リスキリング レポート

介護職におけるリスキリングの現状と展望

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調査: スキルアップ研究所

現代社会の急速な技術革新と産業構造の変化により、従来の職業技能だけでは対応しきれない新たなスキルが求められるようになった。このような状況の中で、労働者が既存の専門性から新しい能力を身につけ直すこと、つまりリスキリングが不可欠な取り組みとなっている。この状況は介護業界でも例外ではない。

このような状況を鑑み、スキルアップ研究所では「介護職におけるリスキリングの現状」のアンケート調査を行い、介護職についている労働者のリスキリングへの姿勢と、それに伴う苦労や意見を調査・分析した。

介護職におけるリスキリングの現状の調査結果のポイント
  • 現在約半数の人がリスキリングに取り組んでいる
  • リスキリングのきっかけはスキルアップの必要性から
  • 現職者は人手不足によりリスキリングがしたくてもできない
  • 今後介護職においてリスキリングは必要と考えている人が9割を超える

リスキリングをしている介護職の人は約半数

介護職におけるリスキリングの実態を探るアンケート調査の結果、約半数の介護職経験者の方がリスキリングに取り組んでいることがわかった。「積極的に取り組んでいる」と回答した人が11.5%、「少し取り組んでいる」と答えた人が37.8%に上り、合わせて49.3%の人がリスキリングに前向きに取り組んでいる状況である。

一方で、「あまり取り組んでいない」が25.0%、「全く取り組んでいない」が25.6%と、半数近くの人がリスキリングに消極的であることも明らかになった。

現職の領域とは異なる領域でリスキリングに取り組む人も

リスキリングで取り組んでいる内容を見ると、「現在の介護領域で求められている専門知識、スキルの習得」が最も多く37人でしたが、「現在の介護領域とは異なる専門知識、スキルの習得」に取り組んでいる人も27人おり、決して少なくない

さらに「感染症・衛生管理に関する知識、スキル」を身につける人が24人、「新しい治療や薬剤に関する知識」の取得に努める人が10人と続いた。また、マネジメントスキルやデータ分析スキルの習得にも一定数の人が意欲を示していることがうかがえる。

介護福祉士の人気が資格の中では最も高い

介護系の資格取得状況については、「介護福祉士」が72人と最も多い。次いで「介護職員初任者研修」41人、「社会福祉士」25人、「介護福祉士実務者研修」25人と続く。

これらの基礎的な資格は、介護職に就くにあたって取得済みの人が多く、リスキリングの観点からは、ケアマネジャーやガイドヘルパー、精神保健福祉士といった専門性の高い資格の方が、キャリアアップに繋がる可能性が高いと考えられる。

リスキリングのきっかけはスキルアップの必要性

リスキリングに取り組む最大の理由は、「働く中で自身のスキルアップの必要性を感じたから」であり、41.8%がこの回答を選んだ。介護の現場では日々の業務を通じて自身の知識やスキルの限界を実感する機会が多く、それがリスキリングへの大きな原動力になっていると考えられる。

さらに「新型コロナウイルスの流行で働き方が変わったから」16.5%、「業務の機械化が進んでいるから」13.9%と、社会環境の変化に対応する必要性を感じている人も一定数いることがわかる。また、「自己啓発活動が盛んになっているから」11.4%と、自発的な動機での取り組みも無視できない。

一方で、「昇格・昇進したいと思ったから」5.1%、「資格手当がもらえるから」5.1%など、一般的な予想に反し、直接的な金銭的インセンティブだけがリスキリングの理由ではないようだ。

多くの人が忙しく時間がないためリスキリングができない 

一方、リスキリングに消極的な人の理由を見ると、最も多かったのが「働きながら受講する時間がない」で、45人が回答した。次いで「家事や子育てで忙しいから」が27人、「何に取り組めばいいか分からない」が25人と、時間的な制約や情報不足が障壁になっていることがうかがえる。

また「費用が高い」が23人、「収入増加に繋がらない」が21人と一定数おり、金銭的な負担感やメリットの乏しさを指摘する声も多いのが実情であることが判明した。さらに「近くに資格学校がない」15人とアクセスの悪さも課題として挙げられている。

一方で「実際に役には立たないと感じた」は7人と少数にとどまり、リスキリングそのものに対する価値観の違いは大きな障壁にはなっていないようだ。

自由記述欄にはこのような声が寄せられた。

体力勝負の仕事のため、仕事+リスキリングとなると、健康を害してしまう。リスキリングをしたくても、する余裕のない介護職者であふれかえっている。

自由記述より

体力勝負な職業なので、賃金を上げて人手を増やして勤務時間の短縮をクリアしないとリスキングは実現しないと思っています。主婦業を兼任されている職員も多いので、時間とお金がなければ余裕は生まれません。

