FP資格で身につける資産戦略|日本FP協会上松氏に聞く
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年金や保険、資産運用、税制、住宅ローン、相続など幅広い専門知識を用いて一人ひとりの将来の夢や目標に対してお金の面で様々な悩みをサポートし、その解決策をアドバイスする専門家であるファイナンシャル・プランナー(FP)。
今回は、NPO法人日本FP協会の常務理事を務めておられます、上松茂樹 様にインタビューをさせていただきました。
お金に関する分野横断的な知識がFPの特徴
本日はお忙しい中、取材のお時間をいただき誠にありがとうございます。スキルアップ研究所を運営しております、株式会社ベンドの北川と申します。
本日はどうぞよろしくお願いいたします。
NPO法人日本FP協会の常務理事を務めております、上松茂樹です。よろしくお願いいたします。
まず初めに、金融に係る証券外務員資格などの他の検定・資格とFP資格との違いについてお聞かせいただけますでしょうか。
2つの観点があるかと思います。
1つ目の観点は、その資格を保持していなければ業務ができない資格、もしくは業務独占資格かどうかという点です。
例えば、証券営業のための証券外務員資格や、保険業務のための保険募集人資格は、資格を持っていなければ証券や生命保険などの金融商品の販売ができません。
また、税理士資格を持っていなければ、税務相談や税務署への税金の申告などの業務はできません。この観点から言えば、FPの資格は金融商品を扱うための資格ではないし、業務独占の資格でもありません。
2つ目の観点は資格取得を通じて身につける知識やスキルの内容です。
証券、保険、税といった各業務に必要な資格は専門ごとの業務知識を深く身につけるいわば「縦割りの資格」です。
一方、FPは身近な家計管理から税金や年金に加えて、保険、資産運用、相続に至るまで人生に必要なお金についての包括的で分野横断的な知識を習得できます。
この2つの点が、他の金融関係の資格とは大きく異なる点となっています。
3級FP技能検定からCFPⓇまでの各種FP資格の特徴についてお聞きしたいです。
国家検定であるFP技能検定は易しい順に3級・2級・1級に分かれています。
技能検定ですから、その時点での知識・技能レベルを判定します。
ですので、資格更新という制度はありません。
一方、AFP資格とその上級資格であるCFPⓇ資格は日本FP協会が認定する民間資格です。
AFP資格は、2級FP技能検定の合格が主な認定要件となっています。CFPⓇ資格は、世界25の国と地域で導入されている国際標準の資格で、FP資格の頂点とも言えるものです。
AFP認定者もしくは、協会が認定する大学院の所定課程を修了していることが受験資格となっています。
CFPⓇ・AFP資格ともに、日本FP協会の会員登録、協会の倫理や業務に関する規程の遵守が求められます。
また、CFPⓇ・AFP資格は2年ごとの更新制度があり、継続的な知識や技能の向上が求められます。
それぞれの資格で想定されている受検者像についてお伺いしたいです。
FP資格を受検されている方には金融業界で仕事をしている方や、金融業界への転職を考えている方、金融業界への就職を考えている学生の方が多い印象です。
また、FP資格の内容は不動産業界とも密接に関わっているため、住宅メーカーに勤めている方もいらっしゃいます。
その他にも、税理士をはじめとした士業の方もダブルライセンスとしてFP資格を取得されているケースもあります。
仕事としてFPの知識を活かそうとされている方以外にも、生活者の方でFP資格を取得されている方が多いことも特徴の1つです。生活者の方は、3級FP技能検定に挑戦される方が多いですが、その先の2級FP技能検定やCFPⓇ・AFP資格に挑戦される方も一定数いらっしゃいます。
FPの知識は仕事に活かせるのみならず、自分自身の生活にも直結するため一石二鳥だと考えて受検されている方が多いです。
金融業界から熱い注目を浴びるFP
FP資格の中でもとりわけ3級FP技能検定は近年受検者の増加傾向が顕著にみられます。その背景についてはどのように認識されているのでしょうか?
