現代の労働市場では、技術の進化と産業の変化により、従来のスキルセットだけでは対応しきれない新たなニーズが出現している。この背景のもと、既存の職業技能から新しいスキルへの移行や再学習、すなわちリスキリングが労働者にとって必須の取り組みとなってきている。
しかし、多くの労働者がリスキリングの重要性を理解しつつも、実際にどのように進めればよいか、どのような支援が必要かについては不明瞭なままである。これによりリスキリングの取り組みが十分に進まないという課題が生じている。
このような状況を鑑み、スキルアップ研究所では「リスキリングに対する現場の声」のアンケート調査を行い、労働者のリスキリングへの姿勢と、それに伴う苦労や意見を調査・分析した。
- すでにリスキリングに取り組んでいるのは全体の38.7%
- リスキリングに熱意はある人は80%以上
- 労働者は会社に対し資格取得支援を最も求める
- 企業は取得すべきスキルを明確化させ、補助金などの制度を整えていくべき
すでにリスキリングに取り組んでいるのは38.7%
調査によると、現在リスキリングに取り組んでいる労働者は全体の38.7%であると判明した。また、今後リスキリングに取り組む予定の人は42.3%、取り組む予定がない人は19.0%であった。
リスキリングは、技術の進化や業界の変化に適応し続けるために必要であるとされているが、すでに多くの労働者がこの流れに乗っていることがわかる。
しかし、「既に取り組んでいる」人よりも「今後取り組んでいく予定である」人の方が多くなっており、現在の取り組み率はまだまだ低いといえる。
リスキリングの取り組み率は企業規模とは相関がない
リスキリングへの取り組みに関して、企業の規模が直接的な影響を与えていないことが明らかになった。
300名以下の小規模な会社では35.6%が、301名から1000名の中規模会社では41.4%が、そして1001名以上の大企業では42.3%がリスキリングに取り組んでいると報告している。
中小企業だからといってリスキリングができないわけでも、大企業だからといって大勢がリスキリングしているわけでもない。リスキリングへの取り組みは、個々の意識や業界の要求によって決まり、取り組む人の割合はどの規模の企業でも約40%となっている。
リスキリングをするきっかけは今後のキャリアへの不安から
リスキリングを始めるきっかけとして最も多かったのは、「今後のキャリアへの不安から」という理由で、全体の50.7%であった。多くの労働者が、自分の今後のキャリアを考えたときにスキルアップの必要性を感じることを示している。
また、業務効率化や副業を目的とする人も少なくなく、リスキリングが多方面にわたる目的で行われていることがわかる。
その他自由記述ではこのような回答が寄せられた。
転職のため
自己啓発としてリスキリングしないとまずいと思っている
リスキリングに熱意はある人は80%以上
「リスキリングへの熱意はどれくらいありますか?」という質問に対しては、80%以上の人が「非常にある」「ある」「どちらかといえばある」と回答した。多くの労働者が自らのスキル向上とキャリアの発展に対して積極的に取り組もうとしていることを示している。
しかし、実際にリスキリングに取り組んでいる人が全体の約38%であることを考えると、熱意と実際の取り組みとの間にはまだギャップが存在するようだ。
労働者は会社に対し資格取得支援を最も求める
80%以上の人がリスキリングへの熱意を持っているが、実際にリスキリングをしている人は30%程度である。ではなぜ労働者はリスキリングを行わないのだろうか、なにが足りないのだろうか?
そこで、リスキリングに関して労働者が会社に求めることを調査した。
労働者がリスキリングに際して会社に求めることの中で、最も多かったのは「資格取得の支援」であった。スキルアップやキャリアアップを目指す上で、資格が具体的な目標や証明となるためであることが理由として考えられる。
また、補助金の提供や評価制度への取り入れなど、リスキリングへの支援を多角的に求める声もあがった。
取得すべきスキルや資格は伝えられていない場合が多い
実際に会社から取得すべきスキルや資格が明示されているかという質問に対して、68.7%の人が「いいえ」と回答した。
多くの労働者が自らのリスキリングの方向性を定める上で、具体的になにをすれば良いのか会社から指示をされていない状況を示している。多くの人がリスキリングに対し熱意を持っているにも関わらず、実施率は低いままで収まってしまっている理由にはやるべきことの不明瞭さもあるだろう。
望むキャリアを実現するために必要なスキルや能力を明示してほしい(例えば将来人事職を目指すのであれば社労士資格を優遇する など)
まずは会社が必要としている人材像とそれに対して教育計画を示してほしいです
今後の社員のキャリアデザインを踏まえたうえで、何を学ぶのが良いか提示するような仕組みづくりをしてほしいです。
補助金の仕組みを整えられていない会社が7割を超える
勤めている企業の「リスキリングへの補助金の仕組みが整っている」と感じている人の割合は27.0%にとどまり、多くの労働者が経済的支援を受けられる環境にないことが明らかになった。
特に資格の取得には、通信講座の受講や教材の購入など、非常に費用がかかる。その費用を会社が補助する環境が整えられていないと、労働者としてはやはりリスキリングのハードルが高くなってしまうだろう。
個人ができることには限界があるので、主に費用の面で補助してほしい
キャリアアップのためのリスキリングは必須だと思っているので、金銭面の支援をまず一番にしてほしい。
