コロナ禍を経て急速に拡大したリモートワークであるが、業界によって意識や取り組みには差がある。IT業界と非IT業界では、リモートワークの頻度や取り入れやすさ、取り入れるうえでのメリットやデメリットなどにはどのような傾向があるのだろうか。
スキルアップ研究所では、IT業界のリモートワークの実態を解明するべく、IT業界と非IT業界の差に焦点を当て、調査を実施した。
- 90%以上がIT業界はリモートワークに適していると回答
- IT業界の50%以上がリモートワークを活用している
- 就活・転職活動においてリモートワークの有無は重要度が低い
IT業界はリモートワークを取り入れやすい
90%以上がIT業界はリモートワークを取り入れやすいと回答
世間のイメージでは、IT業界とリモートワークは密接な関係があるようだ。
「IT業界はリモートワークを取り入れやすいと思いますか?」という質問に対し、IT業界の経験を問わず90%以上の方が「はい」と回答した。
これは、IT業界が他の業界に比べて物理的な場所や時間にとらわれにくいことが大きな要因だと考えられる。
IT業界は物理的な作業や場所に依存しない
IT業界がリモートワークを取り入れやすい理由は業務の特徴にあるようだ。
「どのような理由でIT業界はリモートワークを取り入れやすいと考えていますか?」という質問に対し、IT業界経験者の45.8%が「作業のデジタル化が進んでおり、物理的な文書の記入などが少ないから」、43.4%が「物理的な場所に依存せずPCでできる業務が多いから」と回答した。
昨今注目を集めるDXによる業務のデジタル化に関して、IT業界経験者の方が、デジタル化によるリモートワークの取り入れに貢献していると考える人の割合がやや高いと分かった。一方、IT業界未経験者では、過半数がIT業界の「場所にとらわれない働き方」に強い印象を抱いている。
IT業界では、業務のデジタル化が進む中で、IT業界のPCでの場所にとらわれない働き方を認識している。さらに、IT業界以外の方は、IT業界以外でも業務のデジタル化が進んでいるため、自分の勤める業界と比較した際に、働き方の観点からIT業界のリモートワークの取り入れやすさを実感していることが考えられる。
IT業界は他の業界よりもリモートワークが推進されている
IT業界の20%以上が月の半分をリモートワーク
「どのくらいの頻度でリモートワークをしていますか?」という質問に対し、IT業界経験者と未経験者で回答に特徴が現れた。IT業界未経験者は77.0%の方が月0~3回しかリモートワークを行っていないのに対し、IT業界経験者の20%以上が月の半分以上をリモートで働いていることが分かった。
IT業界は、他の業界の仕事に比べて場所にとらわれない仕事が多くリモートワークを取り入れやすい環境であるが、実際にそれが数値となって現れる結果となった。
IT業界の方がリモートワークを活用している人の割合が高い
「あなたの会社ではどのくらいの割合の人がリモートワークを取り入れていますか?」という質問に対し、IT業界経験者と未経験者の回答に特徴が現れた。
まず、会社でリモートワークを取り入れている方が0~20%だと回答した方の割合について、IT業界経験者は41.5%、未経験者は70.5%と回答した。
また、「会社の60%以上が取り入れている」と回答した割合は、IT業界経験者が未経験者の約2倍であった。
上記2つの設問から、IT業界は、他の業界よりも積極的にリモートワークを活用していることがうかがえる。
リモートワークでは集中できる環境づくりが重要
リモートワーカーの約90%が家で仕事をする
リモートワークを行う場所には、特徴があるのだろうか。
「リモートで働く日はどこで仕事をすることが多いですか?」という質問に対し、業界を問わず90%以上の方が家で働いていることが分かった。
後述にあるように、リモートワークの大きなメリットの一つとして「通勤や移動時間の削減」があげられる。そのため、移動コストがかからない在宅での勤務が好まれていると考えられる。
リモートワークには集中できる環境と定期的な休憩が重要
リモートワークは時間を有効活用することができる反面、集中できる環境づくりが難しいという課題がある。
「どのようにして集中できる環境づくりをしていますか?」という質問に対し、IT業界の経験を問わず「仕事専用の部屋やスペースがある」への回答が多いことが分かった。一方、IT業界経験者の回答としては「定期的に休憩をとる」が多く、IT業界未経験者の回答としては「SNSの通知をオフにして誘惑に負けないようにする」が多かった。
特に、業務中にSNSへ向く意識は、IT業界経験者と未経験者で大きな差があるようだ。非IT業界では、SNSの誘惑が集中の遮断要因になるほどに、リモートワークの環境が十分に整備されていない可能性がある。リモートワークの管理側の環境整備も、今後より求められるようになるだろう。
また、IT業界では定期的な休息の必要性がより強く認識されている。業務内容の特性上、一人で黙々と作業する時間やPC画面を見る時間が長く、休息の持つ効果が大きいと考えられる。
