転職市場で評価されるスキルは「ポータブルスキル」と「テクニカルスキル」に大別される。
ポータブルスキルとは、特定の職種や業界に限定されず、どのような職場でも役立つ汎用的なスキルである。一方、テクニカルスキルは汎用性があまり高くないものの、特定の職種や業界で特に高く評価される専門的な知識や技術を指す。
現代の労働市場では、職場の要求に応じたスキルを持つことが転職成功の鍵となるが、その評価基準は業界や職種によって異なる場合がある。
どのスキルが評価されやすいのか、業界や職種が評価にどのように影響するのかを解明するため、スキルアップ研究所では特に「テクニカルスキル」に焦点を当て、「転職活動におけるスキル評価についての実態調査」を実施した。
今回は、この調査結果をもとに、転職市場におけるスキル評価の現状とスキルが持つ価値について深く掘り下げていきたい。
- テクニカルスキルは転職時に業界を変更しない方が高く評価される傾向がある
- ポータブルスキルのアピールがテクニカルスキルの評価を高めることにつながる
- プログラミング・ソフトウェア開発スキルやデータ分析・統計解析スキルは高評価を得やすい
【調査概要】
項目 | 詳細 |
---|---|
調査名 | 転職活動におけるスキル評価についての実態調査 |
対象者 | 20代~60代の転職活動経験者 |
対象地域 | 全国 |
調査方法 | インターネット調査 |
調査期間 | 2025年3月3日~3月10日 |
回答数 | 300名 |
業界・職種によるスキル評価の実態
ポータブルスキルの評価は業界変更に関係なくほぼ同じ
「転職活動において、自分のポータブルスキルが正当に評価されたと感じましたか?」という質問に対し、転職時に業界を変更した方の69.5%が「そう思う・ややそう思う」と回答した。また、業界を変更しなかった方の71.4%も同様の回答であった。
業界変更による評価の差はわずか1.9%にとどまり、ポータブルスキルに関しては業界変更の有無による影響はほとんどないことが示された。
ポータブルスキルの評価は職種変更にもほとんど影響されない
同様に、転職時に職種を変更した方の67.4%、変更しなかった方の72.9%が「そう思う・ややそう思う」と回答した。この差は5.5%であり、職種変更の有無がポータブルスキルの評価に大きな影響を与えることはなかった。
これらの結果から、ポータブルスキルは業界や職種を問わず有効であるため評価に差が生じにくく、どの職場でも価値が高いと考えられる。そのため、転職時に業界や職種を変更してもその評価は大きく変動しないことが示唆される。
テクニカルスキルの評価は転職時に業界を変更しない方が高くなる
一方で、テクニカルスキルに関しては、転職時に業界を変更した方の55.2%が「そう思う・ややそう思う」と回答し、業界を変更しなかった方では63.5%が同様に回答した。業界変更をしなかった場合の評価が8.3%高く、他の項目よりも評価の差が大きい結果となった。
この結果は、転職時に業界を変更した場合、テクニカルスキルの評価が低くなる傾向があることを示している。これは、業界ごとに求められる知見や能力が異なるため、業界変更後に前職の経験やスキルが転職先であまり活かされないケースが多く、テクニカルスキルの評価が低くなったと考えられる。
テクニカルスキルの評価は職種より業界の方が影響を与える
「転職活動において、自分のテクニカルスキルが正当に評価されたと感じましたか?」という質問に対して、転職時に職種を変更した方の56.5%、変更しなかった方の60.5%が「そう思う・ややそう思う」と回答しており、職種変更の有無による差は4.0%であった。
これに対して、業界変更の場合は8.3%の差があり、業界の変更がテクニカルスキル評価に与える影響が職種変更よりも大きいことが明らかになった。これは業界ごとに求められるスキルや経験が異なるため、業界変更がスキル評価により大きな影響を与えたと考えられる。
テクニカルスキルが正当に評価されたと感じやすい業界とは
「転職活動において、自分のテクニカルスキルが正当に評価されたと感じましたか?」という質問に対し、転職後の業界別に回答を分析した結果、「そう思う・ややそう思う」と回答した割合が7割を超えた業界は、IT・通信・インターネット、建設・不動産・インフラ、コンサル・シンクタンク、メディア・広告・エンタメの4業界であった。
これらの業界では、業界特有の専門知識や技術体系が明確に確立されており、前職での経験が新しい職場で直接活かせるケースが多い。そのため、転職者のテクニカルスキルが適切に評価される環境が整っていると考えられる。
テクニカルスキルが正当に評価されたと感じやすい職種とは
職種別の分析においては、「転職活動において、自分のテクニカルスキルが正当に評価されたと感じましたか?」という質問に対し、「そう思う・ややそう思う」と回答した割合が8割を超えたのは、企画・マーケティング、コンサルタント・アナリスト、研究開発(R&D)、クリエイティブ(デザイナー等)の4職種であることが明らかになった。
これらの職種に共通するのは、専門性の高いスキルが業務の成果に直結しやすい点である。企画・マーケティングでは市場分析力や戦略立案能力、コンサルタント・アナリストでは分析力や問題解決能力、研究開発では専門的な知識や実験スキル、クリエイティブ職ではデザイン能力や創造性といった、明確に可視化できるスキルが求められる。
このような職種では、前職での具体的な実績や経験が評価基準として重視される傾向にあり、テクニカルスキルの評価が適切に行われやすい環境が整っていると推察される。
ポータブルスキル評価の実態
コミュニケーション力・適応力を強みとして転職活動する方が多い
「あなたはどのようなポータブルスキルを強みとして転職活動していましたか?」という質問に対し、最多の53.9%が「コミュニケーション力」を挙げ、次いで42.9%が「適応力」と回答した。
