リスキリング レポート

簿記資格取得の実態調査

更新日:

調査: スキルアップ研究所

キャリアアップや転職に向けて資格取得を考える時、多くの人が検討する「簿記」。経理・会計の基礎知識として広く認知されているだけでなく、企業の経営状態を読み解くスキルとしても注目を集めている。実際に、年間約20万人が日商簿記検定に挑戦しているといわれている。

しかし、実際の簿記資格取得者の学習目的や、取得後のキャリアへの影響については、具体的な実態が見えにくいのが現状である。そこでスキルアップ研究所では「簿記取得の実態調査」を実施し、簿記資格取得の現状と、その価値について考察した。

なお、この調査を参考におすすめの簿記講座についても紹介している。

「簿記取得の実態調査」結果のポイント
  • 簿記取得者の9割が2級または3級を取得しており、半数以上が働きながら資格を取得している
  • 学習手段では市販教材を使った独学が6割を占める一方、満足度が最も高いのは通学講座
  • 資格取得の目的は6割以上が仕事関連だが、目的によって満足度に差がある

【調査概要】

項目

詳細

調査名

簿記取得の実態調査

対象者

20代~60代の日商簿記資格保持者

対象地域

全国

調査方法

インターネット

調査期間

2025年1月19日~1月26日

回答数

300


簿記資格取得の現状と実態

調査対象者の簿記級数

「最も直近で取得した日商簿記資格を教えてください。」という質問に対し、41.7%が「2級」、52.3%が「3級」と回答した。

今回は調査対象者の90%以上が簿記2級または3級を取得しており、資格の実用性と難易度のバランスが割合に反映されているとも考えられる。

半数以上が働きながら資格を取得

「直近に簿記を取得した際の状況について教えてください」という質問に対する回答を見ると、回答者の半数以上がフルタイムで働きながら簿記を取得していることが明らかになった。

フルタイムで働きながらの資格取得は難しいイメージを持たれがちだが、実際には多くの方が仕事と資格の学習を両立している。本人の工夫や周囲のサポート次第で簿記資格取得は十分に可能であるといえる。

勉強時間の確保の仕方はそれぞれ

上記の質問に続いて、「その状況で、どのようにして勉強時間を確保しましたか?」という質問をすると、5.7%が「夜間(仕事・家事後)の時間を活用した」、19.7%が「休日のまとまった時間を活用した」、19.3 %が「スキマ時間を活用した」という回答になった。

これらの結果から、個々人がそれぞれのライフスタイルや状況に応じて柔軟に学習時間を生み出していることがわかる。

簿記取得にかかる費用は7割が1万円以下

簿記取得にかかった費用について調査したところ、「1円以上5000円未満」が36.2%、「5000円以上1万円未満」が29.7%と、全体の約7割が1万円以下だった。

この結果は、多くの人が市販教材や比較的安価な通信講座、通学講座などを利用していることを示唆している。個人の予算や学習スタイルに合わせて、最適な学習方法を探すことが重要だろう。

簿記3級の平均的な勉強時間

「簿記3級取得にかけた勉強時間を教えてください」という質問に対し、回答者の23.3%が「10~30時間」、33.6%が「30~50時間」と回答しており、一般的な学習時間は10〜50時間程度と比較的短時間であることがわかった。

一方で、簿記3級の合格率は40%前後であり、受験者の半数以上が不合格となっている。簿記3級の取得を目指す方は、自身の学習レベルや知識に応じて、これらの数値を参考にしながら計画的に学習を進めることを意識すべきだろう。

簿記2級の平均的な勉強時間

「簿記2級取得にかけた勉強時間を教えてください」という質問に対し、回答者の29.6%が「50~100時間」、26.7%が「100~150時間」と回答しており、一般的な学習時間は50〜150時間程度であることがわかった。

簿記3級と比較すると、学習時間の分布がより多様であり、受験者の習熟度に大きな差があることが推測される。簿記2級を目指す方は、自身の学習レベルや知識を過信せず、学習時間だけでなく質も意識するようにしよう。