自由記述より

基本的に40代~60代が多いので、その年齢層にマッチしたリスキリングを探せるか

自由記述より

介護業界の現場は課題だらけ

介護業界で働く人々に職場のリスキリング環境について尋ねたところ、多くの課題が明らかになった。

取得すべきスキルや資格は伝えられていない場合が多い

アンケートの結果、「会社から取得すべきスキルや資格が明示されていない」と回答した人が60.3%に上り、企業側からの具体的な指示が不足していることが判明した。自由記述欄の回答からも、「職場から資格取得のための支援がない」「学習する時間が確保できない」といった指摘が相次ぎ、現場での環境整備が不十分であることがうかがえる。

一方で、自由記述からは、日々の業務に追われながらもなんとか前向きにリスキリングに取り組もうとする現場の実態も窺えた。

実際の介護業務に追われて、学習する時間の確保が難しいからなかなか取り組むことが難しいのだと思います。

以前の勤め先では、介護手技を学ぶ代表者を決め、出勤扱いで本社の介護手技の勉強会に参加し、各ホームへ戻り実際に働くスタッフへ説明と実践練習をする、ということを実施していました。こちらから学習する機会を設けて参加できるようにするとスタッフも参加しやすいと思います。

また、日々の業務に追われて精神的に追い詰められているスタッフのメンタルケアにも配慮し、限られた人数で少しでも負担のかからないオペレーションを組んだり、スタッフ一人ひとりへの声掛けや業務改善に努めることも必須だと思い、介護主任として責任を持って行っていました。

自由記述より

以前介護主任を務めていたという方は、当時「出勤扱いで研修会に参加させる」「スタッフへの声かけと業務改善に努めた」など独自の工夫によって社内でのリスキリングを推進したという。このように、積極的に学習機会を設ける取り組みが求められているといえるだろう。

資格取得には会社の補助が出たが、出勤したことにはならず、学習期間も長いので、資格をとってほしいと会社からお願いされても月3〜4程度しか休みがとれなくなるので厳しいなと思う。また、資格をとった所でそこまで給料に反映されない。

自由記述より

介護業界から他業界への転職は難しく、リスキリングで他業界のスキルを身につけても、介護の知見を活かした働き方は幅が少ないと感じることです。

自由記述より

具体的にどういったリスキングをすれば良いのか分からない時がありますが、自身でそのリスキングを取り組んでどういったスキルアップをしたいのか明確に考えると良いかもしれません。

自由記述より

社内研修の仕組みが整っているのは4割程度

リスキリングを支援する社内研修の仕組みが整備されている企業は、アンケート結果から42.3%にとどまり、半数を超える57.7%の企業では制度化が進んでいないことが判明した。

自由記述欄の回答を見ると、「資格取得のための時間や費用面での支援がない」と指摘する声が複数あがっており、企業側の体制不足が研修機会の確保を阻害している実態がうかがえる。一方で、ある介護主任は「出勤扱いで本社研修に参加させる」「スタッフへの声掛けと業務改善に努めた」など、独自の工夫を重ねながら現場での学習機会を設けてきた例も見られた。

また「研修日を設けてキッチリと時間を確保する」「高齢の従業員には強制的に取り組ませる」といった意見もあり、企業による制度的な対応が求められていることがわかる。

資格必須になりつつある今、職場から資格取得のための費用や講習などに充てる時間を勤務時間として保証するなどしないと資格を取る意欲は湧かないと思います。

自由記述より

ローテーション体制なので、時間的な余裕がない。研修日、という名目で、キッチリ設定される状況下で学べると皆に浸透すると思う。また働き手に高齢の方も多く、学ぶという事に対して、積極的でないのも問題。強制的に取り組ませる(業務として)のも必要かと思う。

自由記述より

リスキリングしやすい雰囲気の職場も半分を切っている

さらに、「お勤めの会社はリスキリングがしやすいような雰囲気であると感じますか?」という質問に対し、「リスキリングしやすい雰囲気の職場である」と答えた人は45.5%にとどまり、逆に54.5%の人が「そうした雰囲気はない」と回答した。自由記述欄には、「自分のキャリアに合わせて働ける仕組みが必要」「職員間のコミュニケーションが重要」など、職場環境の改善を求める指摘が相次いだ。

加えて、「労働環境や待遇の改善が先決」と訴える声もあり、リスキリングを阻害する根深い課題が介護現場には存在することもわかる。人手不足による業務負担の大きさも問題視されており、従業員一人ひとりの心身の健康面での配慮なくしてはリスキリングは難しい状況だろう。

