近年の慢性的な人手不足を受け、社内で人材育成に力を入れる企業が増加している。それを背景に、人材開発支援助成金や厚生労働省によるキャリア形成・リスキリング推進事業提供されるようになった。
そこで今回は、実際にどれほどの人が人材開発支援助成金やキャリア形成・リスキリング推進事業を認知し、また活用しているのかを企業に勤めている人を対象に調査した。
・人材開発支援助成金やキャリア形成・リスキリング推進事業の認知度は非常に低い
・リスキリングやスキルアップをしたい人は多い
・人材開発支援助成金やキャリア形成・リスキリング推進事業の満足度は高い
【調査概要】
項目 | 詳細 |
調査名 | 人材開発支援助成金およびキャリア形成・リスキリング推進事業に関する実態調査 |
対象者 | 企業に勤めている方 |
対象地域 | 全国 |
調査方法 | インターネット調査 |
調査期間 | 2024年10月8日〜2024年10月15日 |
回答数 | 500 |
人材開発支援助成金やキャリア形成・リスキリング推進事業の認知度・普及率は非常に低い
ほとんどの人が人材開発支援助成金・キャリア形成・リスキリング推進事業を「よく知らない」
「人材開発支援助成金について知っていますか?」という質問に対して、「よく知っている」と回答した人はわずか6.6%であった。
また、「厚生労働省が従業員のキャリア形成・リスキリングを無料でサポートしてくれる制度があることを知っていますか?」という質問に対して「よく知っている」と回答した人はわずか4.6%であった。
この結果からほとんどの人が人材開発支援助成金およびキャリア形成・リスキリング推進事業のことをよく知らず、半分以上の人が聞いたことすらないことが分かった。
人材開発支援助成金やキャリア形成・リスキリング推進事業の認知度は非常に低いと言える。
人材開発支援助成金やキャリア形成・リスキリング推進事業を活用している企業は極めて少ない
どれほどの人が人材開発支援助成金・厚労省無料サポートを職場で活用しているのか調査すると、「活用している」と回答した人はそれぞれ4.6%、4%であった。
この結果からほとんどの企業が人材開発支援助成金・厚労省無料サポート(キャリア形成・リスキリング推進事業)を導入していないことが分かる。人材開発支援助成金やキャリア形成・リスキリング推進事業の低さを考えれば、当然の結果と言える。
人材開発支援助成金/キャリア形成・リスキリング推進事業とは何か
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、事業主が従業員に職務に関連する専門知識や技能を習得させるための職業訓練をした際に、訓練費用や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度である。この制度は厚生労働省によって実施されており、労働者のスキル向上の支援を目的にしている。
人材開発支援助成金は、人材育成の目的やプログラムの内容に応じて異なり、以下の7つのコースが設けられている。
①人材育成支援コース
職務に関連した知識・技能を習得させるための訓練を実施した場合に助成される。従業員のスキルアップを図り、企業の生産性向上を支援するコース。
②教育訓練休暇付与コース
有給の教育訓練休暇制度を導入し、労働者がその制度を利用して訓練を受けた場合に助成される。従業員の自己啓発を促進し、キャリア形成を支援する。
③人への投資促進コース
デジタル人材・高度人材の育成や、労働者の自発的な能力開発などを支援するコース。企業の競争力強化と従業員のスキル向上を同時に実現する。
④事業展開等リスキリング支援コース
新規事業の立ち上げなどに伴い必要となる新たな知識やスキルを習得させるための訓練を実施した場合に助成される。企業の事業転換や多角化を人材面から支援する。
⑤建設労働者認定訓練コース
建設関連の認定職業訓練や指導員訓練を実施した場合に助成される。建設業界の人材育成と技術の継承を促進するためのコース。
⑥建設労働者技能実習コース
建設労働者に技能向上のための実習を有給で受講させた場合に助成される。建設現場の生産性向上と安全性確保を目指す。
⑦障害者職業能力開発コース
