ITスキルの習得を目指すリスキリングが注目されている。経済産業省はデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に対応するため、社会人のリスキリングを推奨している。
しかし、実際にITスキル習得を意識してリスキリングに取り組んだ社会人がどのような手段を用い、どのような効果や課題があったのかはあまり知られていない。
そこで、スキルアップ研究所では今回、IT分野でのリスキリングの取り組みに関する実態調査を行い、結果を分析した。
IT分野でのリスキリングを行うのは半分ほど
スキルアップの際にITスキルの向上に取り組んだかを尋ねたところ、「はい」と回答した人は42.8%、「いいえ」と回答した人は57.2%だった。
IT分野への取り組み率は非常に高いことが分かった一方で、経産省が推進している中、まだまだ取り組み率に伸び代が窺える結果となった。
ITの将来性を考慮してリスキリングする人が多い
一方で、ITスキルの向上に取り組む決断要因を見ると、「ITスキルの将来的な需要」が54.7%と最多だった。ITの将来性を見据えてリスキリングに取り組む人が多いことがうかがえる。「自身の興味」(47.3%)も上位要因となっており、ITへの関心の高さも伺える。
経済産業省のDX化推進が直接的に影響している人は少なかった。しかしITの将来性の告知という面では、間接的に影響していると考えられる。
プログラミングに取り組む人が最多
具体的なスキルとしては「プログラミング」(44.8%)への需要が最も高かった。
加えて、「情報セキュリティ」(28.4%)や「ITリテラシー」(30.3%)など、現代社会で求められるITスキルにも注目が集まっていた。
ITスキルを取得したことによるメリット
ITスキルの習得によるメリットとして、最も多かった回答は「自己学習と成長」で49.8%を占めた。次いで「業務の自動化と効率化」が44.3%と高い割合となった。ITスキルを身につけることで、業務プロセスの改善や日々の作業効率が上がるなどの実務面でのメリットを実感している人が多数いることがわかる。
その一方で、「問題解決能力の向上」「コミュニケーションの向上」「創造性とイノベーションの促進」など、ITスキル習得による副次的な効果も少なくない。ITリテラシーを高めることで、様々な分野での能力向上につながっているようだ。
直接的な恩恵として、「キャリアアップと給与の向上」を挙げた人も16.9%いた。ただし、「直接的なメリットはなかった」と回答した人も13.9%を占める。
年収増加・キャリアアップには個人差あり
実際に年収が増加したかを尋ねたところ、「明確にITスキルの向上によって増加した」は8.6%にとどまり、「部分的に増加した」とする人も23.7%にすぎなかった。一方で、「増加していない」と回答したのは56.1%にのぼった。
また、明確にITスキルの向上によってキャリアアップできた」と答えた人は10.6%にすぎず、「一部影響があった」とする回答も27.1%と3割に満たなかった。約6割の人が、「キャリアアップしていない」(50.8%)または「キャリアアップしたがスキルアップとは関連がない」(11.6%)と回答している。
求められる環境整備
ITリスキリングが推奨される中、年収増加やキャリアアップの点でメリットを実感できていない人が多いことがわかった。DXの進展に伴い、ITのリスキリングが重視されているだけに、現状のままではこの先のリスキリングへの取り組みが失墜してしまう可能性が危惧されるのではないだろうか。
ITスキルの重要性が高まる中で、ITスキルが正当に評価され、キャリア形成にも役立つような環境整備や、働き手のモチベーションを維持し、スキルを適切に評価する仕組みづくりが必要となる。
8割超の人が独学でITスキルを勉強
ITスキル向上の取り組み方について、調査対象者の84.2%が「ITスキルの向上に際して独学で取り組んだ」と回答した。
ITスキルのリスキリングにおいて、独学が圧倒的に主流となっていることがわかる。
オンラインコンテンツでの独学が主流
独学で用いた具体的な手段を見ると、「インターネット上のサイト」(67.9%)、「YouTubeなどの無料動画」(53.9%)、「書籍」(59.4%)といったオンラインコンテンツが上位を占めた(複数回答)。一方、「企業の研修」を活用したのはわずか9.1%にすぎなかった。
