近年、コロナ禍のリモートワークの急増などを背景に働き方が大きく変化し、フリーランスとして働く人々が増加している。
しかし、企業や団体と比べてフリーランスは立場が弱く、不当な扱いを受けることも少なくない。
こうした状況を改善するため、フリーランスの立場を強化・保護する法改正が行われることとなった。そこで今回、フリーランスの労働環境の現状を調査し、法改正がフリーランスにどのような影響を与えるのかについて検証した。
- フリーランスの85%が法改正の内容を知らない
- 法改正はフリーランスの約7割に関わってくる
- 新法の義務項目によってフリーランスの労働環境の改善が見込める
フリーランスの85%がフリーランス法改正をよく知らない
フリーランス100人に対して「2024年11月1日からフリーランスの法改正(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が施行されることを知っていますか?」と尋ねたところ、「よく知っている」と回答した人はわずか15%で、85%が法改正の内容を知らないことが分かった。
フリーランス法改正はフリーランスの間でほとんど認知されていないことが判明した。
フリーランスの立場を強化・保護する法改正が実施される
フリーランスとは、特定の企業や団体に所属せず、企業などから業務の委託を受けて働く事業者のことを指す。
コロナ禍におけるリモートワークの急増などをきっかけにフリーランスは近年増加している。
それを背景にフリーランスの立場を強化・保護する「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」が2023年4月28日に成立し、2024年11月1日に実施される。
フリーランス法改正の内容
この法改正は、全てのフリーランスと呼ばれる人に適用される訳ではなく、
①個人の事業者であって、従業員を使用しないもの
②法人であって、代表者以外に他の法人がおらず、かつ、従業員を使用しないもの
以上の形態のフリーランスに適用される。
またこの法改正は企業や団体からフリーランスへの委託を対象にしており、消費者からフリーランスへの委託やフリーランスが作った商品の売買は法改正の対象ではない。
今回の法改正は、フリーランスが企業などから受託した業務に安定的に従事できる環境を整備することを目的としており、委託事業者とフリーランスの取引において、委託事業者に対し、
- 書面等での契約内容の明示
- 報酬の60日以内の支払い
- 募集情報の的確な表示
- ハラスメント対策
等の遵守すべき義務項目が設けられている。
フリーランス新法では、罰則の規定も設けられており、より徹底的にフリーランスの立場を保護できるようにしている。
また図のように、発注事業者が満たす要件に応じて遵守すべき義務項目が異なる。
フリーランス法改正の対象となるフリーランスは全体の約7割
今回の法改正は従業員を使用しないフリーランス、かつ企業や団体などからの委託取引を対象にしている。
フリーランス100人に対して「従業員を使用していますか?」「取引の相手はどれですか?」という二つの質問を行った。
「従業員を使用しない/取引の相手は企業や団体などの事業者」と回答した人は38%、「従業員を使用しない/取引の相手は企業や団体などの事業者と消費者、いずれも含む」と回答した人は34%であった。
この結果より、今回の法改正はフリーランス全体の72%に適用されることが分かり、法改正は大半のフリーランスに関わってくることが分かる。
法改正はフリーランスのおよそ7割が対象になるにも関わらず、先の結果からもわかるように法改正はほとんど認知されていない。認知度の向上は、やはり今後の重要な課題と言える。
フリーランスは立場が弱いと感じている人は多い
「事業者との取引において、フリーランスは弱い立場に置かれていると感じることがありますか?」という質問に対し、29%のフリーランスが「よくある」、49%のフリーランスが「時々ある」と回答した。
この結果から、ほとんどのフリーランスが「フリーランスは立場が弱い」と感じていることが分かった。
今回のフリーランスの立場を保護・強化する法改正は、現場の声に即したものであると言える。
フリーランスは立場が弱いため不当な扱いを受けることがある
フリーランス100人に対して「事業者との取引において、実際にあったトラブルを教えてください。」と質問すると、全体の31%が「報酬の未払い、遅延」と回答し、一番多かった。
