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※中央防災会議「都心南部直下地震の被害想定【定量的な被害量】」(令和7年12月19日公表)の公表値をもとに、削減額・削減率・倍率をスキルアップ研究所が算出
2025年12月19日、中央防災会議の首都直下地震対策検討ワーキンググループが、12年ぶりとなる首都直下地震の被害想定を公表した。
この報告書には、被害の量だけでなく、防災・減災対策を進めた場合に被害がどこまで減るのかという試算も含まれている。スキルアップ研究所では、この公表値をもとに、どの対策がどれだけ被害を減らすのかを整理した。
- 12年前の想定と比べ、揺れによる全壊棟数は約36%、建物倒壊等による死者数は約17%、避難者数は約33%減少している
- 一方、帰宅困難者は約840万人で、前回想定より約40万人(約5%)増加している。ただしこれは被害想定手法の見直しによるもので、危険が増したことを意味しない
- 平日12時に発災した場合のエレベーター内閉じ込め15,800人のうち、15,700人(約99.4%)は事務所での発生と想定されている
- 生産・サービス低下による被害37.5兆円は、BCP(事業継続計画)の策定率が100%になるだけで12.9兆円まで減ると試算されている(削減率65.6%)。単独の対策としては、感震ブレーカー設置率100%(29.7兆円)や耐震化率100%(28.3兆円)を上回る
- BCPによる削減額24.6兆円は、耐震化率100%による削減額9.2兆円の約2.67倍にあたる。ただしこの比較が成り立つのは「生産・サービス低下による影響」の範囲に限られる
※削減額・削減率・倍率は、報告書の公表値をもとにスキルアップ研究所が算出した
12年ぶりの改定で、被害の中心的な項目は軒並み減った
中央防災会議は2025年12月19日、都心南部直下地震(マグニチュード7.3)を対象とした新しい被害想定を公表した。前回の想定(2013年12月公表)から12年ぶりの改定である。
まず確認しておきたいのは、被害の中心的な項目が、前回想定から軒並み減っているという点である。
報告書は、前回想定時からの変化について次のように記している。
項目 | 前回想定からの変化 | 報告書が挙げる主な要因 |
|---|---|---|
揺れによる全壊棟数 | 約6.3万棟(約36%)減少 | 建物の耐震化等の対策 |
地震火災による焼失棟数 | 約14.4万棟(約34%)減少 | 出火率の減少、感震ブレーカー等の普及 |
避難者数 | 最大約240万人(約33%)減少 | 建物被害の減少 |
地震火災による死者数 | 約4,000人(約25%)減少 | 火災対策の進捗、感震ブレーカー等の普及 |
建物倒壊等による死者数 | 約1,100人(約17%)減少 | 建物の耐震化等の対策 |
帰宅困難者 | 約40万人(約5%)増加 | 被害想定手法の見直し |
※焼失棟数・地震火災による死者数は、冬・夕・風速8m/sの場合

住宅の耐震化率は、報告書の時点で全国平均約90%(令和5年)とされている。旧耐震基準の建物の建替や耐震補強が進んだことが、被害の減少につながったと報告書は説明している。
経済的な被害額についても、内閣府が公表した「首都直下地震緊急対策推進基本計画の変更(令和8年6月12日閣議決定)説明資料」では、前回想定の約95兆円から約83兆円になったと整理されている。
ここで注意が必要なのは、すべての項目が減ったわけではないという点である。停電軒数(被災直後)は約400万軒(約33%)増加し、固定電話・インターネットの不通回線数は約290万回線(約62%)増加している。ただし報告書は、その理由を電灯軒数が約630万軒(約20%)増えたことや、光回線も推計対象に加えたことによると説明しており、これらも危険の増大を示すものではない。
報告書自身も、被害想定の受け止め方について次のように述べている。
