リスキリング レポート

リスキリングとリカレント教育の違いは?それぞれのメリット・デメリットも紹介

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調査: スキルアップ研究所

近年ビジネス業界ではデジタル化の進展や働き方の多様化に伴い「リスキリング」と「リカレント教育」という人材開発の手法が注目されています。

これらの用語はニュースや新聞、SNSなどで頻繁に取り上げられていますが、2024年に実施したスキルアップ研究所の調査では、8割以上の方がその違いについて理解していない(N=500)ということが分かっています。

そこで、本記事ではリスキリングとリカレント教育という2つの学び直しについて詳細に解説します。

リスキリングとリカレント教育の違い

リスキリングとリカレント教育の違い

リスキリングとリカレント教育は、どちらも学習の形態である点で共通していますが、実際には全く異なる概念です。

リスキリングは、デジタル変革を進める企業が主体となって実施する教育です。これは従業員に新しい職種に対応するスキルを提供することに重点を置いています。

対照的に、リカレント教育は従業員が自発的に教育機関など、会社外で学び直す教育形態を指します。ここでは、個人が自分のスキルを更新し、キャリアの可能性を広げることを目的としています。

約半数がリスキリングとリカレント教育の違いを知らない

リスキリングとリカレント教育の違いを知らない

こちらのアンケート結果から、実に90%近くの人がこれらの教育形態の違いを正確に理解していないこと明らかになりました。また半数近くの人が、「聞いたことはあるが詳しくは知らない」という回答をしています。

このアンケート結果は、リスキリングとリカレント教育に関する意識と理解を高める必要性を示しています。

OJTや生涯教育はまた別の用語

OJTや生涯教育とリスキリングの違い

OJT(On the Job Training)との違い

また、リスキリングとリカレント教育は、OJT(On the Job Training)とも異なります。OJT(On the job training)とは、現在の業務に直接関連するスキルを、先輩社員が直接従業員に教える形式の研修です。教える内容はケースバイケースで変わるため、その柔軟性が特徴です。

これに対して、リスキリングとリカレント教育はより広範な学習とキャリア開発に焦点を当てています。

生涯教育との違い

リカレント教育は、生涯学習と似ているように思われがちですが、生涯学習はスポーツや趣味など、仕事に関係のない範囲の学習も含まれます。リカレント教育は、キャリアに直接関連する学習に焦点を当てている点で異なります。

リスキリングとは

ここからは、リスキリング・リカレントのそれぞれについて詳しく見ていきます。

まずリスキリングについて目的や背景を見ていきましょう。

リスキリングの目的

リスキリングの主な目的は、現職で求められるスキルの変化に対応するための学習です。特に企業は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に適応できる人材を育成するためにリスキリングを重視しています。

DXとは、デジタル技術を活用して業務プロセスやサービスを根本的に変革することを指し、この変革により、従来のスキルセットだけでは対応しきれない新しい要求が生まれています。

リスキリングが注目された背景

リスキリングが注目を集めている背景には、日本と海外の雇用形態の違いも関係しています。

日本では、異動を通じて多様な分野に関わる形態が一般的ですが、海外ではジョブ型雇用が主流で、個人が自らキャリアを切り開いていく傾向にあります。グローバル化が進む中で、雇用形態の変化が顕著になり、リスキリングの需要は高まってきています。

リスキリングの学習内容

リスキリングでは、現職に活かすためのスキルや、新たな就職先に適応するためのスキルを習得することをメインの目的としています。そのため、多くの場合、企業のDX化に適応するための専門的な学習が行われます。

リスキリングをする場所

企業がリスキリングの主体となるため、eラーニングシステムなどのデジタルプラットフォームを利用して学習が進められることが多いです。これにより、従業員は自分のペースで、必要なスキルを効率的に身につけることができます。

リスキリングの企業での導入事例

企業名取り組み内容

富士通

デジタル技術の基礎を学べる育成プログラム。全社員のプログラム受講を目標としている。

日本IBM

AI技術の習得に焦点を当てた内部トレーニング。従業員のデジタルスキル向上を目指す。

KDDI

デジタルトランスフォーメーション(DX)に対応した人材育成プログラムを導入。

パナソニック

デジタル人材育成のための総合的なプログラム。データサイエンスやAI関連のスキル向上を促進。

キャノン

「プロダクショントレーニー制度」を実施し、職種や部門を超えた多様な研修を提供。

例えば富士通では、社会課題の解決に焦点を当てたソリューション「Fujitsu Uvance」をグローバルに展開する中で、全従業員のスキルとマインドセットの変革を重視しています。

これに伴い、リスキリングに注力しています。富士通では、学習のプラットフォーム「Fujitsu Learning Experience(FLX)」を通じて、従業員はオンデマンドで必要なコンテンツを学ぶことができます。FLXでは、最先端のDXテクノロジーからAI、クラウドなどの分野がカバーされています。

