リスキリング レポート

アンラーニングとは?リスキリングとの違いも解説

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調査: スキルアップ研究所

ビジネス環境の急激な変化がある今日、企業や個人が生き抜くために注目されているアプローチが「アンラーニング」です。

アンラーニングは、文字通り「学習棄却」という意味ですが、過去に獲得した知識を完全に捨てるわけではありません。むしろ、自身の知識や価値観を見直し、現在の状況に適さない考えや新たな学びを妨げる固定観念を取り扱うことを指します。

この記事では、アンラーニングの概要、リスキリングとの違い、その重要性、そして企業がアンラーニングを採用する利点について詳しく説明します。

アンラーニングとは

「アンラーニング」とは、これまでに身につけた知識や経験を意識的に放棄し、新しい学習を受け入れる「学習棄却」を指します。この概念は、急速に変化する現代社会において特に重要視されています。既存の価値観や知識体系に固執することなく、新たな情報やスキルを柔軟に取り入れる能力が求められているからです。

アンラーニングは、過去の学びや経験が現在の環境において非効率的あるいは時代遅れになっている場合に有効です。アンラーニングを通じて、個人は古い知識を捨て、新しい知識をより獲得しやすくなり、変化に適応しやすくなります。

アンラーニングは自己成長やキャリアの進展にも不可欠です。アンラーニングは、個人がより良い判断を下し、時代に合ったスキルを身につけるための基礎となるからです。この過程には抵抗感があるかもしれませんが、持続的な成長を遂げるには、古い知識や価値観を見直し、新しい学習への前向きな姿勢が重要です。

アンラーニングが求められる理由

アンラーニングは、急速に変化する現代社会において、個人と企業の生存戦略として非常に重要です。技術の進歩と産業構造の変化により、ビジネス環境は前例のない速さで変化しており、今日有効なスキルも明日には陳腐化する可能性があります。

このような現状では、20代の若手従業員でさえ、数年内にはそのスキルが時代遅れになるかもしれません。そのため、過去に獲得した知識や価値観に固執するのではなく、新しい知識やスキルへの適応が求められます。

アンラーニングを通じて、現代のビジネス環境に適した新たな能力を身につけ直すことができます。これにより、個人も企業も、絶えず変化する市場のニーズに対応し、持続可能な成長を遂げることが可能になります。

リスキリングとアンラーニングの違い

リスキリングとアンラーニングは目指すところが異なります。

リスキリングは新しい職業や仕事に必要なスキルを身につけることを意味し、技術進化や仕事内容の変化に合わせて自分の能力を更新することを目的としています。

一方、アンラーニングは古い知識や考え方を見直し、変化する環境に柔軟に対応できるようになることを目指します。例えば、テレワークへの移行や新しいマネジメントスタイルの受容などがこれに当たります。

2つの違いに関してはこの後詳しく紹介します。

この2つの違いを理解しているのは10%以下

この2つの概念の違いを正しく理解している人はまだ少数派で、10%以下であるとの調査結果が出ています。

多くの人が両者を混同しており、アンラーニング自体は社会的に広がりきった概念ではなく、今後どう知名度を獲得していくかは一つの課題になるかもしれません。

リカレント教育はまた別の用語である

リカレント教育は、一般的に「社会人の再学習」とも言われ、個人がキャリアを進化させるために必要なスキルと知識を保持・向上させるために行われる教育プログラムです。

リカレント教育はアンラーニングとはまた異なる概念で、社会人がキャリアを通じてスキルと知識を更新し続けることを指します。新しい能力の獲得に重点を置き、生涯学習の考え方に基づいて個人の学びを促進するものです。

リスキリングにおけるアンラーニングの位置付け

現代の労働市場では、技術革新と産業構造の変化に対応するため、従業員に新しいスキルの習得や既存のスキルの更新、「リスキリング」が求められています。これは、個人が変容する労働市場のニーズに適応し、キャリアを持続可能なものにするために不可欠です。

