近年の生成AIの台頭に伴い、我々はAIが実際に一定の職業を代替するような時代に入ろうとしている。AIは更なる発展により、「人間のみが司る領域」とされてきた思考力や発想力、推論能力をも脅かす存在になりつつある。
こうした背景から、どのようにAIと共存し、またどのように人間独自のスキルや付加価値を生み出すかどうかが重要になる時代に、我々は生きていると言える。
そこで今回は「AI時代の職業意識」に焦点をあて、社会人を対象にAIの台頭に関する意識や、AIに代替されない人材になるための努力、将来的な人材育成についてアンケート調査を行った。
- スキルアップやリスキリングの必要性を感じている人が多数
- AIに代替されないため、コミュニケーション能力向上へ努力する人が多数
- 新たな人材育成においても、コミュニケーション能力と適応力を重視
【調査概要】
項目 | 詳細 |
調査名 | AI時代の職業意識に関する実態調査 |
対象者 | 20代以上の社会人 |
対象地域 | 全国 |
調査方法 | インターネット調査 |
調査期間 | 2024年10月10日〜2024年10月17日 |
回答数 | 500(男性197、女性298、非回答5) |
AIの台頭に関して、スキルアップ・リスキリングの必要性を感じている人が多数
回答者の66%がスキルアップやリスキリングの必要性を実感
「業務におけるAIの台頭について、スキルアップやリスキリング(学び直し)をする必要性を感じていますか」という質問に対し、14%が「強く感じている」52.2%が「感じている」と回答し、66%以上の人がスキルアップやリスキリングの必要性を感じていることが明らかになった。
AIを脅威と捉えたり、抵抗感を覚える人は少ない
「AIの台頭について、業務における脅威だと感じていますか」という質問に対して、「あまりそう感じていない」、「全くそう感じていない」と回答した人が合わせて55.7%となり過半数の人がAIを脅威だとは感じていないことが明らかになった。
また、「AIと一緒に働くことに抵抗はありますか」という質問に対しては、「あまり抵抗はない」、「全く抵抗はない」と回答した人が合わせて67%となり、AIが業務の一部に介入することに抵抗感を抱いている人も少ないことが判明した。
企業で働く人々に「AIは職場の業務を担う存在」であるという感覚や認識が広がっていると言える。
AIの台頭についてチャンスだと捉えている人は多くない
「業務におけるAIの台頭について、チャンスだと感じていますか?」という質問に対して、9.4%が「強くそう感じている」、37.6%が「そう感じている」と回答。
AIの台頭を利用するチャンスとして捉えている人はまだ多くないことがわかった。
チャンスと捉えている人は特に業務改善に期待
業務におけるAIの台頭についてチャンスだと捉えている人に対し、「どのような意味でチャンスだと感じていますか?」と尋ねたところ、61%の人が「業務効率改善のチャンス」と回答した。
一方で、「AIを活用して新たなビジネスを始めるチャンス」と回答した人は23.3%、「AIフリーランスとして独立するチャンス」と回答した人は3.3%にとどまり、個人としてのAIのビジネス利用はまだ浸透していないことが分かった。
AIに任せたい業務はデータ関連が最も多い
「AIにはどのような業務を任せたいですか」という質問については、「データ分析」と回答した人が40.4%で最も多く、次いで「データ処理」と回答した人が30.6%と、データ関連の業務が圧倒的に多かった。このことから、現在AIの利活用が最も期待されているのはデータ関連だと分かる。
上記で確認したようにAIを業務効率改善のチャンスとして捉えている人が多いことからも、AIに任せたい業務内容の傾向は理解できる。データ解析・処理のスピードや正確性では、人間はAIに勝ることはなく、活用していかなければ遅れを取るだろう。
AIに代替されないためにコミュニケーション能力向上に取り組む人が多数
AIに代替されない人材になるための努力を調査
「 AIに職場で取って代わられないためにどのような努力をしていますか」という質問に対し、18.2%が「コミュニケーション能力の上達」と回答し最も多かった。また、15%が「アイデアや発想力の強化」と回答した。
コミュニケーション能力や発想力の強化・上達に取り組む人が多いことは、感情を読み取ったり革新的なアイデアを考えるなど、人間独自の価値を重視する傾向だと考えられる。
また、知識・技術の研鑽、柔軟性や適応力の向上、リーダシップの育成をあげる人も多く、業務へのAIの参入という大きな環境変化に対して人間独自の価値を重視する傾向はここからも見受けられた。
さらに、「特に何もしていない」と回答した人が32.6%と全体の約3分の1に当たることは、注目に値する。AIが台頭し、業務に参入するようになったのは近年のことであり、AIに代替されないための努力は決して一般的ではないことがうかがえる。
ただし、これからのAIの更なる発展を考慮すると、AIに取って代わられないための研鑽を意識的に行なっていくの重要性は高まっていくと言える。
特に何もしていない人もコミュニケーション能力の必要性を実感
上記の「AIに職場で取って代わられないためにどのような努力をしていますか」という質問に対し、「特に何もしていない」と回答した人を対象として「どのような努力をする必要性を感じていますか」という質問をした。
