近年、働き方改革やリモートワークの普及に伴い、新たなキャリアを求めて転職を検討する人が増えている。
しかし、転職活動は時間と労力だけでなく、予想以上の費用がかかるのではないかという懸念を持つ人も多いだろう。
そこで、転職活動による費用負担やその内訳などの実態を解明すべく、スキルアップ研究所では転職活動にかかった費用に関する実態調査を実施した。
- 3割以上が転職にかかった総費用は1万円以下
- 離職期間がある人の方が転職にかかる費用が多い傾向
- 1番痛手に感じる出費は生活費
3割以上が転職にかかった総費用1万円以下
転職にかかった総費用について転職経験者に尋ねたところ、最も多かったのは「5,000円~10,000円」の範囲で、全体の18.8%を占めた。
「0円~5,000円」が17.6%で続いており、「0円~5,000円」と合わせると、約36%の転職者が1万円以下の費用で転職を実現していることが判明した。さらに、5万円以下で転職を実現した人が全体の約8割にのぼった。
一方で、「100,000円~」という高額な費用がかかったケースも10.2%存在することから、一概に一定以下の出費で収まるとは断言できないようだ。
転職にかかる費用には大きな個人差があることが明確に示された。
離職期間がある人の方が転職にかかる費用が多い傾向
転職期間にかかった総費用について、離職期間があった人と離職期間がなかった人の回答を比較すると、異なる傾向が見られた。
離職期間があった回答者では、転職にかかった費用が5,000円未満と回答した層の割合が13.9%にとどまっている。一方で、離職期間がなかった回答者では同回答が24.9%となっていることから、離職期間がある場合に転職にかかる費用がわずかに収まるケースが少ないことがわかる。
一方で、高額な費用がかかったという層に目を向けると、30,000円以上かかった人の割合は、離職期間があった回答者では35.1%と、離職期間がなかった人の26.9%を一定程度上回っている。
これらより、離職期間がある人の方が転職にかかる費用が多くなる傾向にあると言える。離職期間が生じる場合は、より多くの費用がかかる可能性を念頭に置き、十分な資金の確保や効率的な転職活動の計画が必要だろう。
1番痛手に感じる出費は生活費
転職で痛手に感じた費用について尋ねてみると、次のことが分かった。
最も多くの回答者が1番かかった費用として挙げたのは「生活費」であった。計199人が2番目までに選択し、回答者のほとんどが主要な支出項目にあげたことが分かる。これは、転職活動中の収入減少や無収入期間における生活維持の困難さを反映していると考えられる。
2番目に多かった費用項目は「交通費・ガソリン代」で、計166人が主要な支出として2番目までにあげた。面接や企業訪問のための移動費用が転職活動において無視できない負担となっていることが分かる。
3番目に多く選ばれたのは「証明写真の撮影・印刷費用」で、82人が主要な支出項目として挙げている。履歴書や職務経歴書に添付する写真の準備が、予想以上に費用がかかる項目であることが明らかになった。
これらの結果から、転職活動には直接的な費用だけでなく、生活維持や移動にかかる間接的な費用も大きな負担となっていることが分かる。転職を考える際には、これらの費用を事前に見積もり、十分な準備をすることが重要であると言える。
6割以上が対面面接
比較的多くの人が転職活動をする中で痛手に感じる出費として交通費・ガソリン代を挙げたが、面接方法について尋ねたところ次のことが分かった。
回答者の66.3%が「会社で面接を行った」と回答しており、これは全体の3分の2を占めていることから、従来の会社での対面面接が依然として主流であることが明らかになった。これは、痛手に感じる出費として交通費・ガソリン代をが多くあげられていることに一致する。
一方で、リモート面接の普及も進んでいることも読み取れる。「リモート面接を行った」と回答した人は17.3%に上る。さらに、「どちらも行ったがリモート面接が多かった」と答えた人が7.4%いることから、完全リモートとまではいかないものの、リモート面接を主体とした転職活動を行った人も一定数存在することが分かる。
これらの結果から、転職市場における面接形態は、従来の対面式を基本としつつも、リモート面接の導入が着実に進んでいると考えられる。そのため、面接による交通費等の出費は今後徐々に減少することが予想される。
3割以上が転職活動以前と比較して生活費は変化なし
転職活動中の生活費の変化について尋ねてみると、次のことが分かった。
最も高い割合を示したのは「転職活動以前と比較して生活費が変化しなかった」で、全体の35.9%を占めている。これは、多くの転職者が通常の生活水準を維持しながら転職活動を行っていることを示唆している。
次に高い割合を示したのは「転職活動以前と比較して生活費が少し減った」で23.1%となっている。これに「転職活動以前と比較して生活費がかなり減った」(6.5%)を合わせると、約30%の転職者が生活費を削減していることが分かる。これは、転職活動中の収入減少や将来の不確実性に備えて、支出を抑制する傾向があることを示している。
一方で、転職活動以前と比較して生活費が「少し増えた」または「かなり増えた」と回答した人も計3割以上にのぼった。
転職活動中は、収入の変化や予期せぬ出費に備えて、柔軟な家計管理が必要となる可能性が高い。転職活動に伴う追加費用を事前に見積もり、準備しておくことが重要だと言える。
生活をする上で最も講じた策は節約
転職活動中の生活対策について、最も講じた対策と2番目に講じた対策について尋ねたところ、次のようなことが分かった。