スキルアップ研究所では、リスキリングには次の3つの主要な段階があると定義します。

第1段階はアンラーニング、「学びほぐし」です。これは時代遅れとなった知識や技能、過去の経験を意識的に手放し、新しい学習の下地を築きます。アンラーニングは学習過程の基盤として、リスキリングの初期段階で重要な役割を果たします。

次の段階はソーシャル・ラーニング、「学び合い」です。これは他者との交流を通じて新しいスキルや知識を獲得する過程です。ソーシャル・ラーニングは実践的能力を鍛え、リスキリング過程の主軸を成します。

最後の段階がラーニング・ブリッジング、「学び繋ぎ」です。これは異なるスキルセットや知識領域間のギャップを埋めることで、適応能力を高めるプロセスです。既存と新規のスキルを関連付け統合し、全く新しい能力を創出することを目指します。

こうした3段階のリスキリングを通じて、人は学習と自己変革の持続的な取り組みを続けることができます。

ソーシャル・ラーニングとの違い

ソーシャルラーニングは、参加者間で知識を共有し、互いに教え合う協働的な学習スタイルです。この方法では、特定の教師と学生の役割がなく、参加者全員が知識の提供者であり受け手でもあります。

また、ソーシャルラーニングはあらかじめ計画されたものではなく、日常生活の中で自然に生じる対話や交流から偶然に発生します。

これに対して、アンラーニングは個人が過去の知識や価値観を意識的に見直し、古い考え方を捨てて新しい学習を受け入れるプロセスを指します。アンラーニングは変化への適応と成長を促進するための自己反省的な取り組みです。

ラーニング・ブリッジングとの違い

ラーニング・ブリッジングは、新しい学習と既存の知識や経験との間のつながりを探るプロセスです。ここでは、新たに学んだことと以前から持っている知識やスキルとの関連を発見し、統合することを目指します。

たとえば、リスキリングを通じて新しい技術を学んだ際に、その技術が過去の経験や知識とどのように関連するかを見つけ出すことがラーニング・ブリッジングの一例です。

これは、新旧の知識を結びつけることで、より深い理解と応用の幅を広げることを可能にします。このプロセスは、学習者が過去の学びを新しいコンテキストに適用し、知識の統合と発展を促進することを重視します。

アンラーニングを進めていく方法

手順1:個人が自己評価と内省を行う

アンラーニングの最初のステップは、自己評価を通じて自身の経験や知識を整理することから始まります。

古い情報や使われなくなった知識を識別し、必要ないものは捨て去ることが求められます。

また、自分の持つ概念や信念についても見直し、時代に合わなくなったものは更新する必要があります。この内省の過程は難しいものであり、初めて行う場合は人事部門やチームメンバーからのサポートを受けるといいでしょう。

手順2:自己の批判的思考能力を活用する

ここでは、内省に続き、批判的思考を活かして自己の前提を検証し、本質を見極めます。

これにより、自分の学びを整理し、未来に向けて必要なスキルや知識を選び出すことができます。不要な知識や経験は削除し、必要なものだけを取り残す作業が、アンラーニングの過程で重要になります。

手順3:気づきが促される環境に参加する

アンラーニングを一人で行うのは困難なため、外部の機関と協力して新しい知識を学んだり、意見交換の場に参加することがおすすめです。

他者からの視点を受け入れることで、新たな気づきを得ることができます。周りの人々との対話を通じて、自身のアンラーニングをさらに深めることが可能です。

手順4:成果を評価し次に活かす

アンラーニングは一度きりの活動ではなく、継続的な取り組みが必要です。そのため、定期的に成果を評価し、今後の働きに活かしましょう。

評価は、新しい知識の習得度や活用度を基に行われ、面談やヒアリングを通じて具体的なフィードバックを得ることができます。繰り返し行うことで、持続的な成長と自己更新が期待されます。

社員のアンラーニングのために人事部ができること

社員のリスキリングを推進する立場として、人事部がアンラーニングを進めるためにできることは何があるのでしょうか。

1対1の内省セッションを支援する

人事部は管理職に対して、部下との個別ニーズに応じたコミュニケーション能力の研修を実施すると良いでしょう。1on1ミーティングを活用して部下が自己成長に必要な課題を認識し、アンラーニングの機会を提供できるようにすることが重要です。