就活・転職活動においてリモートワークの有無は重要度が低い
多くの人がその恩恵を受けているリモートワークであるが、就活や転職で企業がリモートワークを取り入れているかどうかを重要視している人はどれくらいいるのだろうか。
これを明らかにするため、「就活や転職活動の際、企業がリモートワークを採用しているかをどれくらい気にしますか?」という質問をしたところ、IT業界経験者では約70%、IT業界未経験者では85%がリモートワークかどうかは気にしていないことが分かった。
一方で、IT業界経験者では、リモートワークを重視する層がIT業界未経験者の約2倍の割合にのぼることが明らかになった。IT業界は仕事内容の性質上、場所にとらわれない働き方をできることが魅力の一つであるため、IT業界の方がリモートワークが重視される傾向にあることは必然と言えるだろう。
課題は対面でのコミュニケーションとモチベーションの維持
リモートワークで生じる課題には、業界間で違いがあるようだ。
「リモートワーク中で最も課題と感じるものは何ですか?」という質問に対し、業界を問わず一番の課題は「同僚との対面でのコミュニケーション」であった。
また、「モチベーションの維持」と答えた人の割合に関しては、IT業界経験者はIT業界未経験者の約半分であった。職種によっては一人で作業をすることも多いIT業界では、リモートワークであってもモチベーションの維持が比較的容易にできるのだと考えられる。
リモートで働くメリットとデメリット
約50%の方が一番のメリットは「通勤時間の削減」と回答
「リモートで働く一番のメリットはなんですか?」という質問に対し、最も多かった回答は「通勤時間の削減」である。また、「自分の時間が確保しやすい」という回答も多く集まった。
リモートで働くことのメリットは、IT業界経験者と未経験者で似た傾向があることが分かった。リモートで働くことによって得られるメリットは、業務内容に寄与するものより、働きやすさに繋がるものが中心であるため、業界を問わず似た傾向になることが考えられる。
30%以上の方が一番のデメリットは「コミュニケーションの機会損失」と回答
リモートワークのデメリットは、業界を問わず似た傾向にある。
「リモートで働く一番のデメリットはなんですか?」という質問に対し、IT業界経験者では「インターネットやハードウェアの不具合で業務に支障が出やすい」が最も多く、35.7%が回答した。一方で、IT業界未経験者の40%以上が「コミュニケーションが取りづらく組織としての連帯感が薄れる」と回答した。また、IT業界経験者・未経験者ともにこの2つの回答が6割以上を占めた。
メリット同様、リモートワークのデメリットも業務内容に依存するものではなく形態そのものに依存するため、業界を問わず似た傾向になるようだ。
IT業界経験者の過半数がリモートワークの方が働きやすいと回答
リモートワークは、オフィスワークと組み合わせてハイブリットで活用するべきであろう。
「リモートワークとオフィスワークを比較して、どちらの方が働きやすいと感じますか?」という質問に対し、IT業界経験者の60%以上が「リモートワーク」と回答した。一方、IT業界未経験者で「リモートワーク」と回答した人の割合は約4割であった。
IT業界は他の業界よりもDXによる業務のデジタル化が進んでいるため、リモートで働くことによって生じる障害が少ないと考えられる。
職種によって業務内容が異なるため一概には言えないが、IT業界ではリモートワークに適した業務での働きやすさをより感じやすい環境であろう。
今後の展望・課題
今回の調査で、IT業界は他の業界に比べ、リモートワークを取り入れやすく、実際に積極的に活用していることが分かった。IT業界がリモートワークを取り入れやすい要因としては、業務のデジタル化が進んでいることや物理的な場所に依存する必要がないことがあげられる。
また、就活や転職活動において、IT業界では、企業がリモートワークを取り入れているかを重要視する人が多いことが分かった。今や、リモートワークはIT業界の魅力の一つだと言えるだろう。
しかし、リモートで働くうえで感じるメリットやデメリットなどは業界によって特徴的な違いは見られなかった。
コロナ禍で急速に拡大したリモートワークは、IT業界以外でも広く普及しており、多くの人がその働きやすさの恩恵を受けている。各自で業務に集中できる環境を作らなければいけない点は少々ネックであるが、移動コストを削減できることや自分の時間が作りやすいなど様々なメリットがあるため、今後も多くの人がリモートワークを活用するだろう。
調査概要
項目 | 詳細 |
調査名 | IT業界のリモートワークに関する実態調査 |
対象者 | IT業界で就業経験がある方/IT業界で就業経験がない方 |
対象地域 | 全国 |
調査方法 | インターネット調査 |
調査期間 | 2024年7月10日〜2024年7月17日 |
回答数 | 287 |
調査結果の引用・転載について
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