これらのリスキリングの取り組みにより、富士通はDX時代における人材の育成と企業変革を推進しています。

リカレント教育とは

次に、リカレント教育について詳しく見ていきましょう。

リカレント教育の目的

リカレント教育の主な目的は、個人が仕事で活かすためのスキルアップです。この教育形態では、現職における新しい価値を作り出すことではなく、個人が実現したい目的に応じた学習を行います。つまり、リカレント教育は個人のキャリア目標や個人的な成長に重点を置いています。

リカレント教育が注目された背景

リカレント教育が注目されるようになった背景には、急速なテクノロジーの発展とグローバル化が関連しています。特に、AIやロボット技術の進化により、従来の職種がなくなる可能性が高まっています。

こうした状況の中で、従業員や求職者が現代の労働市場で生き残るためには、定期的なスキルの更新や新たな知識の習得が不可欠となっています。このため、リカレント教育、つまり職業生活を通じて継続的な学習の需要が高まっています。

リカレント教育の学習内容

リカレント教育の特徴は、現在の職種に関係なく、好きなことを学ぶ自由度が高い点です。リスキリングよりも柔軟で、理想のキャリアを実現するために全く新しいスキルを取得することも可能です。

例えば、ITスキルを持つ人がアートやデザインの学習に取り組むこともあります。

リカレント教育をする場所

リカレント教育は、リスキリングと異なり、企業内で行われることは少ないです。従業員それぞれが異なるスキルを身につけるため、大学や専門学校などの教育機関で個人的に学ぶことが一般的です。

また、オンライン学習プラットフォーム(例えばUdemy)などを利用したリカレントも増えており、現職に支障をきたさない範囲で学習することができます。

リカレント教育の企業での導入事例

企業名取り組み内容

ソニー

フレキシブルキャリア休職制度で学び直しやキャリア開発を支援。最長2年の休職を可能に。

三井不動産

自己啓発支援プログラムを提供し、従業員のスキルアップや資格取得を奨励。

三菱地所

キャリア開発支援制度を導入し、従業員が異なる部門での経験を積む機会を提供。

コニカミノルタ

従業員の自己啓発をサポートするための奨学金制度。継続的な学習を奨励。

メルカリ

キャリア開発のための休職制度。従業員が専門的な研究や学習に専念できる環境を提供。

例えばソニーでは、「フレキシブルキャリア休職制度」というリカレント教育の取り組みを実施しています。この制度は、配偶者の海外赴任に同行する社員や、専門的な知識やスキルを深めるために修学を希望する社員を支援するために設計されました。

休職期間は、配偶者の海外赴任に同行する場合は最長5年、修学のための場合は最長2年となっています。

修学のための休職では、入学にかかる初期費用を最大50万円まで会社が負担する支援があります。このような制度により、社員は社外で学んだことを復職後に活かすことができ、企業は優秀な人材の流出を防ぐことが可能です。

政府のリスキリング・リカレント教育への支援の動向

リスキリングについて

日本政府は、近年リスキリングの重要性を認識して強く推奨しており、岸田内閣総理大臣は、2023年6月までに支援策を整備し、5年間で1兆円を投入すると表明しています。

厚生労働省では、教育訓練給付金など、資格取得のための費用の一部を支給する制度の設立、経済産業省では、リスキリングを通じた無料のキャリア相談や転職相談・職業紹介、文部科学省では、「マナバス」という社会人の大学等での学びを応援するサイトの立ち上げに力を入れています。

リカレント教育について

リカレント教育に関しても、政府は積極的な姿勢を見せています。

厚生労働省では、希望する仕事に就くために必要な職業スキルや知識などを無料で習得することができるハローワークトレーニングの実施、経済産業省では、高等教育機関における共同講座創造支援事業、文部科学省では、即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業の推進が行われています。

企業がリスキリングを行うメリット・デメリット

項目詳細

メリット

  • 採用コストの削減
  • 既存業務の効率改善
  • 組織の柔軟性・対応力強化

デメリット

  • 多くの資金と時間が必要
  • 成果の不確定な投資
  • 他の企業からの引き抜きの可能性

メリット

まず、新たな人材を外部から採用するコストが削減できる点が挙げられます。既存の従業員のスキルを更新することで、採用プロセスにかかる時間や費用を省くことが可能です。

また、従業員が新しいスキルを身につけることで、業務がスムーズに進み、効率が向上します。さらに、従業員のキャリアの可能性を広げ、一人一人が多様なことに対応できるようになることは、組織全体の柔軟性と対応力を高める効果をもたらします。

デメリット

一方で、リスキリングにはいくつかのデメリットも存在します。最大のデメリットは、多くの資金と時間が必要となることです。

効果的なトレーニングプログラムの開発と実施には、相応の投資が必要です。また、投じた費用に対して、期待した成果が必ずしも得られるとは限りません。さらに、従業員が新たなスキルを身につけると、他の企業からの引き抜きのリスクも高まる可能性があります。

