リスキリング レポート

高校数学と卒業後の実務での活用に関する調査

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調査: スキルアップ研究所

わが国では高校進学率が98.8%(令和6年 文部科学省)に達し、ほとんどの人が高校数学を学んでいる。二次関数や三角比など、様々な単元を学習するが、これらの数学的な知識やスキルが、実社会でどのように活かされているのかについては、意外にも知られていないのが現状である。

また、「スキルアップ」というと資格取得等が頭に浮かぶが、それらの基礎となっているのはあくまで大学での知識や高校以前の学習内容であるといえる。

どの数学分野が実務で最も重要とされているのか、数学を仕事に活用するにはどのようなスキルが必要なのか。さらに、「共分散」などの統計的概念が、具体的にどのような業務場面で使われているのか。これらを明らかにすべく、スキルアップ研究所では「高校数学と卒業後の実務での活用に関する調査」を実施した。

今回は、この調査結果をもとに、高校数学の現状とその価値について詳しく解説していきたい。

「高校数学と卒業後の実務での活用に関する調査」結果のポイント
  • 数学ⅠAの「データの分析」と数学ⅡBの「統計的な推測」が実務において最も役に立つ
  • 「共分散」の概念をそのまま活用している人は1割程度だが、「相互関係・因果関係」という観点で見ると35%以上が活用
  • 数学が苦手な人でもソフトウェアなどを使いこなすことで、十分に数学を実務に応用できる可能性が高い

【調査概要】

項目

詳細

調査名

高校数学と卒業後の実務での活用に関する調査

対象者

20代~60代

対象地域

全国

調査方法

インターネット

調査期間

2025年2月5日~2月12日

回答数

300名

実務で高校数学はどのくらい役立っているのか?

高校数学が実務に活かされていると感じる人は全体の3分の1

高校数学が実務に活かされていると感じる人は34.3%にとどまり、約3分の1という結果となった。これは過半数を大きく下回る数字である。

この結果から、高校数学で学ぶ内容と、日常生活や実務での具体的な活用場面との間に大きな隔たりがあり、学習内容が実際の仕事にどう結びつくのか、実感を持ちにくい状況が生じていることが示唆される。

実務で最も役立つ数学の分野は「確率・統計」

「実務で最も役立つ数学分野」を調査したところ、「確率・統計」が34.9%と最も高い割合を示した。

この結果は、確率・統計が実社会で幅広く活用されている現状を反映している。特に近年は、データに基づく意思決定の機会が増え、日常的な判断においても確率的な考え方がますます必要とされている。

例えば、企業では売上予測や市場分析に、金融機関ではリスク評価に統計が欠かせない。また、私たちの暮らしでも、保険選びや投資の判断など、確率的な考え方が役立つ場面は数多くある。

つまり、「確率・統計」は現代社会で最も実用性の高い数学分野の一つといえるだろう。

「確率・統計」を実務で活用する頻度は「年に数回程度」が最多

上記の質問で「確率・統計」と答えた方に、「『確率・統計』の分野を実務で活用する頻度はどれくらいですか?」という質問をすると、37.1%が「たまに(年に数回)」、24.8 %が「月に数回」という回答になった。

この結果の背景としては、以下の2つの可能性が考えられる。

1つ目は、データ活用は広がりつつあるものの、確率・統計はまだ日常的な業務ツールとして定着していない可能性である。2つ目は、実際には日常的に確率統計的な考え方で判断やリスク評価を行っているが、それを「確率・統計の活用」と意識していない可能性である。

どの数学分野が実務で最も重要か?

数ⅠAで最も役に立つのは「データの分析」

数学ⅠAの中で実務に最も役立っている分野を尋ねたところ、「データの分析」と回答した人が45.7%と最も多い結果となった。

高校数学の授業では、他の分野の指導を優先するため、「データの分析」に十分な時間を確保できていない傾向がある。しかし、実務において最も活用される分野が「データの分析」であるという結果は、数学ⅠAの教育内容と実社会のニーズとの間に差が生じていることを示している。

したがって、学校での学習時間が限られているからといって「データの分析」分野の学習をおろそかにするのではなく、基本的な用語の定義や数値の持つ意味をしっかりと理解することが重要だといえるだろう。

数ⅡBで最も役に立つのは「統計的な推測」

同様の傾向は数学ⅡBでも見られ、実務で最も役立っている分野として「統計的な推測」を挙げた回答者が41%を占め、トップとなった。

この分野も高校の授業では十分な時間が確保されていない実態がある。しかし、ビジネス環境が大きく変化する中で、データリテラシーの重要性は増す一方である。実際に、データを適切に理解し、活用できる能力は、今後のビジネスシーンでますます重要な武器となることが予想される。

このような状況を踏まえると、高校数学での学びは将来のキャリアの基盤を形成する重要な機会といえる。特に「統計的な推測」は、数学ⅠAで学んだ「データの分析」の知識を発展させ、より実践的なデータ活用スキルを身につける上で欠かせない分野である。教育現場での時間的制約はあるものの、この分野の本質的な理解を深めることが重要だといえるだろう。

どの数学分野が実務で最も重要か?

