リカレント教育は社会人の学び直しの機会として近年注目されつつありますが、実際にどんなプログラムが行われているのか知っている方は少ないのではないでしょうか。
本記事では、社会人を対象にしたリカレント教育プログラムを提供している主な大学を地域別に紹介し、学び直しの機会としてリカレント教育を受けるメリットなどもご紹介します。
リカレント教育とは
この章では、リカレント教育の概要とメリットを紹介します。
文部科学省が推進する「学び直し」の機会
文部科学省は、社会人が学び直しを通じてキャリアアップや転職を実現できるよう、「就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業」を展開しています。
この事業の一環として、全国の大学では企業やハローワークと協力し、就職や転職に直結するスキルを学べる短期間のプログラムを無料で提供しています。具体的には、女性活躍やデジタルトランスフォーメーション(DX)、地方創生、介護など、社会的な関心が高い分野に焦点を当てており、終身学習の機会を拡大し、個々人のキャリア支援を行っています。
要するにリカレント教育では、個人の目的に応じた学習の機会が与えられる仕組みとなっているのです。
社会人がリカレント教育を受けるメリット
では、社会人が学び直しの機会としてリカレント教育を受けるメリットをいくつかご紹介します。
学び直しの機会になる
リカレント教育の特徴の一つとして自由度の高さがあります。従来のリスキリングと比較して、理想のキャリア実現のための全く新しいスキルや知識を身につけることが奨励されており、現在の職種や業界に縛られることなく自分が学ぶ意欲のある分野や技術に触れることが可能です
たとえば、IT業界にいる方が教育分野で貢献したいと考え、リカレント教育を通じて教育学や心理学など、全く異なる分野の知識を深めることも可能です。
将来の目標達成につながる
リカレント教育は、単に仕事で活かすためのスキルアップを目指すだけではありません。それ以上に、個人が自身のキャリアや人生で実現したい目標に応じた学習を行うことに重点を置いています。
現職において新しい価値を創造することは、リカレント教育の直接の目的ではなく、個人が持つ潜在能力を引き出し、将来的な目的達成をサポートすることに主眼が置かれています。
働きながら学ぶことができる
リカレント教育を受ける大きなメリットの一つは、働きながらでも学習を続けることができる点です。通信制の場合、空き時間を利用して学習することが可能で、大学で提供される学位や資格の取得も可能です。
文部科学省の2023年度の学校基本調査によると、大学の通信課程に在籍する学生の約80％が社会人であり、平日の夜間や土曜日に開講されるプログラム・オンライン講座の提供により、働きながらでも本格的な学習が可能な環境が整っています。
通学よりも費用を抑えることが可能
通信制大学で学び直しをする場合、通学する場合に比べて費用を抑えることが可能です。
文部科学省の調査によると、2023年度の私立大学の初年度納付金の平均額は約1,477,339円であるのに対し、通信制大学の初年度納付金は平均して20万円台となっています。
社会人がリカレント教育を受ける方法
ここまでリカレント教育とはどういうものか説明してきましたが、本章では社会人の方がリカレント教育を受ける方法を2つご紹介します。
大学に入学・編入して学び直す
大学は、一度卒業していても制限なく入り直せるという特徴があります。そのため、一度大学を卒業している社会人の方が大学に再入学または編入学することで、異なる分野を学び直すことや専門知識を深めることが可能です。
また、高等学校卒業、専門学校や短期大学卒業、あるいは大学中退者の場合でも、大学は学士やそれ以上の学位を取得するための機会を提供しており、就業できる仕事の幅を広げることにもつながります。
働きながら学び直したい場合には、通信制の大学を選択すれば自分のスケジュールに合わせた学習も可能です。
リカレント教育プログラムのある大学で学び直す
近年、リカレント教育に特化したプログラムを提供する大学が増えており、実務に即した内容を取り入れ、社会人学生が即戦力となるスキルを身につけられるようプログラムが設計されています。
また、再就職支援やイノベーションに貢献する人材を育成する目的で、最新技術に対応した教育を提供する大学もあります。こうしたプログラムの中には、国の認定を受けているものもあり、質の高い教育を受けられることが保証されています。
新しい技術やビジネススキルを習得したいと考える社会人の方や、学び直しの機会を求めている方にとって、リカレント教育は適していると言えます。
リカレント教育プログラムのある主な大学一覧【関東編】