このような甚大な被害想定結果を目の当たりにして、ともすれば、不安感を募らせ、これまでの防災対策が無意味であるかのような風潮が出てくる可能性もあるが、後述するように、しっかりとした対策を講ずれば想定される被害も大きく減少することは明らかである
つまりこの報告書は、危険を強調するための資料ではなく、対策の効果を示すための資料として作られている。
そのなかで、帰宅困難者は約840万人へ増えた
減少が並ぶなかで、被害の中心的な項目のうち増加したものが一つある。
帰宅困難者である。
報告書によると、平日の12時に地震が発生し、公共交通機関が全域的に停止した場合、当日中に帰宅が困難となる人は東京都市圏で約840万人、うち東京都で約480万人にのぼると想定されている。これは前回想定より約40万人(約5%)多い。
この増加の理由は、危険が増したからではない。
これまで帰宅距離が短いために帰宅困難者として数えられていなかった高齢者や障がい者などが、新しい手法では帰宅困難者に含まれるようになった。数字が増えたのは、これまで見えていなかった人が可視化されたためである。
帰宅困難者の内訳は、今回の報告書で新たに示された。
区分 | 1都4県 | 東京都 |
|---|---|---|
帰宅困難者 | 約840万人 | 約480万人 |
うち行き場あり(地震被害のない職場・学校等) | 約670万人 | 約400万人 |
うち行き場なし(地震被害を受けた職場・学校等、私事等、移動中) | 約160万人 | 約85万人 |
うち要配慮者等 | 約250万人 | 約130万人 |
行き場のない要配慮者等 | 約83万人 | 約38万人 |
※1都4県は、茨城県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県。報告書本文では「東京都市圏」と表記されている
行き場のない帰宅困難者約160万人は、帰宅困難者全体の約19.0%にあたる。そのうち約83万人は要配慮者等であり、内訳は70歳以上の高齢者約68万人、妊婦又は乳児連れの人約9万人、障がい者(70歳未満)約5万人、遠距離通学の小学生等約2万人となっている(報告書は四捨五入の関係で合計が一致しない場合があるとしており、内訳の合算値は合計と一致しない)。
なお、この840万人という数値は「平日の12時に地震が発生し、公共交通機関が全域的に停止した場合」という条件のもとで算出されたものであり、発災の時刻や曜日が異なれば規模も変わる。
もう一点、推計の前提として押さえておきたいことがある。
報告書は、被害量の推計に用いた人口について「令和2年国勢調査及び平成30年東京都市圏パーソントリップ調査に基づく推定値」と明記している。
つまり、人がどの時間帯にどこにいるかという分布は、2018年(平成30年)に実施された調査に基づいている。その後の働き方の変化が、この推計にどこまで反映されているかは、報告書からは判断できない。
平日12時の閉じ込めは、その99.4%が事務所で起きる
帰宅困難者の数と並んで、働く場所と直接関わる想定がもう一つある。
エレベーター内の閉じ込めである。
報告書によると、閉じ込め者数は発災時刻によって大きく異なる。
発災時刻 | 事務所 | 住宅 | 合計 |
|---|---|---|---|
8時 | 約5,400人 | 約3,300人 | 約8,600人 |
12時 | 約15,700人 | 約100人 | 約15,800人 |
18時 | 約8,200人 | 約1,200人 | 約9,400人 |
最も多いのは12時の約15,800人で、これが報告書のいう最大値(約1.6万人)にあたる。8時の約8,600人と比べると約1.84倍である。

12時の閉じ込め15,800人のうち、事務所での発生が15,700人。全体の約99.4%を占める。同じ時刻の住宅は約100人にとどまる。
これは、昼の時間帯に人がどこにいるかを反映した結果である。8時であれば住宅が約3,300人と一定数を占めるが、12時にはほぼ全員が事務所にいる。
