リスキリング レポート

企業研修によるリスキリングの実態調査

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調査: スキルアップ研究所

近年、AI・デジタル技術の急速な進化に伴い、既存の職務や業務プロセスが大きく変容する中で、リスキリングが大きな注目を集めている。社員一人ひとりが新しいスキルを身に付けることで、企業が社会環境の変化に対応できると考えられている。

こうした機運を受け、国も2022年10月に「人への投資促進に向けた制度整備」を発表し、5年間で1兆円のリスキリング支援や、年功序列型の職能給からジョブ型の職務給への移行を打ち出した。

企業に対しても、社員を「人的資本」と見なして育成・活用することを促している。

実際、多くの企業が自社の将来を見据え、社員のリスキリングを奨励する流れができつつある。DXの推進やイノベーション創出に向けて、企業は既存事業の変革とともに、社員の能力向上を重視するようになってきている。

そこで今回、企業研修における実際のリスキリング施策について、その内容や期間、社員の満足度などを調査した。そして、企業と社員の双方の視点から、リスキリングの実態と課題を明らかにした。

「企業研修によるリスキリングの実態調査」結果のポイント
  • ITリテラシー・DXとコミュニケーションスキルが多数
  • 3ヶ月未満の研修が過半数
  • 7割以上がリスキリング研修に満足

ITリテラシー・DXとコミュニケーションスキルが多数



企業研修でメインで実施されたリスキリングの中身については、「ITリテラシー・DX」(31票)が最多となり、次いでコミュニケーションスキル(30票)となった。

従来の企業研修のメインであった「コミュニケーションスキル」(30票)に加えて、DX社会に適応するためのITリテラシー・DXが企業研修として浸透していることがわかる。その他にも「Chat-GPT」などの登場により急激に身近になった生成AIを用いた「汎用的なAIスキル」(9票)も企業研修に取り入れられ始めていることがわかった。

研修期間は3ヶ月未満が過半数


企業研修でのリスキリングの期間を尋ねたところ、「1ヶ月以上3ヶ月未満」の回答が24人(26.1%)と最も多く、次いで「1ヶ月未満」の回答が23人(25.0%)となった。

「1ヶ月未満」と「1ヶ月以上3ヶ月未満」を合わせた3ヶ月未満の回答が過半数となった。

また、1年未満との回答が全体の9割近くを占めた。これらのことから、企業研修におけるリスキリングは比較的短い期間で行われていることがわかる。

7割以上がリスキリング研修に満足



リスキリング研修に対する満足度を尋ねたところ、「非常に満足」との回答が14人(15.2%)で「ある程度満足」との回答が51人で55.4%となった。「非常に満足」と「ある程度満足」を足し合わせた割合は7割を超えた。

また、「少し不満がある」と「非常に不満」を足し合わせた割合が1割以下となっており、リスキリング研修の満足度は決して低くないことがわかった。

それでは、どのような要因が研修の満足度の向上につながっているのだろうか。

スキルアップの実感がカギ

スキルアップが実感できることが満足度を上げるために最も重要であることがわかった。

リスキリング研修の満足度を尋ねた質問に対し、「非常に満足」もしくは「ある程度満足」と回答した人に対して、「リスキリング研修の満足度を高める1番の要因について尋ねたところ、「スキルアップを実感したこと」と回答した人が23人で最も多かった。

つまり、リスキリング研修の内容自体に加え、研修後に社員が新たなスキルを発揮できる環境を整備し、適切に評価フィードバックがなされることが、満足度向上のカギとなる。企業は、単に研修プログラムを充実させるだけでなく、スキルアップの機会提供や評価プロセスの改善などを通じ、研修の成果を社員自身に実感してもらえる仕組み作りが重要だと言える。

回数・内容の不足が不満に

研修に満足できなかった1番の要因は何か尋ねたところ、「研修の回数が少なすぎるために内容が薄く何も身に付かなかった」と回答した人が8人で最も多かった。

企業の側もリスキリング研修が社員にとっての負担を考慮し、過度な重荷とならないよう配慮した結果、研修の満足度が低くなっているケースもあると考えられる。

業務のDXはどんな職種においても待ったなしの課題と言えるが、企業側も社員に対して身につけてほしいスキルの具体的な中身についてのイメージができておらず、内容が薄い研修になっているのではないかと考えられる。