障害者の職業に必要な能力を開発・向上させるための教育訓練を継続的に実施する施設の設置・運営を行う場合に助成される。障害者の就労支援と職場定着を促進する。
(参考:厚生労働省 人材開発支援助成金)
人材開発支援助成金の助成額
人材開発支援助成金は、具体的には経費の補助や従業員の賃金の負担といった形で支援される。例えば、人材育成支援コースの助成額は以下の通り。
基本的には経費の半分近く、もしくはそれ以上の金額が助成され、大幅な経費削減につながることが分かる。また、助成額は訓練対象となった従業員の雇用形態によって異なる。
(参考:厚生労働省 人材開発支援助成金のご案内)
キャリア形成・リスキリング推進事業
キャリア形成・リスキリング推進事業は、事業主や個人がキャリア形成やリスキリングを効果的に行うために無料でサポートを提供する制度である。この制度は厚生労働省委託事業の一環として実施され、全国47都道府県に設置されたキャリア形成・リスキリング支援センターを通じて提供されている。
ジョブ・カードを活用したキャリアコンサルティングを通じて、労働者のスキル向上やキャリア形成を支援することを目的としている。ジョブ・カードとは、厚生労働省が定める様式で、個人のキャリア形成や職業能力証明を目的としたツールである。
キャリア形成・リスキリング推進事業は、個人向け、企業・団体向け、学校向けに分かれており、それぞれに適したサービスが受けられる。
個人向けサポート
- ジョブ・カードを活用したキャリアコンサルティング(60分)
- 訓練前キャリアコンサルティング
- 応募書類の書き方セミナー
- 自分の未来から考えるリスキリングセミナー
- ジョブ・カード活用セミナー
企業・団体向けサポート
- キャリアコンサルティングの実施支援
- キャリア研修の実施
- セルフ・キャリアドックの導入支援
- 雇用型訓練の実施企業への支援
- 人事・労務担当者向けオンラインセミナー
- 採用・人材育成・評価に関する支援
学校向けサポート
- ジョブ・カードを活用した学生のキャリア・プランニングサポート
- ジョブ・カード作成セミナーの実施
- 就職活動支援(企業研修や面接対策講座など)
- キャリア教育に関する支援
- 就職支援自己分析セミナーの開催
(参考:厚生労働省 キャリア形成・リスキリング推進事業)
キャリア形成・リスキリング推進事業の無料サポートは個人向けを活用している人が多い
厚生労働省の無料サポートを活用している20人に「どれを対象にした厚生労働省の無料サポートを利用しましたか?」という質問を行うと、「個人向け」と回答した人は65%、「企業・団体向け」と回答した人は50%であった。
この結果から個人向けの無料サポートを活用している人が若干多いことが分かる。個人向けの無料サポートは従業員個人の意志で活用できるので、企業・団体向けに比べてハードルが低いため、割合が高いと考えられる。
最も利用されている厚労省無料サポートはセミナー
厚生労働省の無料サポートを活用している20人に「 具体的にどのような厚生労働省の無料サポートを利用しましたか?」という質問を行うと、「セミナー」と回答した人が60%で一番多かった。
セミナーは個別相談と比べて気軽に参加でき、多くの情報を一度に得られる効率的な形式なので人気だと考えられる。
また、半分近い人がキャリア研修を受けており、キャリア研修も厚生労働省の無料サポートの中では人気のサービスと言える。
人材開発支援助成金およびキャリア形成・リスキリング推進事業の必要性について検証
人材開発支援助成金およびキャリア形成・リスキリング推進事業は、社内での人材育成を促進する制度であるが、社内での人材育成の重要性と、これらの制度の必要性について実際に検証を行った。
人手不足が課題となっている企業は非常に多い
「あなたの職場では人手不足が課題となっていますか?」という質問に対して「課題となっている」と回答した人は46.6%、「どちらかといえば課題となっている」と回答した人は38%であった。
この結果から8割以上の職場で人手不足が少なからず課題になっていることが分かる。
人手不足を解決するためには、もちろんより多くの人材を確保することが重要だが、社内での人材育成もまた一つの解決策だ。