最も多く選択されたのは「生活する上で節約した」という回答で、1番目と2番目の選択を合わせて183人が選んでいる。これは、多くの転職者が収入の減少に備えて生活費を抑える努力をしていることを示している。
次に多かったのは「一定の貯金をした」で、119人が選択している。この結果は、転職を見据えて事前に資金を蓄えておく重要性を多くの人が認識していることを示唆している。
一方で、「アルバイトをして資金調達をした」人は58人、「投資などで資金調達をした」人は30人と、転職活動中に積極的な資金調達策を取る人は少数であることが分かった。
「なにもしていなかった」という回答に注目してみると、回答者が154人と2番目に多かった点である。これは、十分な貯蓄があった場合や、転職までの期間が短かった場合などが考えられるが、詳細な理由については今後調査が必要である。
この結果から、多くの転職者が節約や貯金といった堅実な方法で生活維持を図っていることが明らかになった。同時に、何も対策を講じていない人も一定数存在することから、転職活動における経済面の準備の重要性を改めて認識させられる結果となっている。
転職を始めたときの貯金額は100万円未満が4割弱
転職活動時の貯金額について尋ねてみると、最も多かったのは100万円未満の貯金額で、全体の38.5%を占めている。また、300万円未満の貯金で転職活動を始める人が全体の73.4%を占めた。
2人以上の世帯の平均消費支出が約28万円(出典:厚生労働省「家計調査」)であることから、100万円の貯蓄は単純計算で3ヶ月程度分にあたる。一人暮らしの場合は2人の場合よりより消費支出が抑えられ、また、二人暮らし以上では配偶者等別の収入源がある場合も多いことを踏まえると、100万円程度の貯金があれば一定の余裕がある生活ができると考えられる。
一方、貯金が少ない場合や、ひとり親家庭など、収入源が自身だけであるにもかかわらず家庭の人数が多い場合では、貯金に頼るのにも限界があり、金銭的に転職に踏み切りづらくなるケースが多いと考えられる。
離職者のうち半数が失業手当を利用せず
離職を経験した方を対象に失業手当の受給について尋ねてみると、転職活動中に失業手当を受け取った人は50.9%、受け取らなかった人は49.1%となっている。この結果から、半数の転職者が失業手当を活用していることが分かる。
失業手当の利用率が半分程度にとどまっている原因としては、すでに転職活動を進めているために離職期間が長期化しないことが明確になっていることや、十分な貯蓄があり利用の必要がないことなどが考えられる。
約6割が転職活動中にアルバイトや投資をしていない
転職活動中におけるアルバイトや投資などの副業について尋ねてみると、最も高い割合を示したのは「どちらもしていない」で、58.9%の転職者が転職活動中に副業を行っていないことが分かる。
これは、多くの転職者が転職活動に専念していたか、あるいは十分な貯蓄や失業手当などで生活を維持できていたことを示唆している。
転職活動に専念したい場合は、十分な貯蓄や失業手当の活用を検討し、副業なしで活動できる環境を整えることが重要である。
講じておけばよかった策として貯金が半数
転職活動を経験した人に活動中に講じておけばよかったと考える対策について尋ねたところ、次のようなことが分かった。
最も高い割合を示したのは「一定の貯金」で、47.7%の回答者がこれを選択している。この結果は、多くの転職者が転職活動中の経済的安定性の重要性を、実際の経験を通じて認識したことを示唆している。転職活動開始前からの計画的な貯蓄の必要性が、改めて浮き彫りになったと言えるだろう。
次に高い割合を示したのは「投資などでの資金調達」で15.9%となっている。これは、単なる貯蓄だけでなく、資金を増やす積極的な方策の必要性を感じた転職者が一定数いることを示している。
転職開始した時点での貯金額が300万円を下回る人が7割程いたことも考慮すると、このように経済的余裕をもつことは、多くの転職する人にとって需要なことであることが分かる。
今後の課題・展望
今後、転職にかかる費用の負担軽減が喫緊の課題である。3割以上が1万円以下に抑えられた一方で、離職期間が長期化すると多大な費用負担が発生している。このため、離職期間の長期化を防ぐ施策や、転職時の費用負担を軽減するサポート体制の整備が求められる。
最も痛手となる出費として多くの人が挙げているのが生活費である。転職活動中の生活費を抑えるための具体的な支援策や一時的な補助、さらには節約以外の負担軽減方法の提供を検討する必要がある。
経済的基盤の脆弱さも明らかになった。転職開始時に貯金額が100万円未満の人が4割弱存在し、離職者の半数が失業手当を利用せず、アルバイトや投資も行わない傾向が見られた。貯金を促進する施策や、転職期間中の収入確保の選択肢を増やすことが重要である。
政府は求職者支援制度を実施しているが、その認知度をさらに高める必要がある。また、より多くの人が受給できるよう制度改革も求められる。加えて、企業も積極的に支援を行い、転職活動をしやすい環境づくりをすることが今後の重要な課題である。
以上を踏まえ、転職活動の効率化と支援が不可欠である。経済的な不安を軽減するための対策や、貯金の重要性を啓発し事前の経済的準備を促すプログラムの展開が求められる。これらの施策により、転職者の経済的負担を軽減し、より円滑な転職活動の実現を目指すべきである。
調査概要
項目 | 詳細 |
調査名 | 転職活動にかかった費用に関する実態調査 |
対象者 | 転職を経験している方 |
対象地域 | 全国 |
調査方法 | アンケート調査 |
調査期間 | 2024年7月1日〜2024年7月7日 |
回答数 | 324 |
調査結果の引用・転載について
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