なお、閉じ込めにつながり得るエレベーターの台数は、前回想定より約5,700台(約19%)増えている。それにもかかわらず閉じ込め者数が約1,600人(約9%)減ったのは、地震時管制運転装置の設置率が向上したためだと報告書は説明している。
単独の対策として最も効くのは、BCPの策定だった
報告書には、防災・減災対策を進めた場合の効果の試算が含まれている。
経済的な被害は、①資産等の被害(被災地)と②生産・サービス低下による影響(全国)に分けて推計されており、それぞれ45.1兆円、37.5兆円、合計82.6兆円とされている。
このうち②生産・サービス低下による影響について、報告書は5つの対策ケースを置いて試算している。
対策ケース | 生産・サービス低下による被害額 |
|---|---|
減災対策なし(現状) | 37.5兆円 |
① 感震ブレーカー設置率100% | 29.7兆円 |
② 耐震化率100% | 28.3兆円 |
③ ①+②の両方100% | 20.3兆円 |
④ ③に加えBCP(BCM)の策定率100% | 10.1兆円 |
⑤ BCP(BCM)の策定率100%のみ | 12.9兆円 |

ここで目を引くのが、ケース⑤である。BCPの策定率が100%になるだけで、生産・サービス低下による被害は37.5兆円から12.9兆円まで減る。
BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことである。
削減額は24.6兆円、削減率は65.6%にあたる。
6つのケースのうち被害額が最も小さいのは、ハード対策とBCPをすべて組み合わせたケース④(10.1兆円)である。ただし①②⑤の3つは単独の対策、③④は複合の対策であり、単独の対策どうしで比べた場合に最も被害額が小さいのは、ケース⑤のBCPである。ハード対策を単独で進めたどちらのケースをも上回る。
対策 | 削減額 | 削減率 |
|---|---|---|
⑤ BCP(BCM)の策定率100% | 24.6兆円 | 65.6% |
② 耐震化率100% | 9.2兆円 | 24.5% |
① 感震ブレーカー設置率100% | 7.8兆円 | 20.8% |
※報告書の公表値をもとにスキルアップ研究所が算出
なお報告書は、生産・サービス低下による影響の推計に用いた生産関数において「BCP強化」がサプライチェーン寸断の影響を抑える要素として位置づけられていることを、概念図で示している。
建物を壊れにくくすることと、事業を止めない備えをすることは、被害額の減り方が異なるということである。
この比較には範囲の限界がある
前章の数字は、そのまま「BCPのほうが耐震化より優れている」という結論にはならない。三つの理由がある。
第一に、比較できるのは「生産・サービス低下による影響」に限られる。経済的被害のもう一方である資産等の被害45.1兆円について、報告書は感震ブレーカー100%で33.9兆円、耐震化率100%で33.8兆円、両方100%で22.6兆円になると試算しているが、ケース⑤(BCP策定率100%のみ)の資産等の被害額は示されていない。BCPで65.6%減るのは、あくまで生産・サービス低下による被害である。経済的被害の全体が65.6%減るわけではない。
第二に、耐震化と感震ブレーカーは、人の命を守る対策でもある。報告書は、住宅耐震化率を100%にすれば揺れによる全壊棟数が約11.2万棟から約1.5万棟に、感震ブレーカー設置率を100%にすれば火災による死者数が約12,000人から約3,400人に減ると試算している。被害額の比較だけでハード対策の価値を測ることはできない。
第三に、現在地が異なる。住宅の耐震化率はすでに全国平均約90%に達しているのに対し、感震ブレーカーの設置率は現状20%とされている。同じ「100%にした場合」でも、そこまでの距離は対策ごとに違う。
したがって、ここから読み取れるのは対策の優劣ではない。ハード対策とソフト対策は代替関係ではなく、補完関係にあるということである。実際、報告書で被害が最も小さくなるのは、ハード対策とBCPを組み合わせたケース④(10.1兆円)である。報告書は、すべての対策を講じた場合の防災・減災効果を60.5%と試算している。
