AI・ディープラーニングの知識で新たなビジネスを創出|日本ディープラーニング協会
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日常生活のさまざまな場面に登場するAI(人工知能)。ビジネスにおいてもその利活用が急務になっています。
一般社団法人日本ディープラーニング協会が実施するG検定は、AI・ディープラーニングの活用リテラシーを習得できる検定試験として受験者が急増しています。
今回は、一般社団法人日本ディープラーニング協会で専務理事を務めておられます、岡田隆太朗様にインタビューさせていただきました。
日本ディープラーニング協会・G検定とは
本日はお忙しい中、取材のお時間をいただき誠にありがとうございます。スキルアップ研究所を運営しております、株式会社ベンドの北川と申します。
本日はどうぞよろしくお願いいたします。
一般社団法人日本ディープラーニング協会の専務理事を務めております、岡田隆太朗です。よろしくお願いいたします。
まず初めに、一般社団法人日本ディープラーニング協会様が設立された背景についてお伺いできますでしょうか。
一般社団法人日本ディープラーニング協会は2017年の6月に設立されました。
当時は、2012年にディープラーニングの技術が再発明され圧倒的な成果を出し始めたことや、2015年に東京大学の松尾豊先生の『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』をはじめ、様々な方がAI・ディープラーニングに関する書籍を出版されたことからAIが注目を集めていました。
AIという学問分野自体は1956年から存在し、現在に至るまで様々なアプローチが行われてきました。その中でも2012年以降のディープラーニングによる成果は圧倒的と言えます。
この圧倒的な成果を出している技術を社会実装することで日本の産業競争力を高めることを目標に掲げて、一般社団法人日本ディープラーニング協会を設立しました。
一般社団法人日本ディープラーニング協会では、この目標を達成するために、AI・ディープラーニングといった技術の存在を多くの方に認知していただくとともに、関心を持っていただいた方に対して適切なAI・ディープラーニングの学びを提供する活動などをしています。
G検定で「道具としてのAI」がわかる
一般社団法人ラーニング協会様が実施されているG検定とはどのような資格検定なのでしょうか。
一般社団法人日本ディープラーニング協会は、AI・ディープラーニングに関する適切な学びを提供するために2017年の12月からG検定を開催してきました。
G検定のGはジェネラリストの頭文字です。広く一般的なAI・ディープラーニングに関する知識を身につけていただき、その知識を持っているかを確認するための検定となっています。試験では、AIの持つ性質や社会に技術を実装していくために必要となる法律や契約に関する知識が問われます。
このG検定の資格取得を通じて「道具としてのAI」がわかるようになっています。
G検定を創設された背景についてお伺いしたいです。
この検定を作った背景にはITバブルの頃の苦い経験があります。
当時は技術に関しての知見に乏しい企業がバズワードを濫用して仕事を受注していました。
実際の開発は下請け企業に依存していたために、結果としてコストも時間も浪費するという非効率的な構造が生じていました。
現在は生成AIをはじめとしたAI・ディープラーニングが大きな注目を集めていますが過去にも2度、一時的にAIが注目されたことがありました。しかし、いずれもブームにとどまり、AIに対する関心が薄れてしまう「冬の時代」を経験しました。技術についての正確な知識を持ち合わせている人を良貨、そのような知識を持ち合わせていない人を悪貨とするならば、何も対策をしなければ悪貨は良貨を駆逐してしまいます。
技術についての正確な知識を持ち合わせている人同士で「良貨」であることを互いに認証する制度の必要性を認識し、このG検定を創設しました。
なるほど。このG検定の資格を取得しているかどうかで、AI・ディープラーニングに関する正しい知識を持ち合わせているかどうか判別できるのですね。
G検定の資格を取得しているだけでは十分ではありません。
G検定はAIという最新のテクノロジーを扱っている試験であるために、試験ごとに問題が異なります。
G検定の合格者にはオープンバッジが授けられるのですが。「2024#1」のように、何年の何回目の試験に合格したのかまで記載されています。G検定を取得した時期がわかることによって、その人が最新の知識をキャッチアップできているかどうかまで判別することができます。
シラバス改定が再受験の目安
G検定は、一度取得したら終わりの試験ではないということですね。具体的にどのぐらいの期間が空いたら再度試験を受けた方が良いという目安はありますでしょうか。
シラバスが改訂されるタイミングは一つの大きな節目になります。
G検定はJDLAが公表しているシラバスに基づいて試験問題が作成されています。