私の会社では資格の取得を推奨していますが、受験費用は自己負担です。費用も出してもらえると嬉しいです。
総じてリスキリング環境が整った企業は少数
調査結果によると、労働者の68.1%が自身の勤める会社では「リスキリングができるような環境が整っていない」と感じていることが判明した。
これまで紹介したように、労働者が新しいスキルを身につけ、キャリアを発展させるためには、企業側からの具体的な支援と環境整備が急務であることがわかる。
暇な時間があるので、その時間をリスキングの書籍を読んでも良いような環境と雰囲気を作って欲しい。
社内でリスキリングに対する意識を作ってほしい。正社員が自分以外にいない環境なので、パートに囲まれて自身のキャリアアップやスキルアップを目指せる雰囲気にはならない。
自由記述から得られた現場の声を紹介
リスキリングをすることを評価制度に入れてほしい
リスキリングに取り組む労働者からは、その取り組みを会社の評価制度に反映してほしいという声が多く挙がった。自身のスキルアップだけでなく、キャリアにおける具体的な評価や報酬に繋がることが望まれている。
リスキリングしたことを評価にいれてほしい。
事務能力についての評価基準があれば、何を勉強し身につけるか、具体的に考えられると思います。
リスキリングによる個人の能力向上に対する評価が追いついておらず、特に年代の高い世代ではどこでもやっていけるスキルという漠然とした捉え方をしており転職や人材流出に繋がる懸念を感じている人もいる。リスキリングに対する理解促進が求められると考える。
副業を容認してほしい
リスキリングのために求めることとして、副業を通じた収入増や、キャリアの多角化を望む声があがった。このためには会社の副業に対する理解と容認が必要であり、副業を認めることでリスキリングの動機付けとなり得る。
副業をやることに対して理解がほしい
専門性のあるスキルを活かした副業の解禁。
副業制度を認めることで社員の選択の自由を広げて、かつ副業も行う社員がいることを多様性の一つとして特別視せずに認めてほしい。
残業を減らして欲しい
リスキリングに時間を割くためには、日常業務後の自由な時間が必要である。リスキリングをするために、多くの労働者が残業の削減を望んでいる。裏を返せば、残業の多さがリスキリングへの取り組みを妨げる大きな要因の一つであるといえる。
仕事が忙しく時間が取れないので、業務の効率化を図り時間を作れるようにしてほしい
研修等の機会があっても、普段の業務量が多くなかなかチャレンジできない
e-learning、研修を充実させてほしい
リスキリングのための手段として、e-learningへの期待が高まっている。労働者は、仕事の合間や自宅で自分のペースで学習できる環境を望んでおり、会社によるプログラムの充実が求められている。また、社内研修により社内でリスキリングを完結させたいという声もあがった。
リスキリングの社内研修をして欲しいです
社内研修を詳しく丁寧にやってほしい。
部署移動をしたい
新しいスキルを活かせる部署への異動や、リスキリングを契機としたキャリアチェンジを望む声もある。部署間での移動機会を増やすことで、労働者のモチベーションアップとキャリアの多様性を促進することができるだろう。
スキルを取得したら、希望を聞き配置転換をしてほしいと思います。
学んだところで学んだものを使える部署に移れる保証はない
その他
リスキリングどころかOJT以外の研修制度や学習支援も不十分であるため、まずは継続学習に対するサポートを充実させてもらいたい。
社内の設備や人材にもっと投資して効率化を図ることは、長い目で見ると会社のためになると気づいてほしい。経費を抑えるばかりでは会社は成長しない。
リモートワークなどの新しい働き方も導入されているため、本社・地方問わず新たな知識を身につけることとそれによるキャリアの幅を明示してもらえると嬉しい。
上記で挙げた意見以外にも、このような意見が出た。
企業は、従業員の継続学習とキャリア開発を支援するための総合的な戦略を開発する必要があることがわかる。これには、OJT(On-the-Job Training)以外の研修制度や学習支援プログラムの充実、社内の技術と人材への投資、そして従業員が新しい知識を身につけ、キャリアの可能性を拡大できるような働き方の導入が含まれる。
これらの施策は従業員の満足度と生産性を高め、企業の成長と競争力を促進するために不可欠である。
リスキリスキリングの現状と課題: 労働者の声に耳を傾けよう
リスキリングへの取り組みは、労働市場の変化に対応し、キャリアの可能性を広げる重要なステップである。
しかし、今回の調査では、労働者が直面している多くの障壁が明らかになった。労働者のリスキリングに対する熱意はあるものの、具体的な学習方向性の不明瞭さ、支援体制の不足、企業内のリスキリング環境の整備不足などが、リスキリングへの取り組みの障害となっている。
企業は、従業員のリスキリングを積極的にサポートすることで、個々の成長だけでなく、組織全体の競争力向上にも繋がることを理解し、対策の充実を図るべき時である。
調査概要
項目 | 詳細 |
調査名 | リスキリングに対する社員の人々の意見調査 |
対象者 | 会社で働く社員の方々 |
対象地域 | 全国 |
調査方法 | インターネット調査 |
調査機関 | 2024年3月5日〜3月12日 |
回答数 | 163 |
※データは小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。
調査結果の引用・転載について
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