簿記1級の平均的な勉強時間

簿記1級は、合格率が10%前後と非常に低い難関資格である。サンプル数は少ないが、人によって学習時間にばらつきがあることがわかった。2級レベルの知識を既に習得している前提があるため、実質的な学習時間はさらに長いことが推測される。

1級は学習範囲が広く内容も高度であるにもかかわらず、試験時間は非常に短いため、受験者には早く正確に解答する能力が求められる。1級を目指す方は、苦手分野を徹底的に克服し、ミスのない問題演習を重ねることが合格への鍵となるだろう。

簿記取得の目的と効果

簿記取得の目的は6割以上が仕事関連

簿記資格の取得目的について調査したところ、「会計の基本知識の習得」が32%で単独では最多となった。しかし、「就職・転職に活かすため」「現在の業務に必要」「副業での活用」といった仕事関連の目的を合わせると60%以上に達し、実務での活用を見据えた資格取得者が大半を占めることが明らかになった。

このことから、簿記資格が実務的なスキルとして広く認識されていることが浮き彫りとなった。

目的によって感じる達成感に差が出る

上記質問に続いて、簿記資格をとってその目的は達成することができたかどうかを調査したところ、取得目的によって効果の実感度に顕著な差が見られた。

「会計の基本知識の習得」や「現職での活用」を目的とした回答者の8割以上が「目的を達成できた」「やや達成できた」と評価している一方で、「就職・転職活動への活用」を目的とした回答者からは否定的な評価が多く寄せられた。4割以上が「思わない」「全く思わない」と回答しており、期待した効果が得られていない状況が明らかとなった。

この背景には、取得した簿記の知識が就職・転職後の実務で活用できていないケースが多いことが考えられる。企業の採用要件や優遇条件(選考上の優位性や給与面での優遇)として簿記資格が掲げられていても、実際の業務では活用機会が限られている可能性がある。

このことから、就職・転職に際しては、漠然とした必要性から資格取得を目指すのではなく、志望先での簿記スキルの具体的な活用場面を十分に見極めることが推奨される。

会計の基本知識がつくのはもちろん、自己成長に繋がる

「簿記資格をとって役に立ったことを教えてください。」という質問に対し、57.9%が「会計の知識が増えた」、38.2%が「資格取得そのものが自己成長につながった」と回答した。この結果からは、簿記資格の価値が単に会計知識を身につけることだけでなく、資格取得に向けて努力する過程そのものが絶えず向上心を持ち続ける前向きな姿勢を育むきっかけとなっていることがうかがえる。

簿記が仕事にもたらす最大の効果は財務状況の理解

簿記資格取得後の仕事への影響については、多くの回答者が前向きな効果を実感している。

具体的には、28.6%の回答者が「会社および部門レベルでの財務状況の理解が深まった」と述べ、21.2%は「業務範囲の幅が広がった」と回答した。一方で、職場での評価や昇進、資格手当や収入の増加といった直接的な利益を感じている人は少数派で、それぞれ7.9%、6.9%にとどまった。

この結果は、簿記資格が専門知識やスキルを高め、仕事への理解を深める一方で、すぐに昇進や給与アップにつながるわけではないことを示唆している。多くの回答者にとって、簿記資格の価値は目に見える短期的な利益よりも、むしろ長期的な職業能力の向上にあると解釈できる。

簿記取得の学習方法と選択基準

簿記の学習手段、市販教材が6割を占める

簿記資格取得時の学習方法を調査したところ、「市販の教材を活用した」との回答が57.9%と最も多く、約6割の取得者が独学での学習を選択していることが判明した。

また、講座形式での学習については、通学(対面)形式が20.3%、通信(オンライン)形式が13.0%となり、対面での学習を選ぶ傾向が強いことも明らかとなった。

これらの学習手段による満足度の違いや、その要因については、さらなる分析を進めていく。以下で調査していきたい。

満足度が一番高いのは通学講座

上記質問に続いて、その人が利用した学習手段に対する満足度を調査したところ、市販教材、通信講座、通学講座のいずれにおいても85%以上の回答者が高評価を示した。特に通学講座は「満足度が高い」との回答が30%を超え、最も高い評価を得た