そのため、多くの企業にとって人材育成が必要であると言え、人材開発支援助成金やキャリア形成・リスキリング推進事業の重要性も非常に高いと言える。
企業内での人材育成の文化・風習はまだまだ普及する可能性がある
「あなたの会社には人材育成の文化・風習がありますか?」という質問に対して「ある」と回答した人は全体の44%であった。
社内での人材育成の文化や風習が半数近くの企業に根付いているという結果は、一見すると多く感じられる。しかし、8割以上がなんらかの形で人手不足を課題に感じていることを考えると、人材育成の文化・風習の普及はまだまだ伸び代があると言える。
「人材育成」概念がさらに浸透すれば、人材開発支援助成金やキャリア形成・リスキリング推進事業の普及が進むことが期待できる。
人材育成の文化・風習のある企業は助成金・厚労省無料サポートを活用する傾向にある
「あなたの会社は人材開発支援助成金を活用していますか?」という質問に対して、人材育成の文化・風習のある企業の人は7.7%の人が「活用している」と回答し、人材育成の文化・風習のない企業の人は2.1%の人が「活用している」と回答した。
また「あなたの会社は厚生労働省の無料サポートを活用していますか?」という質問に対して、人材育成の文化・風習のある企業の人は5.9%の人が「活用している」と回答し、人材育成の文化・風習のない企業の人は2.5%の人が「活用している」と回答している。
この結果から人材育成の文化・風習のある企業は、人材育成の文化・風習のない企業に比べて人材開発支援助成金・厚生労働省の無料サポートを活用する傾向にあり、やはり人材育成の文化・風習の普及は助成金とキャリア形成・リスキリング推進事業の普及に重要であると言える。
ほとんどの会社員がスキルアップしたい・学び直したいと思っている
「仕事に関することでスキルアップしたい・学び直したいことはありますか?」という質問に対して、「ある」と回答した人の割合は83.4%であった。
この結果から、大多数の会社員がスキルアップや学び直しを望んでいることが分かる。従業員の労働環境改善やモチベーション維持の観点から、従業員の意志を尊重し、助成金や無料サポートを導入する必要性があると言える。
ただし、これらの制度は多くの場合、雇用主の判断で導入されるため、従業員が望んでいても必ずしも採用されるとは限らない。
半分以上の会社員がリスキリングの経験がない
「実際に仕事に関することでリスキリング(学び・学び直し)をした経験がありますか?」という質問に対して、「経験がない」と回答した人の割合は52.0%であった。
この結果から半分以上の会社員がリスキリングの経験がないことが分かる。会社員の8割以上がスキルアップしたい・学び直したいと考えているのに対し、実際にリスキリングができている人は少ないと言える。
時間と費用を理由にリスキリングできない人が多い
リスキリングの経験がない人に「リスキリング(学び・学び直し)をしていない理由を教えてください。」という質問を行うと、「時間がないから」と回答した人の割合は52.3%、「費用がないから」と回答した人の割合は42.3%であった。
この結果から、リスキリングにおける大きな障壁は時間と費用の問題であることが明らかになった。助成金や無料サポートを活用することで、企業はリスキリングのための時間を確保しつつ、コストを抑えることが可能であり、これらの制度は非常に有効と言える。
また、「どのように始めれば良いかわからない」という回答も多く見られ、これについても無料サポートのセミナーやカウンセリングで解決できることが分かる。
人材開発支援助成金およびキャリア形成・リスキリング推進事業の効果について検証
7割近い人が人材開発支援助成金・厚労省無料サポートを利用して良かったと思っている
人材開発支援助成金・厚労省無料サポートを職場で活用している人に対して、「人材開発支援助成金・厚労省無料サポートを利用して良かったと思いますか?」という質問を行うと、「良かったと思う」と回答した人はそれぞれ69.6%、65%であった。
7割近い人が人材開発支援助成金・厚労省無料サポートを利用して良かったと思っており、良くなかったと思っている人がほとんどいないことから、人材開発支援助成金・厚労省無料サポートは試してみる価値があると言える。
