近年、海外留学はスキルアップの一環として社会人からも注目を集めている。
しかし、留学を希望する人のうち実際にどのくらいが留学に行っているのかや、留学に行くことを断念する人はどのような理由から断念しているかは明確ではない。
また、留学に行くにあたりどのような支援が必要とされており、実際にはどのような支援が利用されているのかも、明らかではない。
そこで今回、スキルアップ研究所では留学に行くことを検討したことがある人を対象に調査を行い、実際の留学率や留学支援の実態を検証した。
- 留学を検討した人のうち67%が留学に行くことを断念
- 断念した人のうち約7割が経済的理由を一因として回答
- 渡航費支援、留学後のキャリア支援への要望が多い
留学を検討した人のうち67%が実際には留学断念
回答者全員(300名)を対象とした「実際に留学に行きましたか?」という質問に対し、67%にあたる201名が「いいえ」と回答した。
この結果から、留学検討者のうち2/3が留学に行くことを断念していることがわかる。つまり、実際に留学に行く人を増やす余地は大幅に残されていると言える。
留学を断念した人の断念理由についても以下で検証する。
留学に行った人のうち、奨学金利用者はわずか28%
留学に行った人を対象とした「留学の際に奨学金などの経済的支援を受けましたか?」という質問に対し、「はい」と回答したのは回答者の28%にとどまった。
したがって、7割以上の人は経済的な支援を受けることなく留学に行っていることがわかる。
奨学金利用者の奨学金に対する満足度は75%
奨学金を利用した人を対象とした「奨学金の内容に満足していますか?」という質問に対し、75%が「満足している」と回答した。
奨学金の利用率は低い一方で、奨学金自体に対する満足度は高いことがわかる。
より多くの人が奨学金の恩恵を受けられるようにすることが求められる。
留学を断念した人のうち、68%が経済的理由
実際には留学に行かなかった人(201人)を対象として留学に行かなかった理由を尋ねたところ、68%にあたる138人が「経済的に難しかったため」と回答し、最も多かった。
この結果から、留学を断念する理由として経済的な理由が圧倒的に多く、半数以上の人が経済的な理由から留学に行かなかったことがわかる。
一方で、世帯収入の多寡や為替相場など、経済的理由の中にもさまざまな要素があると考えられる。また、年代や職業など、どういった層に留学への経済的支援のニーズが多いかは今回の調査では不透明であり、今後さらなる調査の余地が残されていると言える。
さらに、留学を促進するにあたり、このように経済的困難から留学に行けない人への支援を拡充することが重要だと言える。
奨学金が利用できていれば留学した人は65%
留学を断念した理由に「経済的に難しかったため」と挙げた人を対象に、「奨学金が利用できれば留学に行っていましたか?」と質問すると、65%にあたる89名が「はい」と回答した。
留学を促進するには、経済的理由から留学を断念している層が奨学金を利用できるようにすることが最も有効な手段であると考えられる。
「安全性」や「人間関係」への不安も留学断念理由として多数
経済的な困難から留学を断念する人が圧倒的に多い一方、留学先の安全性や人間関係についての不安もそれぞれ37名(18%)、34名(16%)と、一定数の人がこれらを理由に留学を断念している。
こうした不安材料の解消も、留学を促進するために不可欠だと言える。
以下で、こうした「留学に行かなかった理由」と関連して、留学時のサポートに対しての需要や利用実態を明らかにする。
奨学金以外では渡航費・キャリアの支援が需要大
留学に行った人を対象として、留学時のサポートで最も充実させてほしいものを尋ねたところ、23%が「留学後のキャリア支援」と回答し最多となった。
留学は、資格やMBAなどの学位とは異なり、直接的に今後のキャリアパスに繋がるものではなく、留学経験の生かし方や留学後のキャリアの幅は非常に広い。そのため、キャリアサポートの潜在的需要は大きいと言える。
また、社会人にとって留学は退職または一時的な休職を伴うものであるため、留学後の復職や中途採用の支援といったキャリアサポートの充実は、社会人にとっての留学によるリスクを減らし、結果的に社会人の留学を促進すると言える。
一方で、キャリアサポートの需要は見えづらく、支援が追いついていない現状があり、留学サポートとして着手すべき分野としての優先度は非常に高いと言える。
奨学金以外では住居探し、安全・保険サポートの利用率が高い
また、留学に行った人を対象に、奨学金以外で利用した支援について尋ねたところ、38名が「住居探しなど現地でのサポート」を利用しており最も多く、次いで36名が「留学先での安全サポート・保険サポート」を利用している。
全体の中でこれら二つのサポートが半数以上を占めており、非常に有効な支援だと考えられる。
「留学の際に最も助かったサポートを教えてください」という質問に対しても27%が「住居探しなど現地でのサポート」、23%が「留学先での安全サポート・保険サポート」と回答しており、これらは満足度も高い優れた支援だと言える。
「休職できず留学断念」のうち81%は会社に支援制度が存在せず
留学に行かなかった理由として、「会社を休職できなかった」とした人に対し、会社における留学支援制度の有無を尋ねたところ、81%が「存在しない」と回答した。
そのため、留学を促進するためには休職許可を含む留学支援制度の拡充が重要だと言える。
また、残りの18%は「存在するが利用できなかった」と回答しており、会社においてこうした制度の利用も促進する必要がある。
休職できれば留学に行っていた人は72%
会社を休職できなかったため留学を断念した人のうち72%が、会社を休職できていたら留学に行っていたと回答した。
こうした潜在的な留学への需要を満たすためにも、企業における留学支援制度は拡充するべきだと言える。
総括
留学を検討した人のうち、67%が実際には留学に行っていないことから、留学を促進する余地は非常に多く残されていると言える。また、奨学金の利用者が留学した人の28%であることからも、留学者に対する経済的支援も拡充の余地は多く残されていることが分かる。
留学を断念した人の理由のうち、68%が経済的理由であり、断念した人の中でも「奨学金を利用できれば留学に行っていた」という人は65%と非常に多い。奨学金を受給できる人数を増やすことが留学を促進する上で最も有効な手段だと言える。人材育成のための投資として、国や民間企業が財源を確保することが求められるだろう。
奨学金以外では、渡航費支援やキャリアサポートへの需要が高いことも明らかとなった。留学で得た知見を最大限に還元するには、キャリア支援の拡充は必要不可欠と言える。さらに、会社を休職できずに留学を断念した人のうち、81%の会社において留学支援制度が整備されていなかった。企業側にも留学を促す態度が求められていると言える。
現代社会ではグローバル化が進行し、国内での少子高齢化が進行する中で、高いレベルの教育を受け国際的に活躍できる人材の育成は急務である。留学はこれらを達成する最適な手段であり、今後留学支援の強化は欠かせない。
調査概要
項目 | 詳細 |
調査名 | 留学希望者への留学支援に関する実態調査 |
対象者 | 留学に行くことを検討したことがある人 |
対象地域 | 全国 |
調査方法 | インターネット調査 |
調査期間 | 2024年9月9日〜2024年9月16日 |
回答数 | 300 |
調査結果の引用・転載について
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