通学講座は選択肢の中では最も費用がかかる学習方法だが、その分だけ質の高いサービスが提供されていることが、この満足度の高さからも裏付けられている。投資に見合う価値が実感されていると言えるだろう。

学習手段ごとのメリットを比較

利用した学習手段の満足度が高い・やや高いと回答した利用者に対し、その理由を調査したところ、学習手段によって違いが見られた。

市販教材では「コストパフォーマンスの良さ」が最も高く、次いで「内容の理解しやすさ」が評価された。一方、通信講座では「内容の理解しやすさ」が首位となり、「コストパフォーマンスの良さ」が続いた。通学講座においては、「内容の理解しやすさ」が最も評価され、次に「試験対策の効率性」が挙げられていた。

これらの結果から、学習手段を選択する際は、学習内容のわかりやすさ、学習効率、コストパフォーマンスのどれを重視するかを考慮することが重要といえる。個人の優先順位に応じて最適な選択が異なってくるだろう。

なお、満足度が低い回答者の理由についても調査したが、サンプル数が少なく傾向を結論づけるには不十分であるため、今回は割愛した。

再受験では通学講座の選択率が減少

「再び簿記を取得するとなった際の主な学習手段は何にしますか」という質問に対し、54.4%が「市販の教材」と回答した。この割合は、「簿記資格取得の際の主な学習手段について教えてください」という質問の結果とほとんど変わらなかった。

一方で、通信講座と通学講座の割合には大きな変化が見られた。通信講座は13%から20.7%に増加し、通学講座は20.3%から7.3%に減少した。

この背景としては、簿記を取得する際に「費用が少しかかり過ぎてしまった」と感じた人や、「思ったよりも手厚い対面サポートなしで自律して学習に取り組めた」と感じた人が多かったことが考えられる。

過去問演習が簿記合格の鍵

「簿記取得に向けて学ぶ際に最も重視するべきポイントを教えてください」という質問に対し、回答者の48%が「過去問演習の徹底」を挙げており、他の選択肢を大きく引き離した。

この結果は、過去問演習が簿記試験対策において極めて重要であることを明確に示唆している。過去問を通じて、出題パターンや頻出分野、設問の特徴を的確に把握することが、合格への重要な鍵となるでしょう。

簿記資格、取得するなら2級以上が理想

簿記資格を勧めたい人が8割以上

「簿記資格取得を他者に勧めたいと思いますか?」という質問に対し、15.3 %が「強く勧めたい」、68.7 %が「勧めたい」と回答し、合計で83.9%の人が簿記資格の取得を肯定的に捉えている

この結果は、簿記資格が多くの人にとって有益なツールであることを明確に示唆している。

目指すなら2級以上、最低でも3級

上記の質問で「強く勧めたい」「勧めたい」と回答した方に、「簿記資格取得を他者に勧める際に最低取得級の目安はありますか?」と質問をしたところ、39.1 %が「2級以上」、36.1 %が「3級以上」と回答した。

この結果から、可能であれば2級以上の取得が望ましいものの、3級でもある程度のメリットを享受できると考えられる。

課題と展望

調査結果から、簿記資格は多くの人にとって実用性が高いスキルであり、特に2級と3級が人気であることが明らかになった。また、資格取得者の半数以上が働きながら勉強を進めており、市販教材を使った独学が主流である一方、通学講座は高い満足度を得ていることもわかった。取得目的の多くが仕事に関連しており、財務状況の理解や自己成長など長期的な効果が資格の価値を高めていることも示唆された。

これらの結果から、簿記資格は個人のキャリア形成や業務スキルの向上において有益なツールであるといえる。今後、働きながら学ぶ人々や独学で学ぶ人々のニーズに合わせた学習環境やサポートの充実が求められるだろう。

また、取得者が実際の職場で資格を活かせるよう、企業側も資格取得の意義を再評価し、スキルを活用する機会を増やすことが望まれる。資格取得者自身も、目的を明確にしながら、その価値を最大限に活用する意識を持つことが重要だ。

調査結果の引用・転載について

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