現代の職場環境では、専門性に加えて円滑な人間関係構築能力や環境変化への柔軟な対応力が業界を問わず重視されるため、これらのスキルが転職時に主要なアピールポイントとなっていることが明らかになった。
高評価を得やすいのはコミュニケーション力と課題解決力
「転職活動において、自分のポータブルスキルが正当に評価されたと感じましたか?」という質問の集計結果によると、コミュニケーション力or課題解決力を強みとしてアピールした転職者の約8割が「評価されたと思う・やや思う」と回答し、他のスキルと比較して最も高い割合を占めていた。
この結果は、現在の転職市場においてこれらのスキルが特に重視されていることを示している。
テクニカルスキル評価の実態
ポータブルスキルのアピールがテクニカルスキルの評価を引き上げる
上記の調査から、ポータブルスキルを十分にアピールできた転職者はテクニカルスキルも高く評価される傾向が判明した。
特筆すべきは、ポータブルスキルを十分にアピールできなかった転職者の中に、テクニカルスキルが正当に評価されたと感じた人が皆無だった点である。
背景には、両スキルが相互補完的な関係にあり、バランスの取れたアピールが転職成功の鍵となる可能性や、テクニカルスキルの運用にあたりポータブルスキルが重要になること、またアピールのスキルそのものが評価されるにあたって必須であることなどが考えられる。
高評価を得やすいのはプログラミング・ソフトウェア開発スキルやデータ分析・統計解析スキル
「転職活動において、自分のテクニカルスキルが正当に評価されたと感じましたか?」という質問に対し、プログラミング・ソフトウェア開発スキルやデータ分析・統計解析スキルを強みとしてアピールした転職者の85%以上が「評価されたと思う・やや思う」と回答した。
現在の多くの業界では、ITスキルやデータ解析能力の需要が高まっている。特にデジタル化を推進する企業においては、プログラミングやデータ分析が業務遂行に必須の要素となっており、これらのスキルを持つ人材の価値が高まっていることが結果に反映されている。
実務経験・保有資格と転職先の要件とのマッチが正当な評価につながる

「転職活動において、自分のテクニカルスキルが正当に評価されたと感じた理由は何ですか?」という質問に対し、最も多かった回答は「転職先の業務内容と過去の経験がマッチしていた(実務経験ベース)」であり、「転職先が求めるスキルと自分のスキル・保有資格が一致していた(要件ベース)」が次に続いた。
また、「転職活動において、自身のテクニカルスキルが正当に評価されるために重要だと感じた要素を教えてください(複数回答可)」という質問では、約6割が「実務経験」を、約4割が「保有資格の種類」を挙げた。
実務経験は応募者のスキル活用能力を実証するものとして最重要視されるが、同時に適切な資格の保有も評価獲得の重要な鍵となることが明らかになった。
資格は特定分野の知識や技能を客観的に証明するもので、特に専門性の高い職種では、実務経験と合わせて重要な評価基準となっているようだ。
テクニカルスキルの習得・学びなおしの重要性
半数近くが転職に有利な資格を保有

「転職活動時に、転職先が求める資格あるいは持っていると有利になる資格を所有していましたか」という質問に対し、約半数の回答者が「取得していた」または「転職活動中に取得した」と回答した。
資格取得者の9割が転職活動での有効性を実感
前問で「取得していた」あるいは「転職活動中に取得した」と答えた方に「転職活動中に取得した資格は転職活動で役に立ちましたか?」という質問をしたところ、9割近くが「役に立ったと思う・やや役に立ったと思う」と回答した。
この結果からも、資格取得の重要性が強調される。
7割以上が資格をとっておけばよかったと回答
「もし転職前に戻れるとしたら、『資格があれば、もっと有利に転職活動できた』と思いますか?」という問いに対し、7割以上が「そう思う・ややそう思う」と回答した
転職市場の競争激化により、他の応募者との差別化要素として資格の価値が再認識されている。資格は職務関連スキルの客観的証明となるが、多くの転職者がスキルの「見える化」の重要性を痛感していることが示された。
最も需要が高いのは英語関連資格
「もし転職前に戻れるとしたら、『この資格があれば、もっと有利に転職活動できた』と思う資格はありますか?」という質問では、英語関連資格が唯一3割を超える支持を集めた。
グローバル化の進展に伴い、英語力は業界・職種を問わず基本スキルとなりつつあるだろう。
9割の人がテクニカルスキルのリスキリングの重要性を実感
「転職市場において、テクニカルスキルの習得・学びなおし(リスキリング)はどの程度重要だと思いますか?」という質問に対し、9割の回答者が「非常に重要・ある程度重要」と評価した。
テクノロジーの急速な進化や産業構造の変化により、継続的なスキル更新が転職成功の鍵になっていることが広く認識されている結果といえる。
課題と展望
転職市場において、その人のスキルがより正当に評価されるためにはどのようにすればよいのだろうか。
本調査の結果から、ポータブルスキルのアピールがテクニカルスキルの評価を引き上げる効果があることが分かった。つまり、ITスキルや英語関連の資格などの需要が高いテクニカルスキルの獲得に躍起になるだけでなく、コミュニケーション力などのポータブルスキルの獲得が、テクニカルスキルのアピールや実際の運用に際して必要であり、ポータブルスキルの獲得も同等に重要であることが指摘できる。
また、テクニカルスキルの評価は業界によって大きく異なり、転職の障壁となりうるため、業界特性をよく理解し、自身のスキルセットを常に批判的に分析することが重要だろう。
リスキリングの重要性に対する認識は広がっており、リスキリングは単なるトレンドではなく、生存戦略となってきている。企業や教育機関の支援は重要だが、最終的な責任は個人にある。デジタル化が加速する現代において、学び続ける意志こそが最大の競争力となるだろう。
調査結果の引用・転載について
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