国はBCP策定率100%を目標に掲げている
報告書が置いた「BCP策定率100%」という仮定は、机上の想定にとどまらない。
2026年6月12日に閣議決定された「首都直下地震緊急対策推進基本計画」の変更では、今後10年の減災目標として死者数約1万8千人・全壊棟数約40万棟の「半減以上」が掲げられるとともに、具体目標が47項目から189項目に拡充された。そのなかに、企業のBCPに関する目標が含まれている。
具体目標 | 現在(令和7年度) | 目標(令和17年度) |
|---|---|---|
企業のBCPの策定完了率(大企業・全国) | 75.8% | 100% |
企業のBCPの策定完了率(中堅企業・全国) | 54.8% | 80% |
感震ブレーカーの設置率(緊急対策区域の都県) | 20%(令和6年度) | おおむね設置 |
住宅の耐震化率(緊急対策区域の市町村) | 92%(令和5年度) | 耐震性が不十分なものをおおむね解消 |
出典:内閣府「首都直下地震緊急対策推進基本計画の変更(令和8年6月12日閣議決定)説明資料」
現在地の出典である内閣府「令和7年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」(令和8年3月公表)によれば、BCP策定率は大企業75.8%(前回調査比0.6ポイント減)、中堅企業54.8%(同9.3ポイント増)である。同調査は平成19年から隔年で実施されており、今回が通算10回目にあたる(調査対象5,052社・回答率34.8%)。
中堅企業の策定率は9.3ポイント伸び、平成19年度の12.4%から4倍以上になっている。一方で、業種によるばらつきは残る。金融・保険業の82.2%、建設業の75.7%に対し、不動産業・物品賃貸業は36.9%、宿泊業・飲食サービス業は41.0%である。
なお、報告書がいうBCPは事業継続計画(BCMを含む)全般を指しており、特定の働き方を指すものではない。テレワークはその構成要素の一つという位置づけである。
その位置づけを明示しているのが、内閣府「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」(令和8年1月改定)である。同ガイドラインは、企業等が平時から取り組むべき事項として次のように記している。
企業等においては、従業員等に対し、平時から本指針を周知するとともに、優先業務や分散帰宅の方針、公共交通機関の復旧状況に応じた通勤自粛等の施設ごとの行動ルールを策定し、併せて、テレワークの推進方針等を策定してBCP(事業継続計画)等に位置付け、従業員等への周知を徹底する
また、2026年6月の基本計画変更では「予防による被害軽減」の柱のなかに「新たなライフスタイル定着による被害軽減」として「二地域居住・テレワークの推進」が項目として立てられ、特定居住促進計画の策定数を5件(令和6年度)から600件(令和11年度)に増やす目標が設定されている。
一斉帰宅抑制は「3日間」を前提としている
帰宅困難者への対応として国が示している基本原則は、「むやみに移動を開始しない」という一斉帰宅抑制である。
ガイドラインは、大都市圏でマグニチュード7クラス以上の地震が平日昼12時に発生した場合、当該大都市圏内の鉄道・地下鉄は少なくとも3日間は運行の停止が見込まれるという前提を置いている。
そのうえで、帰宅困難者は原則72時間(3日間)は安全な場所に待機し、応急活動が落ち着くと考えられる発災後おおむね4日目以降を目途に順次帰宅することを想定している。
これに伴い、企業等に求められる備蓄の目安も3日分とされている。
品目 | 1人あたりの目安(3日分) |
|---|---|
水 | 1日3リットル、計9リットル |
主食 | 1日3食、計9食 |
毛布 | 1枚 |
※このほか、簡易トイレ・衛生用品、敷物、携帯ラジオ・懐中電灯・乾電池、救急医療薬品類等が例示されている。外部の帰宅困難者(来客者等)のために10%程度の量を余分に備蓄することも示されている