このシラバスは2・3年おきに改訂され、G検定の中身もそれに合わせて変更されます。
新たなシラバスは2024年11月に実施される「G検定 2024 #6」より適用されます。これまで実施されたG検定を受験されて資格を取得された方も、受験し直す機会と言えます。
ジェネラリストこそG検定がおすすめ
一般社団法人日本ディープラーニング協会様が想定されているG検定の受験者像について教えてください。
全てのビジネスパーソンの方にG検定を受けていただきたいと考えています。
なぜなら、今後どのような分野に進むとしてもAIを道具として用いることは避けられないからです。
一般社団法人日本ディープラーニング協会の賛助会員として入会されている企業様の構成を見ても、製造業、金融業、医療やコンサルティングファームまであらゆる業種の企業様がいらっしゃいます。このことは、ディープラーニングやAIを活用してDXを推進していくことが生産性の向上に資するという認識が業界を超えて広がっていることの証左だと考えています。
ビジネスパーソンの中でもとりわけ、大きな意思決定に関わられている経営者や事業部長のような方にこそG検定を受験していただきたいと考えています。
会社の大きな意思決定に関わっている方に「道具としてのAIの扱い方」を理解していただくと、目の前の仕事の合理化にとどまらず、部門を超えた連携などの事業の大きな変革を生み出すことができると思います。
現在G検定を取得されている方はどのような職種の方が多いのでしょうか。
G検定合格者は情報システム・システム企画職や研究者の方が4〜5割と大きな比率を占めています。もちろん、情報システム・システム企画職や研究職の方にもG検定やその先のE資格を取得していただきたいです。
しかし、営業・経営企画・経理の方といったジェネラリストの方にこそG検定を取得していただきたいと考えています。なぜなら、実際にビジネスをAIに活用するかどうか判断し、事業を推進するのはジェネラリストの方々だからです。そうした方々にAIの特徴を理解していただいた上で、道具としてAIを使っていただくことが重要だと考えています
情報システム・システム企画職や研究者の方にとどまらず、ジェネラリストの方もAIに関する知識を身につけると実際にどのような変化が起こるのでしょうか。
名古屋市の印刷会社である西川コミュニケーションズ株式会社は、会社を挙げてG検定に取り組まれている良い例です。
西川コミュニケーションズ株式会社では、全社員の4分の1に当たる方がG検定を取得されています。
西川社長もG検定を取得され、最終的には全社員のG検定取得を目指されています。
社内でAI・ディープラーニングに関する知識を備えた人が増えた結果、社内で「AI」という単語が禁止になり、「機械学習でこういうふうにやりましょう」とか「CNN(畳み込みニューラルネットワーク)使ってみましたか?」とか、「これはYOLO(You look only once)ですね」といった会話が当たり前のようになされているそうです。
経営トップがAIやディープラーニングの知識を愚直に勉強する姿勢を示したことで、AIやディープラーニングに関する用語が共通言語となり、AIを実際にビジネスに活かすことができています。
AIのビジネス活用における大企業の役割
大企業と中小企業でAIに関する知見の利活用の方向性などに違いはありますでしょうか。
大企業では、セキュリティ面の懸念などからAI技術を利活用していくことへの消極的な姿勢が目立ちます。
しかし、大企業だからこそAI技術をビジネスで利活用する際に果たすべき役割があると思います。
経済産業省と総務省が2024年4月に取りまとめた「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」には、AI活用のリスクを考慮したさまざまな規定があります。しかし、このすべての項目をクリアするのは中小企業では難しいです。
大企業がこの「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」に従ってAIの活用に取り組むことで、どれだけ実行可能なのか、どうすればガイドラインに従うことができるのかの道筋が見えてくると思います。
また、大企業のAIに対する意識は「仕事をAIに奪われる」という漠然とした個人の不安感から「組織として利活用していかなければ、ライバルとの競争に勝てない」という危機感に少しずつ変化してきています。
組織としての危機を乗り越えるために、道具としてのAIの特徴を正しく理解するための取り組みを進めていただきたいと思います。
受験者数が増加している要因
2017年から始まったG検定ですが、年間の受験者数を大きく増加してきたその要因は何であるとお考えでしょうか。
大きく3つの要因があると思います。
1つ目の要因は、AIの技術がきちんと成果を上げてきたことからG検定の取り扱っているAIやディープラーニングに関する知識それ自体のニーズが高まってきたことです。
2つ目の要因は、G検定が資格検定になっていることが日本の仕組みに非常に合っていることです。