年々FP資格の受検者が増加してきましたが、特に2021・2022年に3級FP技能検定の受検者が急増しました。
これには、3つの大きな要因があったと思います。
1つ目の要因は、2019年の6月頃に老後2千万円問題が多くのメディアで頻繁に取り上げられたことです。
自分の年金や将来が不安だということで、お金に関する不安感が増大したことが受検者数の増加に繋がったと考えています。
2つ目の要因は、新型コロナの感染拡大が同時期に広がったことです。コロナ禍で、自宅で過ごす自由な時間が増えたことが資格取得につながったと考えられます。
3つ目の要因は、証券会社や銀行などの金融機関のビジネスモデルが変化してきていることが挙げられると思います。かつて証券会社の営業は「手数料型ビジネス」と言われてきましたが、現在は顧客の資産を運用・管理する「資産管理型ビジネス」に変化してきています。
銀行も、預貯金だけでなく証券や保険などの金融商品も扱うようになり、そのビジネスモデルが変化してきました。
資産を維持・管理することはFP資格と密接な関わりがあるため、金融業界におけるFP資格の重要性が高まってきていると言えます。このことも受検者数の増加を後押ししていると考えられます。
金融業界のビジネスモデルが「資産管理型ビジネス」に変化してきていることが全体の受検者数を底上げしたというお話がありました。
3級FP技能検定以外の受検者数も増加してきた背景には、金融業界がFP資格により注目していることがあるのでしょうか。
そのように思います。
証券・保険会社では以前から日本FP協会のCFPⓇ資格とAFP資格の取得を推奨していただいています。最近では、AFPレベルに留まらず、CFPⓇ認定者を増やしていく流れがあります。
現在、銀行や信用金庫では、3級・2級FP技能検定の取得は一巡し、その先の1級FP技能士を増やす流れができています。
また、以前よりも2級・1級FP技能検定の資格の有無が昇進・昇格の判断材料として重視されています。
金融業界全体として、以前に比べてより上位の資格取得を促す流れができていると思います。
CFPⓇ・AFP資格で知識のブラッシュアップを
数あるスキルの中でもとりわけFP資格を取得することのメリットを教えていただきたいです。
FP資格は家計管理や税金や年金などの多岐にわたる分野を包括的に学ぶことができる資格です。
人生には、就職、結婚、子育て、住宅・自家用車などの大きな買い物、転職などのライフステージごとに必要な知識があります。
その知識を平面軸として身につけられることがFP資格の魅力の1つだと思います。
もう1つの魅力は、自分の人生のライフプランや目標を達成するために必要な収支計画を考え、実行し、家計の状況を逐次点検・管理するスキルを身につけられることです。
FP資格の取得を通じて、人生を時間軸で捉え、現在から未来にかけての収支を管理することができるようになります。
FP資格取得を通じて資産に関する様々なトピックを包括的に学ぶことができるのと同時に、将来に向けての資産管理の見通しを持つことができるということですね。
冒頭にご紹介いただいたように、国家資格であるFP技能検定は資格更新の制度はありません。しかし、刻々と変化する経済の状況や制度に合わせて何度でも挑戦することが大事になってくるのでしょうか。
資格に挑戦するかどうかは、それぞれの方のご判断だと思います。ただ、毎年変わる税制や世の中の状況に合わせて自分の知識をブラッシュアップするために継続的に学び続けることは非常に重要だと思います。その点、CFPⓇ・AFP資格は2年ごとに資格の更新制度があります。
せっかく、CFPⓇ・AFP資格まで取得していただいたのならその資格は維持していただきたいですね。
「CFPⓇ・AFP資格を維持すること」=「知識をブラッシュアップすること」になりますので、CFPⓇ・AFP資格を目指されるのも選択肢の1つだと思います。
FPはお金の「かかりつけ医」
FP資格が実務でどのように役立つのかについて教えていただきたいです。
お客様がお金のことで悩んでいるとしたら、 個々のお客様のライフプランをベースにしてアドバイスをするにあたって分野横断で包括的な知識を身につけることができるFP資格がとても役立つと思います。
加えて、お客様がもし何か具体的な解決策が必要ならば、それに関する専門家を紹介するという役割もFPが担います。
例えば、お客様が税に関して具体的な相談があれば、FPは税理士を紹介したり、お客様がご家族の中で法律に絡むことが出てくるのであれば、弁護士を紹介したりします。
言うなれば、体調が悪い時に近所のかかりつけ医をまずは受診して、そこで専門の病院を紹介してもらう、その「かかりつけ医」の役割をFPが担うことになると思います。
まさに、お金に関すること全般を相談できる「ホームドクター」のような役割をFPが担っているということですね。
そのように思います。
その他にも、CFPⓇ資格を取得されている税理士であれば、税理士のみならず、CFPⓇ認定者として、家計・資産の相談全般を包括的に扱っているために業務の幅を広げることができると思います。
また、銀行の窓口業務を担当されている方がFP知識を有していれば、保険・税金・資産運用に関してのテーマに応じて「銀行で提供できるサービスを紹介する」ことや「適切な専門家を紹介する」ことで幅広いニーズに応えることができると思います。
また、金融機関以外の企業においても人事や福利厚生を担当している部署であれば、企業型確定拠出年金のように企業内部でFPの知識が活かせる仕事も増えています。
近年、企業が自社の従業員に対してリスキリングの機会を広く提供する気運が高まっています。その時、リスキリングは従業員の仕事だけでなく、自身の生活において活かされるかどうかも重要です。その点で言えば、FPは従業員の仕事と生活どちらにも活かせる資格として有力なリスキリングの選択肢になり得ると考えます。
FP資格の特性があるからこそ、どんな業種であっても活かせるスキルが身につくということですね。
学びは自分の興味から
リスキリングなどの新たなスキルを身につける過程において重要なことは何でしょうか。
FPに限らず、知識やスキルをしっかり身につけるには継続が必要です。加えて、知識があるということと実際に資格を使って実践できるということには大きな差があります。
特にFPの知識は生活のさまざまな場面で役に立ちますので、実際にやってみることが大事だと思います。 FP資格は、一定の要件を満たせば、一般教育訓練給付金を受け取れる制度の対象となっています。
FP以外でも、何か新しいスキルを身につける際には、このような給付制度を利用しながら行うことも視野に入れると良いでしょう。
やはり、リスキリングは必ず取り組まなくてはならないのでしょうか?
何かが身につくときは、自分自身がそれを身につけたいという気持ちを強く持っていなければいけません。
周りでリスキリングが必要だからといって本人が「何で必要なのだろう」と悩んでいるうちは身につかないと思います。
直接自分が担当していないけれども 「近くでやっている仕事で面白そうだ」というような自分の興味から学びを始めるのがいいと思います。
上松様、本日は貴重なお話をいただき誠にありがとうございました。