現状の備蓄状況について、内閣府「令和7年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」は次の値を示している。
品目 | 大企業「3日分以上あり」 | 中堅企業「3日分以上あり」 |
|---|---|---|
飲料水 | 66.1% | 43.0% |
食料品 | 65.3% | 41.4% |
簡易/携帯用トイレ | 55.7% | 32.1% |
※毛布は日数の区分がなく、「あり」は大企業76.0%・中堅企業46.5%
つまり、ガイドラインが目安とする3日分の備蓄を満たしている企業は、大企業でも品目により6割前後、中堅企業では3〜4割台にとどまる。また同調査によれば、何らかの備蓄を行っている企業のうち、従業員以外の帰宅困難者用の余分な備蓄がある企業は全体の3割程度である。
一斉帰宅抑制は、発災時に職場や施設にいる人を、そこに3日間とどめるための仕組みである。ガイドラインは企業等に対し、施設内待機の計画策定、3日分の備蓄、家具類の転倒防止やガラス飛散防止、安否確認手段の確保、年1回以上の訓練を求めている。
一方で、被害想定とあわせて公表されたWG報告書「首都直下地震の被害想定と対策について」は、対策の方向性を示した章のなかに「新たなライフスタイルの定着促進等による被害の軽減への期待」という項目を設け、次のように記している。
近年定着が広がりつつあるテレワークや、主な生活拠点とは別の特定の地域に生活拠点を設ける暮らし方である「二地域居住」は、東京圏在住者にとって、首都直下地震発生時の避難先での円滑な勤務実施や広域的避難を行う際の避難先の確保につながるなど、災害等に対するリダンダンシーの確保に資する観点からも、国、地方公共団体、企業等においては、このような新たなライフスタイルの定着促進に取り組むべきである。
つまり報告書は、発災時に職場にいる人をとどめる備えと、そもそも発災時に職場にいる人の数を減らす備えの両方に言及している。ただし報告書は後者を「期待される」という見通しとして述べており、帰宅困難者が何人減るかを試算しているわけではない。
まとめ
12年ぶりに改定された首都直下地震の被害想定では、揺れによる全壊棟数が約36%、建物倒壊等による死者数が約17%、避難者数が約33%減少した。耐震化をはじめとする対策は、明確に効果を上げている。
一方で、帰宅困難者は東京都市圏で約840万人と、前回想定より約5%増えた。ただしこれは被害想定手法の見直しによるもので、これまで数えられていなかった要配慮者が可視化された結果である。
また、平日12時に発災した場合のエレベーター内閉じ込め15,800人のうち、約99.4%にあたる15,700人は事務所での発生と想定されている。
そして報告書の防災・減災対策の効果の試算では、生産・サービス低下による被害37.5兆円が、BCPの策定率100%だけで12.9兆円まで減るとされている。削減額24.6兆円は、耐震化率100%による削減額9.2兆円の約2.67倍にあたる。
ただしこの比較が成り立つのは「生産・サービス低下による影響」の範囲に限られ、資産等の被害や人的被害を減らすうえではハード対策が不可欠である。報告書で被害が最も小さくなるのも、ハード対策とBCPを組み合わせたケースである。
国は2026年6月の基本計画変更で、企業のBCP策定完了率を大企業100%・中堅企業80%(令和17年度)とする目標を設定した。そして内閣府のガイドラインは、テレワークの推進方針を策定してBCPに位置付けるよう企業に求めている。
働く場所をどう設計するかは、これまで生産性や採用の文脈で語られることが多かった。国の試算は、それが事業継続の文脈にも属するテーマであることを示している。
付録:試算データ一覧
本レポートで使用した数値の一覧を示す。
基礎データ①:防災・減災対策の効果(生産・サービス低下による影響額)
出典:中央防災会議「都心南部直下地震の被害想定【定量的な被害量】」(令和7年12月19日)
対策ケース | 被害額(兆円) |