「共分散」という概念を聞いたことがある人は25%

「あなたは共分散という言葉を聞いたことがありますか。」という質問をしたところ、「はい」と答えた人はわずか4分の1にとどまった。

「共分散」は数学ⅠAの「データの分析」において基礎的な概念として扱われる重要な用語である。これほど多くの人が聞いたことがないという事実は、この分野の学習が十分に定着していない可能性を示唆している。

「共分散」の意味を理解している人は18%

「あなたは共分散という言葉の意味がわかりますか。」という質問をしたところ、先ほどの質問の割合よりも少なくなり、「はい」と答えた人は17.7%にとどまった。

「聞いたことがある」と答えた人のうち、さらに「意味がわかる」と答えた人は少なく、単に言葉を知っているだけでは理解にはつながっていないことが明らかになった。

実務で「共分散」を使っている人は1割

「共分散という概念を実務あるいは学業で使用している」と回答した人の割合は、わずか10.3%にとどまった。

共分散という概念は、多くの人々の日常業務や学業において、実際の活用機会が極めて少ないことが示唆されている。あるいは、そもそも共分散という概念を正しく理解している人が少なく、そのため「使っている」と自覚できる人が限られている可能性がある。

「共分散」を使う職種は主にデータ分析・マーケティング

実務あるいは学業で共分散を使用していると回答した方々に対して、その具体的な活用場面を尋ねたところ、58.1%がデータ分析・マーケティング分野での使用と回答した。

この結果から、「共分散」が統計的分析において基礎的かつ重要な概念として認識されていることを示唆している。

例えば、マーケティングでは、広告効果の測定や消費者行動の分析のために統計的手法を活用する場面が増えており、その中で共分散が使われているのだろう。

「共分散」を「相互関係・因果関係」と捉えると、35%以上が活用

「共分散という概念を実務あるいは学業で使っていますか」という直接的な質問に対しては「はい」と答えた人はごくわずかだった。しかし、同じ概念を「日々の実務の中で『Aを選ぶ人はBを選びやすい』『Aの値が高い人はBの値が低い』など、二者間の相関関係や因果関係について考えることはありますか?」とわかりやすく言い換えて質問すると、なんと35.7%もの人が「はい」と回答した。

この結果は、統計用語としての「共分散」は馴染みが薄くても、その本質的な考え方である「二つの要素間の関係性を理解し分析する視点」は、多くの人々が実務の中で自然に身につけていることを示している。言い換えれば、統計学の専門用語を知らなくても、データ間の関連性を直感的に理解し、日常的な意思決定に活用できている人は多いということがわかる。

数学が苦手でも実務で活かせるのか?

数学を実務で活かすにはデータ分析や統計のスキルが求められる

「数学を実務で活かす上で、どのようなスキルが求められると思いますか?」という質問に対しては、「データ分析や統計のスキル」が37.3%と最も高い支持を集め、数学的な論理思考力やプログラミングツールを使いこなすスキルを上回った。

この結果から、実務の現場では、純粋な数式の計算力や論理的思考力よりも、データを適切に解釈し実際の意思決定に活用できる能力が重視されているといえる。

つまり、数学ⅠAの「データ分析」や数学ⅡBの「統計的な推測」の単元は、将来の実務において重要な意味を持つことが分かる。

ただし、これは純粋な数学的思考力が不要だということを意味するわけではない。むしろ、数学的な基礎力があってこそ、それを実践的なデータ分析に活かすことができるのである。したがって、数学の基礎をしっかりと固めた上で、それを実務で活用できるスキルへと発展させていくアプローチが求められているといえるだろう。

数学が苦手でもツールやソフトを活用すれば対応可能

「数学が苦手でも実務で活かせるようになるには?」という質問に対して、「ツールやソフトを活用する(Excel・Pythonなど)」という回答が35.7%と最も多く選ばれた。

これは、数学に苦手意識を持つ人々にとって心強い発見といえる。かつては、数学が苦手な人がデータ分析の仕事に携わることは困難だったが、現在では各種ツールの活用により、必ずしも数学が得意でなくても対応できるようになってきているという時代の変化が伺える。

つまり、数学への苦手意識にとらわれるのではなく、現代のツールを活用しながら実践的なデータ活用スキルを身につけていくことで、新たな可能性が広がるといえる。むしろ、そうしたスキルを磨いていくことは、現代のビジネス環境において大きな価値を持つと考えられる。

課題と展望

調査結果から、高校数学の学習内容が実社会でどのように活用されているのか、多くの人が具体的なイメージを持てていないことが明らかになった。特に、「データの分析」や「統計的な推測」は実務で最も役立つとされる一方、共分散などの専門的な概念の認知度や理解度は低く、数学の学びと実務の結びつきが不足していることがわかった。

この結果から、数学教育と実社会の架け橋の強化が求められていることが示唆された。学校教育では、数学の実用例を具体的に示し、生徒が知識を実践的に活かせるカリキュラムの充実が求められる。また、データ分析ツールの活用法を学ぶ機会を提供することも有効だろう。

さらに、企業や社会全体でも数学的思考力やデータ分析スキルの重要性を再評価し、教育機関と連携して活用方法を示していくことが求められる。これにより、数学の学習が単なる受験対策ではなく、将来のキャリアに直結するスキルとして広く認識されるだろう。

調査結果の引用・転載について

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