他にも全体の22%が「不当な契約内容の変更」、12%が「唐突な契約解除」を経験しており、立場が弱いゆえに不当な扱いを受けやすいフリーランス特有の実態が、数値としても明確になった。
法改正によりフリーランスの労働環境は変わるのか
フリーランス法改正は実際にフリーランスの労働環境を変えるのか、またフリーランスの目線から法改正はどのように見えているのかについて調査を行った。
あらゆる面においてフリーランスの労働環境の改善が見込める
フリーランス100人に法改正により企業が遵守すべき義務項目のうち、今までの取引先企業が守っていた項目について質問した。
その結果、どの項目も多くて7割の企業しか守っておらず、中には「育児介護等と業務の両方に対する配慮」や「ハラスメント対策のための体制整備」などは2割以下の企業しか守っていない項目があることが分かった。
フリーランス法改正によって、あらゆる面においてフリーランスの労働環境が改善することが期待できる。
フリーランスは法改正をプラスに捉えている
フリーランス100人に対して「フリーランスの法改正をどう捉えていますか?」と質問をすると、「良い影響が大いに期待できる」と回答した人は67%で、「多少の良い影響が期待できる」と回答した人は67%であった。
この結果より、8割のフリーランスは法改正に対して好印象を抱いているが、大幅な労働環境の改善を期待している人はわずかであると言える。
ほとんどのフリーランスが法改正で多少のトラブルは解消されると思っている
フリーランス100人に対し「フリーランスの法改正によって、取引先とのトラブルがなくなると思いますか?」と質問をすると、「なくなると思う」と回答した人はわずか5%で、「多少は無くなると思う」と回答した人は81%であった。
フリーランスの法改正で、根本的にトラブルがなくなると考えているフリーランスはほとんどいないが、法改正の有効性への期待がうかがえる結果となった。
案件が良ければ法改正関係なく取引するフリーランスが多い
「フリーランス法改正に向けた準備を進めていない企業についてどう思いますか?と言う質問に対し、27%の人が「案件が良ければ取引したい」、60%の人が「案件が良ければ、どちらかと言えば取引したい」と回答した。
案件次第では法改正に対応準備をしていない企業でも取引をするというフリーランスが多いため、法改正が施行されても現場での遵守が徹底されない可能性が指摘できる。
フリーランス新法は不当な扱いを受けたフリーランスの切り札になりえる
「法改正施行後、取引先企業がフリーランス新法に違反していた場合どう対処しますか?」という質問に対し、「違反を指摘して取引を中止する」と回答した人が39%で最も多かった。
この結果から取引先の違反に対処する意志を持ちながらも、取引を続けたいという強い意向を持っているフリーランスが多いと言える。
一方で、違反の指摘、取引の中止の少なくともいずれかをするという人は全体の77%を占めており、フリーランス新法は不当な扱いをされたフリーランスにとって役立つものになることが期待できる。
今後の課題・展望
今回の調査から、フリーランスが自身の立場の弱さや不当な扱いを強く感じている現状が明らかになった。これを受けて実施されるフリーランス新法は、多くのフリーランスを保護の対象としており、労働環境の改善を目指した妥当な法改正である。
また今回の調査で、現時点でフリーランス新法の義務項目を守っている企業は少ないことが判明し、法改正によってフリーランスの労働状況があらゆる面で改善することが期待できることが分かった。
そのためには、フリーランスと企業の両方が法改正を十分に理解する必要があり、企業側の法遵守を促進し、違反を防ぐ仕組みの整備も求められる。
しかし実際のところ法改正はフリーランスのわずか15%しか理解しておらず、ほとんどが法改正をよく知らないということが分かった。
今後は、法改正の認知度を向上させ、フリーランス自身が新法を「切り札」として活用できる体制を整えれば、フリーランスの労働環境の大幅な改善につながると言える。
調査概要
項目 | 詳細 |
調査名 | フリーランス法改正に関する実態調査 |
対象者 | 現在、フリーランスとして働いている方 |
対象地域 | 全国 |
調査方法 | インターネット調査 |
調査期間 | 2024年9月13日〜2024年9月20日 |
回答数 | 100 |
調査結果の引用・転載について
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