|---|---|
減災対策なし | 37.5 |
① 感震ブレーカー設置率100% | 29.7 |
② 耐震化率100% | 28.3 |
③ ①+②の両方100% | 20.3 |
④ ③に加えBCP(BCM)の策定率100% | 10.1 |
⑤ BCP(BCM)の策定率100%のみ | 12.9 |
基礎データ②:防災・減災対策の効果(資産等の被害額)
出典:同上
対策ケース | 民間 | 準公共 | 公共 | 合計(兆円) |
|---|---|---|---|---|
減災対策なし | 38.8 | 0.3 | 6.0 | 45.1 |
① 感震ブレーカー設置率100% | 28.3 | 0.2 | 5.3 | 33.9 |
② 耐震化率100% | 28.2 | 0.3 | 5.3 | 33.8 |
③ ①+②の両方100% | 17.8 | 0.2 | 4.6 | 22.6 |
④ ③に加えBCP(BCM)の策定率100% | 17.8 | 0.2 | 4.6 | 22.6 |
※ケース⑤(BCP(BCM)の策定率100%のみ)の資産等の被害額は、報告書に掲載されていない。なお、ケース③(①+②の両方100%)とケース④(③に加えBCPの策定率100%)の資産等の被害額は、いずれも22.6兆円で同額である
※対策ケース④について、報告書は「防災・減災効果」を60.5%と示している(定義:(減災対策なしの被害額 - 対策ケース④の被害額)÷ 減災対策なしの被害額)。本レポートでは、この率のみを報告書の公表値として引用し、経済的被害の合計額の再計算は行っていない
試算結果の一覧:対策別の削減額・削減率
スキルアップ研究所が、基礎データ①をもとに算出
対策 | 削減額(兆円) | 削減率 |
|---|---|---|
⑤ BCP(BCM)の策定率100% | 24.6 | 65.6% |
② 耐震化率100% | 9.2 | 24.5% |
① 感震ブレーカー設置率100% | 7.8 | 20.8% |
③ ①+②の両方100% | 17.2 | 45.9% |
④ ③に加えBCP(BCM)の策定率100% | 27.4 | 73.1% |
BCP ÷ 耐震化(削減額の倍率) | ― | 約2.67倍 |
BCP ÷ 感震ブレーカー(削減額の倍率) | ― | 約3.15倍 |
基礎データ③:経済的な被害額
出典:中央防災会議「都心南部直下地震の被害想定【定量的な被害量】」(令和7年12月19日)。冬・18時を対象に評価
項目 | 被害額(兆円) |
|---|---|
資産等の被害(被災地) | 45.1 |
うち民間部門 | 38.8 |
うち準公共部門(電気・ガス・通信、鉄道) | 0.3 |
うち公共部門 | 6.0 |
生産・サービス低下による影響(全国) | 37.5 |
合計 | 82.6 |
※上記とは別の独立した推計として、広域交通ネットワークの寸断による影響が示されている:道路の機能停止(6か月)8.2兆円/同(1か月)1.4兆円、鉄道の機能停止(6か月)2.7兆円/同(1か月)0.4兆円、港湾の機能停止(1年)4.3兆円
基礎データ④:帰宅困難者
出典:同上。平日12時に発災し、公共交通機関が全域的に停止した場合
項目 | 1都4県 | 東京都 |
|---|---|---|
自宅のあるゾーン外への外出者 | 約1,620万人 | ― |
帰宅困難者 | 約840万人 | 約480万人 |
うち行き場あり | 約670万人 | 約400万人 |
うち行き場なし | 約160万人 | 約85万人 |
うち要配慮者等 | 約250万人 | 約130万人 |
行き場のない要配慮者等 | 約83万人 | 約38万人 |
うち70歳以上の高齢者 | 約68万人 | 約28万人 |
うち妊婦又は乳児連れの人 | 約9万人 | 約5万人 |
うち障がい者(70歳未満) | 約5万人 | 約3万人 |
うち遠距離通学の小学生等 | 約2万人 | 約1万人 |
観光・出張客等(別掲・最大) | 約88万人 | 上記の内数 |