ここでは、リカレント教育プログラムを提供している関東の大学をいくつかご紹介します。それぞれの大学が提供しているプログラムなどをまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
東京大学
東京大学では、社会人向けにシステムデザインスクールや、サステナビリティ・ファイナンススクールを提供しています。ここでは技術システムを学ぶ機会や、環境問題など地球規模の課題解決に貢献できる人材育成に取り組んでいます。
また、東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム（東大ＥＭＰ）は、2008年に開講して以降、民間企業から官公庁まで幅広く対象をとってプログラムを開催しています。こういったプログラムの中で、課題設定能力を身につけたリーダー育成に取り組んでおり、日々変貌する世界で先頭に立つものが持つべき素養を学ぶことができる場になっています。
筑波大学
筑波大学の東京キャンパスでは、社会人のための夜間大学院を設けています。ビジネス科学研究科と人間総合科学研究科があり、経営システム科学、企業法学、システムズ・マネジメント、国際経営プロフェッショナル専攻など、多様な分野で学ぶことができます。
また、「ライフキャリア構築を目指す女性のための心理学プログラム」も開かれており、生涯発達的視点と実践的なスキルを構築し、女性の学び直しの機会を提供しています。
東京理科大学
東京理科大学のビジネス講座は、マネジメント、ヒューマンリソース、ストラテジー、ファイナンス、デジタル戦略の5つの領域に分類されています。これらの講座では、経営理念や経営戦略、組織運営、ロジスティクス、マーケティング、ブランディング、データサイエンスなど、実務に即した知識を学ぶことができます。
また、DX分野が大きく発展している現代において、日本的な強みを活かしながらDX時代を先導するような人材育成にも力を入れています。
早稲田大学
早稲田大学では、データサイエンスを専門領域で活用するために特別に再編成され、新規内容を追加した「データ科学教育プログラム」を社会人にも開放しています。
この講座では、データサイエンスの理論とビジネス領域で活用できるスキルを同時に学び、実践的な活用能力を鍛えることができます。受講者はデータサイエンティストとして必要な基礎的な理論と技術を習得することを目標とし、修了者には学校教育法に基づく履修証明書が授与されます。
慶應義塾大学
慶應義塾大学では、法曹実務家や弁護士を対象としたリカレント教育プログラムが実施されています。このプログラムは、日々の実務に直接的に効果が出ることや関連性が主じることは少ないですが、通常の実務では、関わることの少ない理論的な問題にも取り組み、理論・体系的な知識を得ることが可能です。
法律関係の職業についている方にとっては、専門性を高める講座になっており、将来的なキャリアを思案し、専門曹を目指すこともできます。
明治大学
明治大学は、女性のためのスマートキャリアプログラムを提供しています。総合ビジネスコースは、女性リーダーやマネジメント層の育成を目的としており、平日の夜間と土曜日を中心に半年間学ぶことが可能です。
一方、「わたしらしくReスタートコース」は、2カ月間のコースで、女性の再就職を目的としています。このコースでは、オンラインで平日に2時間実施される授業を通じて、スキマ時間を利用して学びたい人や育休中の人などにも適しています。
日本女子大学
日本女子大学では、結婚や出産、介護などでキャリアにブランクがある女性のための再就職支援プログラムを提供しています。1年間のキャリア教育を通して、専門的な知識やスキルを身につけることが可能です。
このプログラムは、独自の求人WEBサイトや合同企業説明会など、就職に役立つイベントやネットワーキングを含むきめ細やかな支援を行っており、多様な科目が提供されています。
東京電機大学
東京電機大学では、サイバーセキュリティや電気電子、情報、機械などの専門分野を横断的に学習することができる履修証明プログラムや、科目等履修生・公開科目を社会人向けに提供しています。土曜や夜間に開講される講座は、実践的な学習を可能にし、履修証明書の交付もあります。
また、エンジニアの方が基礎を学び直す講座も用意されており、生涯学習の機会を提供している大学となっています。
リカレント教育プログラムのある主な大学一覧【関西編】
次に、関西やその近郊でリカレント教育を実施している大学をいくつかご紹介します。
京都大学
京都大学では、医学や農学といった理系分野だけでなく、データサイエンス講座やイノベーション・起業家教育など幅広く学び直しの機会を提供しています。
