子育てを通じて培われる「時間管理」「問題解決」「マルチタスク」などの能力は、本来ビジネスに直結しやすい汎用スキルである。
しかしながら、従来の人材評価は「どの企業で何をしたか」といった職務歴に偏りがちであり、子育て期の経験が適切に評価されてこなかった側面がある。
そこで今回スキルアップ研究所では、20代から60代以上の子育て経験者を対象に、子育てを通じて培われるスキルについて調査を行った。
- 6割以上の人が家庭スキルがビジネスに役立つと感じる
- リスキリングの必要性を感じる人は8割を超える
- 副業やフリーランス志向は年齢とともに増加し50代以降では50%
【調査概要】
項目 | 詳細 |
調査名 | 子育て経験のある人のリスキリングに関する実態調査 |
対象者 | 20代~60代の子育て経験のある方 |
対象地域 | 全国 |
調査方法 | インターネット調査 |
調査機関 | 2025年1月5日〜2025年1月12日 |
回答数 | 300 |
【回答者年代内訳】
年代 | 人数 | 割合 |
20代 | 23 | 7.7% |
30代 | 118 | 39.3% |
40代 | 108 | 36.0% |
50代 | 41 | 13.7% |
60代以上 | 10 | 3.3% |
合計 | 300 | 100.0% |
年齢別に見るリスキリング意識と家庭スキル
副業・フリーランス志向は50代以上で50%に
キャリアについて20代・30代で「子育て優先」と回答する割合が高いのは、まだ子どもの年齢が小さく手がかかる時期のためだろう。その一方で、2割超が「副業やフリーランス」に興味を示しており、早期から柔軟な働き方を検討する姿勢がうかがえる。
40代以降になると家庭負担が徐々に落ち着き、セカンドキャリアや追加収入を意識する割合が増加する。とくに50代では約4割弱、60代以上では半数が副業を視野に入れており、家事・育児で培ったスキルを活かして仕事を再構築しようとする意欲が見られる。
企業や社会も、「子育て後の人材=汎用スキルを持つ潜在層」として捉え、柔軟な働き方や研修制度を用意すると、定着率やモチベーションが向上すると考えられる。
年代別の家庭スキルの強みー30代は時短術・40代はマルチタスク
年齢別の家庭スキルの強みについても調査を行った。30代は仕事と育児が本格化する時期で、短い時間で成果を出す「作業効率化(時短術)」が自然と身につくようである。こうしたスキルは「ビジネスの生産性向上」にも直結し、社員研修などで事例共有が望まれる場面も多いだろう。
一方、40代は「マルチタスク能力」(22.1%)が突出している。受験や習い事の送り迎え・親の介護が始まるケースもあり、同時に複数の役割をこなすためにプロジェクト管理やスケジュール調整の力が磨かれやすいと推測される。
60代以上は「作業効率化」「コミュニケーション能力」がともに3割と高く、長年の地域活動や家事ノウハウを武器に、相談役やサポート業務などで力を発揮しているようだ。
リスキリングが必要と感じる人は8割超
子育て経験者のリスキリングについて、必要性を感じる人は全体で8割を超えた。しかしその中で、全ての年代において50%以上が「必要だが行動していない」を選んでおり、行動に移すための支援や促進策が求められる。
これらのデータは、リスキリング支援の具体策が求められていることを示している。企業や自治体が研修プログラムや費用補助などを整備することが、家庭スキルを活用するための重要な土台となると言えるだろう。
家庭スキル活用の実態
家庭スキルは7割が「役立つ」と回答も3割が活用法模索
家庭スキルがビジネスでどれほど活かせるかについては、「非常に役立つ」と「ある程度役立つ」を合わせると約7割に達する一方、「あまり役立たない」「全く役立たない」と感じる層も3割超存在している。
こうしたギャップは、家事・育児で培ったスキルがビジネスのどんな場面に応用できるかイメージしにくい場合や、自分の強みを客観的に捉えられていないことが一因と考えられる。
自身が認識している以上に実務能力を備えているケースも多く、それに気づくことが転職や副業、キャリアアップを検討する際の大きな武器となるであろう。
家事効率化が6割超ー段取りをつける力はビジネスでも武器に
育児や家事で得たスキルの日常生活への活かし方については、全体の60%以上の人が「選択・掃除などの日常家事の効率化」と答えた。
「段取りをつける力」はプロジェクト管理やタスク整理といったビジネススキルと直結する。例えば「限られた時間内で洗濯や掃除を効率よく済ませる工夫」は、仕事のタスクを優先度に応じて振り分ける手法に類似していると言える。