リカレント教育のメリット・デメリット

項目詳細

メリット

  • 従業員の満足度が向上
  • 新たなアイデアやイノベーションが生まれる

デメリット

  • 休職関連や労働環境の整備が必要
  • 相応の投資が必要

メリット

リカレント教育のメリットとして、従業員の満足度の向上が挙げられます。継続的な学習機会を提供することで、従業員は自身のスキルアップやキャリアの発展を感じることができます。

また、様々な特性を持った従業員が集まることで、相互に刺激し合い、新たなアイデアやイノベーションが生まれる可能性も高まります。

デメリット

リカレント教育にはデメリットも存在します。例えば、休職して教育を受ける場合、企業側はその間の労働環境を整備する必要があります。

また、効果的なリカレント教育プログラムには、相応の投資が必要となり、これらのコストは、特に中小企業にとっては大きな負担となることがあります。

リスキリング・リカレント教育をする上での注意点

項目注意点

リスキリング

  • 従業員にリスキリング制度と目的を意識させる
  • 学習環境を整える
  • 社員の目標に合ったプログラムを提供する

リカレント教育

  • 休職、復職の制度や条件を整える
  • 事業の引き継ぎを確実に行う
  • 離職してしまった場合のリスク管理をする

リスキリングの注意点

リスキリングを実施する際には、いくつかの重要な点に注意が必要です。まず、従業員にリスキリングとは何か、そしてそれを行う目的が何であるかを明確に認識させることが重要です。教育プログラムの目標とその意義を理解することで、従業員のモチベーションと学習効果が高まります。

また、学習を行うための適切な環境を整えることも必要です。これには、学習リソースへのアクセスや、学習時間を確保するための職場環境の調整が含まれます。さらに、社員の意見やニーズを尊重し、彼らのキャリア目標に合ったリスキリングプログラムを提供することが大切です。

リカレント教育の注意点

リカレント教育を実施する際の注意点は、リスキリングと多くの面で共通していますが、いくつかの異なる点もあります。リカレント教育では、従業員が休職して教育を受けるケースがあるため、復職の制度や休職の条件を明確に整備する必要があります。従業員が教育を受けた後に職場に戻る際のスムーズな移行を保証するための制度設計が重要です。

また、リカレント教育を受ける従業員の現在の仕事の引き継ぎや穴埋めを確実にしてから休職してもらう必要があります。特に人数の少ない部署では、割り振りを明確にする必要があります。また離職となってしまった場合のリスク管理も取っておく必要があります。

リスキリング・リカレント教育には支援金がある

リスキリングやリカレント教育には、政府が用意している支援金も存在するため、対象の方やぜひ活用してみましょう。

人材開発支援助成金

厚生労働省は、企業の競争力を高めることを目的とした人材開発支援助成金を提供しています。この助成金は、特にリスキリング支援に焦点を当てており、企業が従業員のスキル向上のために行う様々な教育プログラムに対して、財政的な支援を行っています。

「事業展開等リスキリング支援コース」は期間限定で設けられており、企業はこの制度を利用して従業員の再教育やスキルアップを促進することができます。

人材開発支援助成金の公式HPはこちら

生産性向上支援訓練

このプログラムは、全国のポリテクセンターや類似の施設に設立された生産性向上人材育成支援センター(生産性センター)が、企業ごとの特定の課題に合わせて教育プログラムをカスタマイズし、専門的な知識やノウハウを持つ民間機関と協力して実施しています。

個人が受講しやすい価格設定で提供されており、従業員個人が自発的にスキルアップを図るための支援を目的としています。これにより、個人はより手頃なコストで専門的な訓練を受けることが可能になります。

生産性向上支援訓練の公式HPはこちら

教育訓練給付制度

さらに、雇用保険の一環として、教育訓練給付制度が存在します。この制度は、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的としており、対象となる教育訓練を受けた際に、その費用の一部が給付されます。

これにより、従業員がキャリアの発展のために必要な教育やトレーニングを受ける際の経済的負担が軽減されます。

教育訓練給付制度の公式HPはこちら

リスキリングとリカレント教育の違いのまとめ

リスキリングとリカレント教育は、どちらも現代の働き方において重要な教育形態ですが、その目的と方法には明確な違いがあります。リスキリングは主に企業が主導し、従業員が現職または新しい職種で必要とされるスキルを身につけることに重点を置いています。一方、リカレント教育は従業員が自発的に行い、個人のキャリア目標や興味に基づいて多様な学習を追求することが特徴です。

これらの教育形態は、個人のキャリア発展と企業の人材開発の両方において、多くの利点をもたらします。しかし、効果的な実施のためには、リスキリングとリカレント教育の目的と特徴を理解し、適切な支援と環境を提供することが重要です。

調査概要

本文中に登場した調査の概要は以下です。

項目

詳細

調査名

学び直しに係る用語に関する知名度調査

対象者

20代から60代の社会人の方

対象地域

全国

調査方法

インターネット調査

調査期間

2024年1月21日~1月28日

回答数

計500名

参考資料

調査結果の引用・転載について

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