このように、オンライン上の学習リソースの充実が、ITスキルの習得における独学の広がりを後押ししている。費用をかけずに様々なコンテンツにアクセスでき、時間的制約も少ないことが人気の理由だろう。複数の手段を組み合わせて効果的に学習している人も多いようだ。
パソコン1台あれば誰でも手軽に学べる環境が整ったことで、独学でITスキルを身につける機会が格段に広がった。一方で、適切な学習法の選択や習熟度の把握など、一人で解決しにくい課題も存在する。ITリスキリングの質を高める上では、企業研修などの独学を適切にサポートする仕組みが求められそうだ。
仕事との両立に苦労する人が多い
ITスキルの独学における最大の困難は、「仕事との両立」であり、回答した人は47.3%と最多となっている。また、「時間が足りない」(39.4%)、「モチベーション維持」(42.4%)も上位に挙げられており、社会人が本業の合間を縫ってITスキル習得に取り組むことの難しさがうかがえる。
他にも「難易度が高い」(31.5%)、「適切な学習法がわからない」(32.1%)など、独学の課題も多く指摘された。
企業として、社員のITリスキリングを支援するには、学習時間の確保や適切な教材・メンターの提供など、効果的な環境づくりが求められそうだ。個人だけでなく、組織的な後押しが重要になってくるだろう。
通学だとオンラインスクールが7割を超える
一方、独学以外の選択肢としては、ITスキルに関する「オンラインスクール」(74.2%)が最多だった。通学に関しても時間的制約を抑えたオンラインが主流のようだ。
ITリスキリングは独学・通学を問わず、オンラインが中心的役割を果たしている。費用対効果が高く、利便性にも優れているためだろう。今後はオンラインコンテンツのさらなる充実が期待される。
難易度の高さからIT分野のリスキリングを躊躇う人が多い
ITスキルを学ばなかった理由として、最も多かったのが「難易度が高そうだから」で44.6%を占めた。ITリテラシーを身につけることへの心理的ハードルが非常に高いことがうかがえる。
また、「何から始めていいかわからなかった」も36.1%と多く、ITスキル習得の入り口が分かりにくいことも障壁になっているようだ。
分かりやすい学習フローを構築し、多様な学習者に合わせたコンテンツを用意することで、心理的ハードルを下げることが必要になるだろう。
他分野でのリスキリング者も8割超がITへの学習意欲あり
他分野でリスキリングを経験した人に対して、ITスキルの学習意欲を尋ねたところ、82.3%が「はい」と回答した。ITへの関心は非常に高いことがわかる。
ITスキルの習得を妨げている主な要因を取り除けば、多くの人が学習に取り組む可能性があることがうかがえる。
今後の展望・課題
DXの潮流の中で、社会からITスキルの重要性が高く求められている状況は確かだ。実際に本調査でも、リスキリングを行う人の約4割がIT分野でのスキルアップに取り組んでいることがわかった。
しかしながら、ITスキルの習得が必ずしも年収増加やキャリアアップに結びついているわけではない。これではITリテラシーが適切に評価されているとは言えず、DXを実現する人材の確保が難しくなってしまう。
また、多くの人が取り組みづらさや、時間的な余裕のなさを抱えていることも明らかになっている。
ITリスキリングへの意欲は社会に潜在的にある。しかし、意欲だけでは不十分だ。企業、教育機関、行政が一丸となって、学びやすい環境を構築する必要があるだろう。
調査概要
項目 | 詳細 |
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調査名 | ITスキルに関するリスキリングの実態調査 |
対象者 | 20代以上の社会人の方で、スキルアップに取り組んでいる方 |
対象地域 | 全国 |
調査方法 | インターネット調査 |
調査期間 | 2024/3/7~3/14 |
回答数 | 470 |
調査結果の引用・転載について
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