リクルート社のキャリアビュー制度みたいに自分のしたいことのために働く仕組みづくりが必要。

自由記述より

職員同士のコミニュケーションや相談しやすい職場でない限りリスキリングは上手くいかないと思う。

自由記述より

リスキングに取り組むにあたって、まずはこの先も介護業界で働いていきたいと思えるような労働環境、待遇がなければ、リスキリング以前に介護士がいなくなってしまうと思います。

人手不足により普段の業務だけでも介護士一人ひとりの負担は大きく、その上リスキリングにまで取り組むとなると、強靭な体力がない限り厳しいと思います。

まずは労働環境や待遇の問題を改善して介護業界の魅力を上げ、明るい未来が見えるようにすることが先決だと考えます。

自由記述より

離職者が出る理由は労働環境への不満

離職者を対象に離職理由について尋ねたところ、19.9%が「勤め先の労働時間・環境に不満があったから」と回答しており、労働環境の課題が大きな離職理由となっている。

また、「実際の介護業務が大変だった」13.5%、「収入が少ない」9.6%、「休みが取れない」8.3%など、過酷な労働実態や報酬面での不満から離職に至るケースも少なくない。

現職者が最も感じている課題は人手不足

一方、現職の介護職員が感じている最大の課題は「人手不足」(46.2%)であった。次いで「賃金が安い」(30.8%)、「有給が使えない」(7.7%)と続き、長時間労働や報酬面での不満が強い。

自由記述欄の回答を見ても、「人手不足で休みも時間も取れない」「知識を活かす環境にない」「疲弊した職員が多い」など、人手不足によるさまざまな弊害が指摘されていた。さらに「人間関係が悪く新人が定着しない」といった職場環境の問題も表面化しており、総じて労働環境の改善が急務であることが明らかになっている。

加えて、「リスキリングに否定的な意見もある」といった指摘もあり、キャリアアップへの意欲を持ちにくい職場風土の存在も課題の一つとして浮かび上がった。

人手不足で残業、休日出勤が多く、疲弊している職員が多い。業務を行うので精一杯である。

自由記述より

私がいた施設での話なので他のところは違うかもしれませんが、人間関係も悪く長くいる方が新人を怒鳴ったりするので長く続かない、人手が足りない、残業が増えたり休みが少なくなってリスキリングどころではないのかなと感じています。

自由記述より

職員の入れ替わりが多く知識技量に差があるが人手不足でもあるため指導する職員も足りていない、またシフトにて早番遅番日勤夜勤とわかれているため会議出席者がマチマチになり、情報が詳しく伝わりづらい。

自由記述より

リスキリングのためには勤務体制の確立が急務

アンケート結果から、介護職がリスキリングを行う上で最も望んでいるのは「学習する時間を確保するための勤務体制」であることがわかった。この項目を1番目か2番目に選んだ人は合わせて82人に上る。次いで「学習するための教材や資金の援助」が71人と多数を占めていた。

一方、「研修やセミナーなどの参加機会」「スキル取得や資格取得の人事評価への反映」「必要とされるスキルや資格に関する情報提供」を求める人も一定数いますが、やはり時間の確保が最大の関心事であることが窺える。

自由記述欄からも「人手不足で組織的支援が薄い」「定着させるフォローアップが課題」など、現場における制度的なバックアップ体制の構築を求める声が上がった。また「全社的にリスキリングを容認する環境が必要」「評価を目に見える形で反映すべき」との指摘もあり、職場全体での機運醸成が不可欠であることがわかる。

長年働いている人こそリスキリングを受ける必要があると思います。また、リスキリングした上で後ほどどのように活かせたか変化できているかを確認する機会を設けなければ定着しにくいのではと思います。
取り組み始める段階ですでに人手不足等による組織的な支援の見込みが薄いので継続してフォローし合える環境づくりを作らなければならないことがひとまずの課題だと思います。

自由記述より

リスキリングに取り組む事について現場全体で積極的に容認してくれる環境が必要だと感じます。社内研修だけでなく,全ての介護に関わる資格の取得や外部研修の修了に応じて勤務評価に反映されるなど,第三者にも目に見えて評価が反映されることを証明できる取り組みが必要だと感じます。

自由記述より

リスキリングによる効果実感率は高い

実際にリスキリングに取り組んだ人への恩恵は大きいようだ。「仕事やキャリアに良い影響があった」と答えた人が29.5%、「どちらかといえばあった」が48.7%と、合わせて78.2%の人がプラスの効果を実感している。

自由記述欄には「言葉かけや対応が良くなった」「指導力が向上した」「サービスの質が上がった」などの具体的な効果が並んでおり、リスキリングを通じたスキルアップが業務に好影響を与えていることがうかがえる。