人材開発支援助成金・厚労省無料サポートは従業員の新たな技術や知識の習得に役立つ
職場で人材開発支援助成金・厚労省無料サポートを活用している人に「人材開発支援助成金・厚労省無料サポートを活用してどのような効果が出ましたか?」という質問を行うと、「従業員が新たな技術や知識を身につけた」、「従業員が現状の仕事をこなすためのスキルアップができた」という回答が多かった。
この結果から、人材開発支援助成金・厚労省無料サポートは従業員の新たな技術・知識の習得やスキルアップにつながることが分かる。
特に人材開発支援助成金を活用した人の6割以上が新たな技術・知識を習得できたと回答しており、表を見てわかる通り、人材開発支援助成金はより技術・知識が身につきやすいと言える。
人材開発支援助成金・厚労省無料サポートを利用していない人の実態
人材開発支援助成金・厚労省による無料サポートを知らなかった人には、人材開発支援助成金およびキャリア形成・リスキリング推進事業について理解してもらい、その上で人材開発支援助成金・厚労省無料サポートについてどう思うか検証した。
約3割の人が人材開発支援助成金・厚労省無料サポートを利用したいと思っている
職場で人材開発支援助成金・厚労省無料サポートを活用していない・活用しているか分からないという人に対して「人材開発支援助成金・厚労省無料サポートを利用したいと思いますか?」という質問を行うと、「利用したいと思う」と回答した人がそれぞれ30.4%、31.1%であった。
この結果からどちらも約3割の人が積極的に利用したいと思っていることが分かり、人材開発支援助成金やキャリア形成・リスキリング推進事業の認知度が広まれば、大幅に普及率が上がることが期待される。
新しい技術や知識の習得のために人材開発支援助成金を利用したい人が多い
職場で人材開発支援助成金・厚労省無料サポートを活用していない・活用しているか分からないという人に対して「どのような目的で人材開発支援助成金・厚労省無料サポートを利用したいと思いますか?」という質問を行うと、「従業員が新たな技術や知識を身につけるため」という回答がどちらも最も多かった。
「従業員が現状の仕事をこなすためのスキルアップをするため」など、他の回答も3割以上が選ばれており、人材開発支援助成金・厚労省無料サポートを利用してスキルアップや生産性の向上をしたいという人も多いことが分かる。
人材開発支援助成金およびキャリア形成・リスキリング推進事業は多岐にわたる効果が期待されており、さまざまな目的で活用したいと考えられている。
しかし、「従業員の生産性を上げるため」という回答が人材開発支援助成金・厚労省無料サポートで共に3割以上に達している一方で、実際に「従業員の生産性が上がった」と答えた人は1~2割にとどまっており、制度の利用経験者と未経験者との間で認識のギャップが見られると言える。
人材開発支援助成金およびキャリア形成・リスキリング推進事業の課題と今後の展望
人材開発支援助成金およびキャリア形成・リスキリング推進事業は、従業員の技術や知識の習得、さらにはスキルアップにつながる制度であり、企業の人材育成に大きく貢献する。しかし、現状ではこれらの制度がほとんど認知されておらず、普及率も極めて低いのが課題となっている。
一方でリスキリングやスキルアップの必要性は高く、これらの制度を知る機会があれば積極的に活用したいと考える従業員は多いと予想される。
また、企業においても人手不足が深刻な問題として浮き彫りになっているが、その一方で、社内での人材育成の文化や風習が根付いている企業はまだ少ないのが現状だ。この点では、企業内での人材育成は今後さらに増えていく伸びしろがあると言える。
今後の展望としては、制度の存在が認知されることが重要で、より多くの企業や個人がそのメリットを理解すれば、広く活用することが期待される。
また、企業内における人材育成の文化や風習を広めることで、普及率が大幅に向上すると予想される。これにより、企業の生産性向上や従業員のキャリアアップに寄与するだけでなく、日本全体の人手不足解決にもつながるはずだ。
調査結果の引用・転載について
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