例えば、「京都大学技術イノベーション事業化コース」では、若手実業を推進することを目的として講座が開講されています。京都大学の知や研究成果を用いた事業創出や、実業化に取り組むことができ、ビジネスリーダー育成に力を入れた内容になっています。
大阪府立大学
大阪府立大学では、教養や人間性を高める専門的教育を提供するリカレント教育プログラムが用意されています。科目等履修生として、大学が開講している講義科目を履修することができます。
また、長期履修制度を利用して標準修業年限を超えて学ぶことや、社会人向けの特別教育課程を通じて履修証明書を受け取ることが可能です。経済学研究科では、平日夜間や土曜日に大阪市内のサテライト教室で社会人を対象に授業が開かれており、経営学や観光学、法学など実学に重点を置いた学習ができます。
阪南大学
阪南大学では、2019年度からリカレント教育プログラムを提供しています。科目等履修生や聴講生として参加でき、12のテーマから選択して6科目以上（120時間以上）を履修することで履修証明書が交付されます。
阪南大学ではAIやデータサイエンスについての講座も行われており、デジタル化が進む社会でも対応力の高い人材を目指すことが可能です。
関西大学
関西大学では、社会人向けのビジネス講座や、経営人材育成プログラムが実施されています。将来的に海外子会社の経営を担う存在や、海外展開を行っている企業での活躍ができる人材の育成を目的としています。マネジメントの課題解決能力や経営交渉力の獲得を目指すことも可能です。
また地域活性やコミュニティ再生などを目指すプログラムも開催されており、現在日本が抱えている問題への取り組みを目指す人材育成も図っています。
愛媛大学
愛媛大学農学部では、森林・林業の基礎からマネジメントまでを学ぶ「森林環境管理学プログラム」を提供しています。このプログラムは、森林・林業に関する実践的な知識を身に着けたい人向けで、集中講義形式で実施されます。
実習・演習を除くすべての講義はリモート受講が可能で、実習・演習は愛媛大学の樽味キャンパスと久万高原キャンパスで行われます。プログラムを全て履修すると、愛媛大学長名で履修証明書が交付され、森林経営管理エキスパートの称号が授与されます。
リカレント教育では教育訓練給付制度の利用が可能
リカレント教育を受ける場合、教育訓練給付制度の対象となることがあります。ここでは教育訓練受給制度の種類についてご紹介します。
一般教育訓練給付金
一般教育訓練給付金は、職業能力開発を目指して教育訓練を受ける個人に向けた国からの助成金です。この制度を通じて、対象講座の受講料の一部が給付金として支給されます。利用条件を満たし、事前に申請をすることで、資格取得やスキルアップを目指す社会人が経済的支援を受けることが可能になります。
特定一般教育給付金
特定一般教育給付金は、特定の職業への就職や転職を目指す人々に対して提供される助成金です。この制度は、専門的なスキルや資格が必要な職業関連の教育訓練プログラムの受講料の一部を補助し、専門性の高い職業能力の向上を目指す社会人を支援します。
対象となる講座は、厚生労働省によって指定されたもので、申請者は特定の条件を満たす必要があります。
専門実践教育訓練給付金
専門実践教育訓練給付金は、高度な専門知識や技能が求められる職業への就業を目指す社会人向けの助成金です。国に認定された専門実践教育訓練講座を受講する際の費用の一部を補助し、キャリアアップや新しい職業領域への挑戦を目指す人々に対して、学習機会の拡大と経済的支援を提供します。
対象となる講座は、実践的なスキル習得の機会を提供するものであり、申請者は講座受講前に特定の条件を満たす必要があります。
リカレント教育を大学で受ける方法まとめ
社会人に適した学びの場を提供している大学は多数存在しています。平日夜間や土曜日に開講されるプログラムも豊富にあり、いつでもどこでも学習できるオンライン講座の数も増加しているため、働きながらでも本格的な学習環境を整えることが可能です。
さらに、一流の講師陣から学べるのは、大学ならではの大きな魅力でもあります。キャリアアップや転職を視野に入れて学び直しを考えている人は、大学によるリカレント教育の活用を積極的に検討してみてる
参考資料
- 厚生労働省『リカレント教育』
- 経団連『大学等が実施するリカレント教育プログラム事例集』
- 文部科学省『私立大学等の令和5年度入学者に係る学生納付金等調査結果について』
- 文部科学省『学校基本調査』
調査結果の引用・転載について
本レポートの著作権は、株式会社ベンドが保有します。 引用・転載される際は、必ず「スキルアップ研究所調べ」のような形で出典を明記し、本記事のリンクを付してください。 引用・転載されたことにより利用者または第三者に損害その他トラブルが発生した場合、当社は一切その責任を負いません。