評価との連動・費用の支援が必要


「リスキリングに意欲的に取り組むための環境づくりのために必要だと考えたこと」を尋ねたところ、「スキル習得と連動した評価制度」が36票、「スキル習得にかかる費用面の支援」が30票と多くの票を集めた。

また、環境づくりのための1番目に必要な施策として「仕事量の調節によりスキル習得を優先できる制度の整備」の声が多く挙げられた。

これらの結果から、「経営トップによるリスキリングの重要性の発信」や「職場の同僚や上司のリスキリングへの理解や励まし」といった職場内での企業研修・リスキリングに対する理解の促進などではなく、具体的な費用の支援やスキル習得と連動したインセンティブの構築が企業側に求められていると言える。
また、実務に活かせる程度の一定期間の支援を保証することを求める声も大きいことがわかった。

その時々の流行に乗るだけではなく、会社のコアとなる事業で必要とされるスキルを企業側が見極め、社員がリスキリングに本腰を入れて取り組めるような体制を整えることが求められていると言える。

企業研修の満足度を比較

対面・自社独自プログラムの満足度が高い


研修の実施形式別にリスキリング研修の満足度を尋ねたところ、「対面での自社独自プログラム」の満足度が最も高く、次いで「オンラインでの外部プログラム」の満足度が高かった。

対面での研修において、コミュニケーションスキルなどの定性的なスキルの研修を外部の講師に依頼した場合には、講師によってその研修の良し悪しが大きく左右される。
そのため、自社独自のプログラムの方が相対的な満足度が高くなったのではないかと考えられる。

オンラインの外部のプログラムの場合には、ITリテラシー・DXに関連する専門的なスキルを学ぶ取り組みなど、自社にはない視点やスキルを学ぶ機会となっており、満足度が高くなっていると推察できる。

中小企業の満足度が高い

リスキリング研修の満足度について会社規模別に尋ねたところ、1000名を超える大規模な会社に比べて、中・小規模の企業の方が満足度が高いことがわかった。

中・小規模の企業の方が、現場と会社の上層の距離が近く、身につけるべきスキルが明確になっていることが多いのではないかと考えられる。また、規模の大きな企業であれば、スキル習得が評価され昇進・昇給するには時間がかかるが、中小規模であればスキル習得後すぐに評価に繋がりやすいことが満足度を押し上げているのではないかと考えられる。

プログラミングとITリテラシー・DXの満足度が高い


プログラミングスキルや会計・金融スキル、ITリテラシー・DXスキルなど、リスキリングによって得られた知識を用いて自身のスキルアップや、業務レベルの向上を実感しやすいスキルの満足度が高いことがわかった。

一方で、マネジメント・チームビルディングスキルや汎用的なAIスキル、コミュニケーションスキルなどは自分自身のスキルアップを実感するのが難しく、相対的に満足度が低くなっているのではないかと考えられる。

企業研修におけるリスキリングの今後の展望

この調査結果から、従来のコミュニケーションスキルに加え、ITリテラシー・DXに関連するスキルの研修が企業において広く浸透していることがわかった。

さらに、企業研修におけるリスキリングの満足度は7割と決して低くはなく、特にプログラミング、会計・金融、IT リテラシー・DXなどのスキルについての満足度が高いことがわかった。

一方で、個々のリスキリング研修への満足度は高いものの、リスキリングに費やす期間や1週間に自身のスキル習得に割く時間は短い傾向にある。

このことから、企業側も社員側も、事業を大きく変革するほどの本格的な企業研修やリスキリングには踏み込めていないのが実情であると推察される。社員から「業務量の調整によりスキル習得を優先できる制度」を求める声があがっていることからも、企業側は「現在の業務をこなした上で、残りの時間でリスキリングに取り組んでほしい」という姿勢であると考えられる。

しかし、現状のままでは、その時々の流行に合わせた内容の薄い企業研修に終始してしまう恐れがある。デジタルトランスフォーメーションの推進や、人的資本を重視し最大限に活用することで中長期的な企業価値向上を目指すのであれば、自社に求められるスキルや能力を特定し、社員がリスキリングを通じて真のスキルアップを実現するための制度の充実が不可欠となるだろう。

調査概要

項目

詳細

調査名

企業研修によるリスキリングの実態調査

対象者

20代以上の社会人の方で、企業内でリスキリングを目的とした研修を受けたことのある方

対象地域

全国

調査方法

インターネット調査

調査期間

2024年4月28日〜5月5日

回答数

92

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