例えば、G検定を取得していることが求人の要件になったり、金融機関での昇進の条件になったりしています。知識を客観的に評価できる資格という形にしたことで、社会に受け入れられたのだと思います。人的資本経営に目が向けられるようになったこともG検定の取得を企業が評価する・もしくは後押しすることにつながったと思います。
3つ目の要因は、G検定合格者のコミュニティであるCDLE(コミュニティ・オブ・ディープラーニング・エヴァンジェリスト)の存在です。
G検定に合格された方が業界やエリアごとに集まって、最新の知見を共有したりハッカソン・アイデアソンをしたりとCDLEを通じて活発に活動されています。
CDLEの方が、G検定の資格取得以降も学び続けて、AI・ディープラーニングに関しての知見を活かして会社の内外で活躍してくださることで、G検定の受験者が増えているのではないかと思います。
一般社団法人日本ディープラーニング協会様が実施されているE資格とG検定との違いについてもお聞きしたいです。
E資格は、エンジニアの方がディープラーニングの理論を理解するための資格です。
ただし、エンジニアの方以外でE資格に挑戦される方もいらっしゃいます。
例えば、株式会社大塚商会では、IT商材を担当する営業の方がE資格を取得されています。このことにより、お客様が求めているものとバックエンドのエンジニアとの話のかけ渡しが非常にスムーズになったそうです。
他にも、弁護士の方や会計士の方などの士業の方でE資格を取得されているケースもあります。
E資格は決してエンジニアだけに閉ざされた資格ではないということですね。
その通りです。E資格の取得を通じて深く技術を理解することで視野がより広がると言えます。
AI活用スキルが新たなビジネスを創出
AI・ディープラーニングに関する知識を持った人材が、社会でどのように活躍することができるのか展望を教えてください。
日本社会のDXは待ったなしです。
DXはデジタイゼーション(アナログ・物理データのデジタルデータ化)と、デジタライゼーション(個別の業務・製造プロセスのデジタル化)の2つから成っています。
この中で、デジタイゼーションは確実に進行しています。世の中のものがアナログからデジタルに置き換わることで、AIはそこから得られるデータを全て学ぶことができます。
あらゆるデータを入手してそのデータを使ってAIを活用するスキルのニーズは今後ますます高まるでしょう。加えて、法制度の変化によって作業プロセスが変化していることもAI活用を後押ししています。
行政文書で印鑑廃止が進んでいることに代表されるように、常駐や目視といった人に紐づく約2000の法律の条文が書き換わっていきます。
機械学習やAIについての知識を持った人材は、1日1回アナログで目視していたものをデジタルで24時間365日管理するといったシステムを考案できます。
このように、デジタイゼーションの進行や法制度の変化によって、自社の業務の効率化や新たなビジネスの創出が可能となります。その際、G検定の合格者をはじめとした道具としてのAIの使い方をわかっていらっしゃる方が活躍できると思います。
あらゆるものがデジタルデータに変換されることで、AIやディープラーニングに関する知識を持っている人材がビジネスを先に進めていけるということでしょうか。
はい。道具としての使い方を熟知していれば、アナログだったものを機械やデジタルデータに置き換えるのみならず、得られたデータをその会社独自の方法でビジネスに活用できると思います。
リスキリングの成果を発信する
終身雇用や年功序列型賃金などの社会構造や人々の意識が変化する中で、リスキリングすることの重要性やリスキリングする際に心がけるべきことはなんでしょうか。
リスキリングの成果を社会の中で発揮することができた人が、しっかりと発信をすることが大事だと思います。
私は、「最終学歴」ではなく「最新学習歴」で働ける社会を目指すべきだと考えています。しかし、日本では、会社の中での適切なポジションや部署がないために、せっかく学んだスキルを活かせないことがあります。
新たな知識やスキルを身につけることと、そのスキルを社会の中で発揮することとを、いかに直結させるかが問題だと思います。
その際、資格を取得して知識やスキルを活かして活躍した人が、その姿を発信することがとても重要です。活躍している姿が広まることで、新たにスキルを学ぶ人が増え、資格を取得した方への周囲の見方が変わることで日本社会が少しずつ変化していくと思います。
スキル習得によって得られた成果を発信することが求められるのですね。
はい。人的資本経営に注目が集まる中で、有価証券報告書でも人的資本の開示が義務付けられました。
企業の側も、「うちの会社に入ればこれが学べるよ」「学んだ知識を活かしてこうやって活躍できるよ」という情報をIRなどに記載するようになっています。
資格取得などを通じてAI・ディープラーニングの知識を持ち合わせているというキャラクターを確立していれば、自ずからその知識を活かすチャンスが巡ってくると思います。
岡田様、本日は貴重なお話をいただき誠にありがとうございました。