発展途上国の教育実態と技術革新がもたらす民間教育への影響|アイ・シー・ネット株式会社
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AIを筆頭にした技術革新が進む中、先進国だけでなく発展途上国でも教育環境は日々刻々と変化しています。
今回は発展途上国における教育支援活動等に携わられており、グローバルの教育実態に精通しておられるアイ・シー・ネット株式会社の方々に取材させていただき、発展途上国の教育の実態や、民間教育の役割、そして各国の教育における最新技術の活用状況についてお聞きしました。
発展途上国の教育の実態について
本日はお忙しい中、貴重な機会をいただき誠にありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。
アイ・シー・ネット株式会社(以下、IC Net)で代表取締役を務めています百田と申します。本日はよろしくお願いいたします。
同じくIC Netの井上と申します。よろしくお願いいたします。
発展途上国の教育については、ぼんやりとしたイメージしかない人がほとんどだと思います。こうした国の教育の実態について、まずは概要をお伺いしたいです。
一口に発展途上国と言っても、これらはLDC(最貧国)から中進国までとグラデーションがあり、それによって状況が大きく変わります。
例えば一人当たりのGDPが年間1000ドルに満たないような貧困国の場合、こういった地域では民間企業も活躍する余地もないので、公教育・私教育のどちらも十分に整備されていないのが現状になります。
これに対し、東南アジアなどの中進国に関しては公教育が整ってきているのは確かですが、先進国の模倣にすぎない形になっている国があります。これだと、形としては教育体制が整っていても実態としてのインフラが追いついていないという問題が生じてしまいます。
一方で、このような国で経済的余力が出てくると、公教育で不足している面を補う形で、民間企業が教育現場に参入してきます。それにより私教育が充実し、家庭内での教育価値が上がってくるという風潮が見られるようになります。
発展途上国における私教育の隆盛
発展途上国の実態をお伺いすると、やはり日本ほど公教育が整備されている国はなかなか見られないのですね。
一方で、こうした教育環境だからこそ、特に中進国では民間企業による教育というものがより大きな価値を提供し始めているということでしょうか。
そうですね。近年では、特にインドなどのリベラルな国では、私教育の分野で市場が充実するようになってきています。その影響で家庭教育向けの大きなプレイヤーも台頭するようになり、これらが国内を超えてグローバル市場にまで拡大していくケースも見られます。
特にデジタル分野に関しては、これらの成長過程国の方がむしろ日本よりも発展しているとも言えます。例えばベトナムやインドなどでは、BtoCのオンライン英語教育が発達してきており、日本より普及しています。
さらに近年は学校や塾向けのEdTechもかなり多く出てきており、学校では業務管理やLMSなどで活用されています。そのような国々で採用されている先進的なテック技術は、日本としても学べる余地が大いにあると考えています。
教育市場のグローバル化が進む中で、これらの海外の教育モデルや技術を学び、取り入れることは、日本の教育システムをより豊かにし、国際競争力を高めるために重要と思います。
ありがとうございます。近年ではAIによる教育も非常に注目されていますが、海外におけるAIを使った先進的な教育事例はありますか?
