間の自由時間すら取ることがままならない現状が明らかになった。
その中でリスキリングにまで取り組もうとすると、娯楽や趣味を犠牲にすることとなり、心身の健康を脅かすことにもなってしまうのではないだろうか。
現在の倍の自由時間が必要
現状の自由時間に加えて1週間にどれほど自由時間を加えればリスキリングに取り組もうと思うかについて尋ねたところ、20時間以下の選択肢に9割が集中した。
つまり、労働者がリスキリングを満足して行うためには、大まかに見積もって現在取れている分の2倍の自由時間が必要であることが分かる。これだけの時間を個人の努力で確保することは困難であるため、構造的な改革が必要となる。
動機づけには評価制度の構築も有効
リスキリングへの取り組みが社内評価制度に取り入れたらリスキリングに取り組むかどうかについて尋ねたところ、取り組む、検討すると答えた人の合計は80%を超えた。
実際の現場の声としても以下のようなものがある。
リスキリングによる個人の能力向上に対する評価が追いついておらず、特に年代の高い世代ではどこでもやっていけるスキルという漠然とした捉え方をしており転職や人材流出に繋がる懸念を感じている人もいる。リスキリングに対する理解促進が求められると考える。
スキルアップ研究所 「リスキリングに対する労働者の現場の声」調査より抜粋
リスキリングによる社内評価の向上が明示されれば、リスキリングへの理解促進やリスキリングへの取り組みの活性化に繋がるだろう。
副業の容認も一手
副業が認められたらリスキリングを行うかどうか尋ねたところ、取り組む、検討すると答えた人は65%近くまで上った。
副業の容認については、自社への還元が少ないと考えられることからも踏み切るには企業側のハードルが高いといえる。しかし社会的なリスキリングの推進という観点、また労働者が求めているという点においては、検討の余地があるだろう。
過去の調査においても現場の声として以下のような声が複数上がっている。
副業制度を認めることで社員の選択の自由を広げて、かつ副業も行う社員がいることを多様性の一つとして特別視せずに認めてほしい。
スキルアップ研究所 「リスキリングに対する労働者の現場の声」調査より抜粋
社内の風潮も取り組みに影響
社内の風潮もリスキリングへの取り組みに影響する。
年功序列や残業の常態化など社内の古い風潮が、リスキリングを推奨するような風潮に変わったらリスキリングに取り組むか、という質問に関しては7割近くの人が「取り組む」、あるいは「取り組みを前向きに検討する」という結果になった。
年功序列などの一つの会社にコミットすることを求められるような雰囲気においては、転職やキャリアアップにも繋がり得るリスキリングは取り組みづらいものになってしまうのだろう。
古来の社風が根付いており学ぶ環境があまりないのと、業務量が多いと手一杯です。会社に対してはどこに行っても通用するスキル(語学力など)だけでもしっかり支援して学べる仕組みや、それに対する補助金があればよりよい環境になると思います
スキルアップ研究所 「リスキリングに対する労働者の現場の声」調査より抜粋
社内の風潮や環境には過去にもこのような声が寄せられていた。会社が変化しなければ、労働者は今のままでは余裕がなくリスキリングに取り組めないことが分かる。
会社が変化しなければ労働者はスキルアップへ動かない
現在企業側が整えきれていないリスキリング環境とも言える、金銭的負担・時間的制約・企業の社内風潮といった点が、人々がリスキリングに取り組まない理由となっている。これらはリスキリング環境を整備する上で企業側が不十分な対応をしている結果であると言える。
残業の削減、リスキリングの金銭補助をはじめとした学習支援などにより、企業がリスキリング環境を適切に整備すれば、従業員の学習意欲をさらに高め、リスキリング活性化を通じて業績向上へとつながる可能性が高い。そうした効果が期待できるにもかかわらず、現状の環境不足は企業にとって大きな機会損失となっている。
リスキリングを行った人のうち約6割が転職せずに、得たスキルを現職で活かしているという調査結果も出ている(「転職におけるリスキリングの有効性に関する実態調査」)。リスキリングによる既存の人材のスキルアップで、新規人材の獲得よりもコストを抑えつつ業績向上の達成が期待できることから、企業側にリスキリングに踏み切る動機は十分にある。
社会の流れが大きく変わっている今こそ、企業が動くべき時ではないだろうか。
調査概要
項目 | 詳細 |
調査名 | リスキリングに取り組む際の課題に関する実態調査 |
対象者 | 20代以上の社会人の方で、リスキリングに取り組んでいない方 |
対象地域 | 全国 |
調査方法 | インターネット調査 |
調査期間 | 2024年3月21日〜2024年3月27日 |
回答数 | 228 |
※データは小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。
参考調査
(※いずれもスキルアップ研究所)
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