この質問に対し、15.6%が「コミュニケーション能力の上達」と回答し最も多かった。次いで、13.5%が「アイデアや発想力の強化」、13%が「柔軟性や適応力の向上」と回答した。
こうした結果から、やはりコミュニケーション能力やアイデアの発想といった人間独自の能力を伸ばすことの重要性を感じている人が多いと言える。
AIとの共存にリスキリングが重要だと考える人が多数
「AIと共存していくためには、リスキリングはどれほど重要だと思いますか?」という質問に対し、22.7%の人が「非常に重要」、63.7%の人が「重要」と回答し、合計で86.4%と大多数の人がリスキリングの重要性を認知していることが分かった。
これは、AIができる業務の幅が広がったことで効率性が求められる中、従来のスキルを学び直す動きやAIに関する知識の学び直しをする人が増えた傾向を反映していると考えられる。
AI時代の人材育成では、コミュニケーション能力や適応力が重視される
AIと共存できる人材には柔軟性や適応力が重視
「AIと共存できる人材を作るためには何が重要だと思いますか?(複数回答可)」という質問には500人中60%以上にあたる306人が「柔軟性や適応力」と回答し最も多かった。次いで、「コミュニケーション能力や対人関係スキル」と回答した人が276人、「アイデアや発想力」と回答した人が272人だった。
また、「AIと共存できる人材を作るために最も重要だと思うのは何ですか?」という質問に対しては、27%が「柔軟性や適応力」と回答し最も多かった。
これらの結果から、AIと共存できる人間に必要な能力は、新たな環境に柔軟に適応できることであると考えている人が多いと分かる。また、これまでと同様に「人間的な」能力としてのコミュニケーション能力や発想力を重要視する傾向も見られた。
AIとの共存には幼少期からの教育も重視
「AIと共存する能力を身につけるために、幼少期からの教育を整備するべきだと思いますか?」という質問に対し、14.4%が「強くそう思う」、57.5%が「そう思う」と回答した。7割以上の人が幼少期からの教育について重要だと考えていることが分かる。
AIの急成長という大きな環境の変化に適応できる人材を教育するためには、従来の教育方針を改善することが必要だと考えられる。
幼少期教育の内容では、AIの知識や技術やコミュニケーション能力が重視
「AIと共存するために、幼少期にはどのような教育が最も重要だと思いますか?」という質問に対しては、31.2%が「AIに関する知識や技術」、24.8%が「コミュニケーション能力」と回答した。
幼少期教育でもコミュニケーション能力は重要視されていることに加え、AIに関連する知識・技術を幼少期から教育することがAI時代に活躍する人材を育成するにあたって重要だと考えている人が多いことが判明した。
社会人に対するAI関連の教育整備への潜在需要は高い
「AIと共存する能力を身につけるために、企業や行政が社会人に対する教育を整備するべきだと感じますか?」という質問に対し、16%が「強くそう感じる」、63%が「そう感じる」と回答。約8割の人がAIと共存していくための社会人への教育を求めていることが分かった。
これは、現在の業務に加えて自主的にAI関連の知識や技術を学んだり、コミュニケーション能力を伸ばそうとすることは難しい現状を反映していると考えられる。企業や行政による、トップダウンでのAI関連知識・技術の普及が求められる。
社会人に対する教育では、AI関連の知識・技術が求められる
「企業や行政が社会人に対する教育をする場合、何に注力するべきだと考えますか?」という質問については、「AIに関する新しい知識や技術の習得」と回答した人が34.7%で最も多く、ついで「柔軟性や適応力の向上」と回答した人が16.9%だった。
これらの結果から、社会人においてもAIに関する知識や技術不足を実感し、新しく学んだり学び直したりする必要性を感じている人が多いことがよく分かる。
総括
今回の調査で、AIの台頭に際して約7割の人がリスキリング(学び直し)の必要性を感じていることや、AIに代替されない人材の特徴としてコミュニケーション能力や適応力が重視されていることが明らかになった。
今後は、リスキリングやコミュニケーション能力強化の具体的な内容や、AIに関する知識・技術の教育レベルなどについてのより詳細な調査が求められる。
AI業界では、従来のようなデータ処理の速さに特化したAIだけでなく、推論的な能力や人間の感情を読み取る能力に長けたAIの開発が急速に進む中、人工知能研究界ではAIが人間の知性を超える「シンギュラリティ」が2045年までに起こるという見方が有力である。
その中で、現在ではAIはデータ関連業務に主に使われるという見方が一般的であり、AIが持たない人間独自の能力として「コミュニケーション能力」や「柔軟性・適応力」を想定している人が最も多い。
今以上にAIが発展し、情報処理能力だけでなくコミュニケーション能力や発想力においても人間を上回る新たなAI時代が到来した時に、どのような雇用創出をするのか、その社会で生き延びるために我々はどのような努力をするべきなのか。AI業界の動向に常に気を配り、自らが社会に還元する価値について考え続けることが求められている。
調査結果の引用・転載について
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