家族の役割分担やスケジュール管理(42.9%)も、チームマネジメントの観点で評価されやすいスキルであり、企業がこうした「家庭マネジメント」を積極的に評価すれば、人材活用の幅が広がるだろう。
SNS・無料オンラインが4割超
スキル向上のためのリソースとしては、SNSやYouTube・ブログなどの手軽に学べる手段が支持されている。
背景には、育児のためにまとまった時間を確保しづらく、隙間時間で学ぶしかない、長期にわたる学習に本腰を入れてやり切れる自信がない、という現実があると考えられる。
子育て層がリスキリングを行っていく際にも、このようなニーズに沿ったコンテンツを提供していくことが求められるだろう。
約6割が柔軟な働き方を模索ー副業・在宅ワークへの追い風
子育てを契機に生じたキャリアに対する意識の変化については、「時間や場所に制限の少ない働き方」を求める人が急増した。
企業がリモート勤務やフレックス制を取り入れる動きが広がれば、子育て層の離職率低減や労働人口確保にも繋がるだろう。
子育て・家庭運営経験の社会的価値
子育てスキルが社会に通用すると感じている人は6割
子育てや家庭運営の経験は、6割以上の人が「非常に役立つ」、「ある程度役立つ」と回答した。
最近では、企業が「家庭で培った調整力・マネジメント力」を成果や評価に反映できるよう、面接や評価面談で確認項目を設定する事例*も一部出始めている。
こうした例が広がれば、「家庭スキルをなかなか活かせない」と感じている層のモチベーション向上にも繋がり、才能を埋もれさせない環境づくりが可能となるはずである。
*参考:令和4年度「なでしこ銘柄」選定企業事例集
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/R4teiseijirei_rev3.pdf
半数超が「副業・フリーランス」を希望
半数以上が副業・フリーランスを望むのは、子どもが急に体調を崩しても対応しやすい、あるいは通勤負担を減らせるなどの理由が考えられる。
一方で12.6%が「活かすことはできない」と答えており、今後はこうした層に家庭で培ったスキルが「仕事で求められる」「キャリアに活かせる」実感を掴ませることも重要になるだろう。成功パターンを共有することで、意識を高められると期待できる。
スキルを活かせる分野は教育や副業が最多
育児や家事で得たスキルは、教育・研修や副業、起業などの分野で活かされている。
特にSNSを活用した情報発信はコストが低く始めやすいため、新規事業の足がかりにしやすいのが特徴である。
またイベント運営や地域活動(25.6%)でも活躍が見込まれ、現場での段取り力やコミュニケーション力がコミュニティづくりに貢献する事例が増えると期待できる。
これらの結果は、家庭での経験が多様な職種に活用できる可能性を示唆している。
今後の課題・展望
「家庭スキル」をビジネスに活かすために
子育て経験層には、子育てを通して培われたスキルも十分にビジネスに応用できるものであるという認識を促していきたい。
まずは時間管理やマルチタスク能力など、具体的に「どのスキルが」「どういったシーンで」「どのように」役立ったかを整理し、自分が持つスキルを自己認知することが必要である。
その上で、上記のスキルが活かせるよう指針を立て、必要な専門知識を学び直し、オンライン講座や書籍を活用して家庭スキルをビジネス向けにアップデートするのがよいだろう。
副業や転職の形で実際に行動することも視野に入れつつ、足りない部分を再学習する柔軟な姿勢が重要である。
企業側に求められる支援・評価制度
企業側は、家庭での経験をビジネスに活かすための支援と評価制度を整える必要がある。
例えば、コミュニケーション力やマルチタスク力を定量・定性で評価する仕組みを導入し、家庭スキルを正当に評価できる環境を作ることが求められる。
また、リスキリング費用の補助や研修プログラムを提供し、育児・家事経験を再学習しやすい環境を整えることこそが、人材を持続的に確保するために重要だと言える。
育児・家事は「キャリアのブランク」ではなく「キャリアの一環」
スキルアップ研究所としては、育児や家事を通じて得られたスキルは決して「ブランク」ではなく、「ビジネスに直結する下地」であることを強調したい。
この認識を広めるためには、企業の評価制度、国や自治体の支援策、個人の積極的な学び直しが三位一体となる必要がある。
リスキリングに成功した事例を共有することで、多くの子育て層が自信を持ち、キャリアの可能性を感じることができるだろう。
調査結果の引用・転載について
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