はい、現段階でメインストリームにはまだなっていませんが、そのような事例は少しずつ出てきています。例えばオンラインの会話型AIの技術が海外で取り入れられているケースが挙げられます。
具体的には、ベトナムですとELSAといったAIを使った英会話アプリが民間の間で流行しています。学校や幼稚園にも多く活用されており、特にアッパー層に多く支持されているといった現状になっています。
最近ではOpen AI社を筆頭にAI技術の発展が目まぐるしく、AI技術がメインストリームとなるのもかなり早い段階で起こっていくのではないかと我々は考えています。
ただし、少なくとも現状としてまだそこまでの段階には到達していません。AI技術の活用先としては教務マネージメントや、テストにおける問題の自動生成や結果の診断などにとどまっています。
発展途上国における民間教育サービスには、日本企業も学ぶべき点が多そうですね。
反対に、先程のお話では発展途上国の公教育の水準は日本と比べるとまだまだ低いというお話がございましたが、日本から公教育の支援を行うということもあるのでしょうか。
まずLDC(最貧国)の国々に対しては、自国の経済状況が厳しいため国の財政で教育にコストをかけられないことや、民間企業としてもできることは限られてくるため、自国での解決が厳しいと言えます。そこで、CSR(企業の社会的責任)でのサポートや、JICAや世界銀行などの国際協力機関が積極的に協力することが必要になってきます。
中進国については公教育の整備が形だけになっている国があるので、実態に即して教育インフラを整える必要があります。日本にはこういった国々に先立って教育環境を整えてきたノウハウがあるので、それらを伝えることで、教育水準を高めることができると考えています。
さらに、実態としてのインフラが追いついていない点で言えば、教師のステータス問題も大いに考えられます。教師のイメージや社会的なステータスは、日本と海外、特に成長国では大きく異なるのです。
日本では比較的尊敬される職業として教師が掲げられており、教員資格などの教師を育成する仕組みも整備されている一方で、発展途上国の教師たちの社会的評価や地位は決して高くありません。そのため優秀な人材が集まりにくく、こういった国々の中で体系的に教師を育成していくシステムを構築するのは困難を極めます。
そうした意味でも、教師のイメージを変えていくこと、教師を育成する仕組みを整えることが解決の糸口だと考えられます。
IC Net社の取り組みと今後の展望
IC Net様が実施しておられる、国際的な教育プログラムや協力関係について教えてください。これらのプログラムが地域社会や学生にどのような影響を与えていますか?
当社は、創業当初から人材育成について力を入れており、グローバル人材を育てるため、さまざまな教育事業を展開しています。
1つ例を挙げますと、学生が海外の現場に足を踏み入れ、自分の目で現地の課題を把握し、それをどう解決するか考えてもらうといった内容のスタディツアーがあります。直近では、長野県の高校生をカンボジアに連れて行って現地の高校生たちと1週間ほど協働学習をしてもらうというプロジェクトがありました。
参加した学生たちからは、とても衝撃を受け、常識や価値観が変わったという声があがっていました。さらに同行した職員からは、学生たちの行動がとにかく変わっていったという報告を受けました。カンボジアの高校性が積極的に意見をいうのでそれに触発される形で段々と自分の意見を言えるようになり、なんとか自分の意見を伝えていこうとする中で、彼らの英語能力は格段に上がっていきました。わずか1週間のプロジェクトでしたが教育効果がとても高いものだったと感じています。
加えて、国内が中心の事業ではありますが、高校生を対象にした教育旅行も手掛けています。観光がメインの修学旅行ではなく、探究型の教育プログラムを企画し、深い学びを得られるような修学旅行を企画・運営しています。教育旅行をきっかけにその地域に関心を持つ生徒が多いので、関係人口の増加に貢献できると考えています。
ありがとうございます。IC Net様は日本だけでなくグローバルな教育環境に広く携わっておられるわけですが、今後どういった目標を掲げているのでしょうか。
日本に関して言えば、海外の市場競争環境でも、優れたグローバル人材と対等に仕事ができるような人材を、日本からも排出できるようにしたいと考えています。そのための基盤として、高等教育段階から、PBL(問題解決型学習)の分野で育成できるようなプログラムを日本でももっと提供できるようにしていきたいと考えています。
海外、特に成長市場においては、日本を含めた成熟国が歩んできた公私教育の発展段階をたどる可能性が高いと考えています。私たちはこれまでの経験を生かして、先を見据えた市場参入のステップを考えていきます。例えばベトナムでは、社会体制の性質上、現時点では公教育が先んじて発展しています。しかしさらに社会発展が進む中で、塾などの私教育の範囲がどんどん求められるようになります。その際に、学研グループがこれまでに日本で培った私教育、例えば学習塾のオペレーションノウハウを提供していきます。日本の教育分野はこの発展形態の持続的な成長を果たすことができず、現在は様々な課題に直面していますが、その経験も踏まえ、成長市場では同じ道を歩まないよう貢献していきたいと考えています。
本日は貴重なお話をしていただき、ありがとうございました。IC Net様の魅力をとても感じることができる時間になりました。