心理学、カウンセリングスキルを学び言葉かけや、状況に合わせた対応の仕方など活用できています。また、自分自身のメンタルヘルスの回復にも役立っています。

自由記述より

他者への指導の時に、わかりやすく具体的な指導が出来ると思う。また、自分自身の身を守る事に直結しており、身体的に問題なく仕事を続ける事が出来た。

自由記述より

資格など目に見えるものを取得しないと上司から評価してもらえることはないが、知識を増やすことで個人としてのお客様に対するサービスの質は良くなったと感じる。

自由記述より

これから資格を取るならケアマネージャーが人気

介護業界で働く人々の間では、今後さらに資格を取得したいと考えている場合、ケアマネージャーの資格が最も人気であった。

アンケート結果によると、介護福祉士や社会福祉士の資格取得を目指す人も一定数いるが、24.4%の人がケアマネージャー資格を取得したいと回答した。一方で、すでに必要な資格を取得済みで、これ以上新たな資格を取得する予定はないと答えた人も18.6%いた。

介護業界でのリスキリングのこれからの展望

今後リスキリングは必要と考えている人が9割を超える

今後リスキリングが必要だと考えている人の割合は9割を超えている

「必要」と答えた人が48.1%、「どちらかといえば必要」と答えた人が42.9%を占めており、合わせて91.0%の人が、何らかの形でリスキリングの必要性を感じているようだ。一方で、「必要ない」「どちらかといえば必要ない」と答えた人は全体の9.0%にとどまった。

またコロナ禍を経た影響で、リスキリングへの意識に変化があったと答えた人が63.5%に上った。この事態を機に、スキルの見直しや新たな知識の習得が不可欠だと考える人が増えた可能性がうかがえる。

一方で、介護業界の特性上、リスキリングへの取り組みが難しいという意見もあがった。介護は労働集約型の職種であり、ジョブ型雇用とは異なるため、リスキリングに馴染まず、評価が難しい面があると指摘された。また、大手以外の中小事業所では人手不足が深刻で、新しい取り組みに着手する余裕がないのが実情のようである。

介護業界は労働集約型の職種なので、ジョブ型雇用と異なるため、リスキリングには馴染まないうえ、評価しづらい業界であると思う。

自由記述より

助成金を貰っている大手以外の小中企業では自分たちが生き続ける事が必至で新しい事に取り組む余裕が生まれない。

自由記述より

介護業界でリスキリングを推進するために

介護業界は、スキルの違いによって従事者間に大きな格差が生じがちな厳しい職場環境であることが判明した。賃金は同じでも、知識や資格を持つ人とそうでない人では、業務の効率性や質に大きな開きがある。しかし、そうした状況に甘んじるのではなく、自らスキルアップに努め、将来を見据えた行動が求められるだろう。

介護業界はハッキリ言って使える人とそうでない人の境界線が激しい業界です。なのに賃金は同じ。それに納得がいかなければとにかく勉強して何かしらの知識や資格を得ていかないと、結局古株の人達に踏み台にされて体や心を壊して終わってしまいます。働きながらの勉強は大変ですが、未来のために頑張って下さい。

自由記述より

一方で、介護業界にはリスキリングを阻む課題も多く存在する。長時間労働と低賃金のため、自己研鑽の時間や費用を捻出するのが難しい現実がある。また、個人の努力が待遇に適切に反映されにくいことも、やる気が削がれてしまう原因になっているようだ。

こうした状況を改善するには、学びの機会の確保や情報提供など、組織的な支援が必要不可欠だろう。さらに、リスキリングに前向きな従事者が適切に評価される仕組み作りや、介護業界全体の意識改革も重要な鍵となるはずだ。

少子化による外国人雇用の増加。日本語が、わからない外国人もいる為、教育に時間がかかる。

自由記述より

学びたい意欲があっても、就業の拘束時間が長い、賃金が安く勉強にかかる費用が捻出できないなどマイナスの課題が大きい。また、個人でスキルアップをしてもそれが待遇に反映されないため、やる気につながらない。小さなことからで良いので、学びのための時間の確保や情報提供など支援があるといい。
研修に参加したスタッフにはやる気がある、ということで評価が得られるような仕組み、業界全体で「良い」と感じるような意識改革が必要である。

自由記述より

調査概要

項目

詳細

調査名

介護職におけるリスキリングへの取り組みに関する実態調査

対象者

介護業界で働いた経験がある方(離職者も含む)

対象地域

全国

調査方法

インターネット調査

調査機関

2024年3月13日〜3月20日

回答数

156


調査結果の引用・転載について

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