これにはコミュニケーションスキル、1on1ミーティングの進め方、適切なフィードバックの提供方法に関するトレーニングが有効です。

異動や昇進の機会でアンラーニングを奨励する

異動や昇進のタイミングでアンラーニング・ワークショップを開催することも効果的です。ここでは、社員が自身の経験を振り返り、アンラーニング計画を立てたり、他者からの教訓を共有したりする場を提供できます。

これはアンラーニング経験の振り返りシートや計画立案シート、他者からの学びの要約シートなどを用意するなどです。

従業員の成長意欲を評価し改善策を導入する

人事部は、社員の自己成長意欲を評価し、それに基づいた支援を提供することで、アンラーニングへの取り組みを促進させることができます。

自己成長意欲の高い社員には、より多くのリソースや学習の機会を提供し、意欲が低い社員には動機付けを高めるための支援を行うことが重要です。

アンラーニングを企業が行うメリット

アンラーニングを企業として推し進めていくメリットには、以下の4つが挙げられます。

従業員の継続的な成長が望める

技術革新の速い分野では、アンラーニングを通じて最新トレンドを取り入れ、従業員のスキルを継続的に更新できます。これは個人のキャリア発展と企業の競争力の維持につながります。

古い手法に固執するのではなく、新しいアプローチを取り入れることが成長の鍵です。

業務効率が向上する

アンラーニングで不要なプロセスをなくすことで、一時的な効率低下を乗り越え、最終的には業務効率を高めることができます。これが企業の生産性向上に直結します。変化への適応能力を高めるアンラーニングは、業務の効率化に繋がります。

変化に強い組織になる

アンラーニングの文化が組織の中に根付くことで、新しい学習を柔軟に受け入れ、変化への適応力が向上します。これが企業の持続的成長を可能にします。組織の強みは、個々のメンバーが学習意欲を持ち、互いにアンラーニングを推進できることです。

マネジメント力強化が見込める

アンラーニングをすることで、従来手法の見直しから、部下の新たな強みと能力を発見し活かせるようになりマネジメントスキルが向上します。これが企業の収益性向上と組織的成長の実現につながります。経営陣を含めたアンラーニングの実施は、企業成長に欠かせないマネジメント力強化を期待できます。

アンラーニングをする上での注意点

もちろんアンラーニングはメリットだけではなく、行う際には注意も必要です。

「学習棄却」によるモチベーション低下に注意

アンラーニングを導入する際の最大の注意点は、これまでの学びが無駄だと感じさせないことです。

学習した内容が否定されるように受け取られると、モチベーションが低下し、アンラーニングを進めることが困難になります。アンラーニングは新たな成長のチャンスであるという考え方を明確に伝え、モチベーションを維持することが成功につながります。

知識や経験の取捨選択を意識する

アンラーニングは過去の知識全てをリセットするのではなく、更新が必要なものとそうでないものを選択することです。

新しい学びにつながるサイクルを作り出すことが目的です。これにより将来にわたって重要な知識やスキルを学ぶことができます。

1人ではなくチーム単位で行う

アンラーニングは個人だけでなく、チーム全体で取り組むべきです。現状の業務から改善点を見出し、チーム内で課題を共有し解決策を模索します。

リーダーが学び続ける姿勢を示すことで、徐々に組織全体に広げられます。チームでの取り組みが各個人のアンラーニングを促進します。

アンラーニングとはなにかまとめ

ここではアンラーニングについて、リスキリングなどの他の学びと比較しながら紹介しました。

アンラーニングは変化する環境に柔軟に適応し、成長を促進するために重要です。古い枠組みを超えて新たな知識をとスキルを獲得していきましょう。

調査概要

本文中に登場した調査の概要は以下です。

項目

詳細

調査名

学び直しに係る用語に関する知名度調査

対象者

20代から60代の社会人の方

対象地域

全国

調査方法

インターネット調査

調査期間

2024年1月21日~1月28日

回答数

計500名

参考資料

調査結果の引用・転載について

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