※外出者1,620万人の内訳は、自宅から10km未満約640万人、10〜20km約480万人、20〜30km約240万人、30〜40km約130万人、40〜50km約61万人、50km以上約58万人
基礎データ⑤:エレベーター内閉じ込め
出典:同上
発災時刻 | 事務所 | 住宅 | 合計 |
|---|---|---|---|
8時 | 約5,400人 | 約3,300人 | 約8,600人 |
12時 | 約15,700人 | 約100人 | 約15,800人 |
18時 | 約8,200人 | 約1,200人 | 約9,400人 |
※閉じ込めにつながり得る建物棟数は事務所約3,900棟・住宅約11,000棟の計約14,900棟、エレベーター台数は事務所約18,500台・住宅約17,200台の計約35,800台
基礎データ⑥:前回想定からの変化
出典:同上。報告書「■前回想定時からの対策進捗と被害想定結果の変化」より
項目 | 変化 |
|---|---|
揺れによる全壊棟数 | 約6.3万棟(約36%)減少 |
地震火災による焼失棟数(冬・夕、風速8m/s) | 約14.4万棟(約34%)減少 |
建物倒壊等による死者数 | 約1,100人(約17%)減少 |
地震火災による死者数(冬・夕、風速8m/s) | 約4,000人(約25%)減少 |
避難者数 | 最大約240万人(約33%)減少 |
エレベーター内閉じ込め者数 | 約1,600人(約9%)減少 |
帰宅困難者 | 約40万人(約5%)増加 |
停電軒数(被災直後) | 約400万軒(約33%)増加 |
固定電話・インターネットの不通回線数 | 約290万回線(約62%)増加 |
断水人口 | 増減なし |
基礎データ⑦:BCP策定率と国の目標
出典:内閣府「令和7年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査(概要)」(令和8年3月)、内閣府「首都直下地震緊急対策推進基本計画の変更(令和8年6月12日閣議決定)説明資料」
区分 | 令和7年度 | 前回調査比 | 令和17年度目標 |
|---|---|---|---|
大企業 | 75.8% | −0.6pt | 100% |
中堅企業 | 54.8% | +9.3pt | 80% |
業種別のBCP策定率(令和7年度):金融・保険業82.2%/建設業75.7%/製造業66.3%/情報通信業57.9%/卸売業50.0%/サービス業49.6%/運輸業・郵便業48.8%/小売業47.9%/宿泊業・飲食サービス業41.0%/不動産業、物品賃貸業36.9%
計算式
- 削減額 = 減災対策なしの被害額 - 各対策ケースの被害額
- 削減率 = 削減額 ÷ 減災対策なしの被害額
- 削減額の倍率 = BCPの削減額 ÷ 比較対象の対策の削減額
- 事務所の占める割合 = 事務所の閉じ込め者数 ÷ 同時刻の閉じ込め者数の合計
- 行き場のない人の割合 = 行き場のない帰宅困難者 ÷ 帰宅困難者
計算の当てはめ:
- BCPの削減額 = 37.5兆円 - 12.9兆円 = 24.6兆円
- BCPの削減率 = 24.6兆円 ÷ 37.5兆円 = 65.6%
- 耐震化の削減額 = 37.5兆円 - 28.3兆円 = 9.2兆円
- 耐震化の削減率 = 9.2兆円 ÷ 37.5兆円 = 24.5%
- 感震ブレーカーの削減額 = 37.5兆円 - 29.7兆円 = 7.8兆円
- 感震ブレーカーの削減率 = 7.8兆円 ÷ 37.5兆円 = 20.8%
- BCP ÷ 耐震化 = 24.6兆円 ÷ 9.2兆円 = 約2.67倍
- BCP ÷ 感震ブレーカー = 24.6兆円 ÷ 7.8兆円 = 約3.15倍
- 12時の事務所の割合 = 15,700人 ÷ 15,800人 = 約99.4%
- 12時と8時の倍率 = 15,800人 ÷ 8,600人 = 約1.84倍
- 行き場のない人の割合 = 160万人 ÷ 840万人 = 約19.0%
試算の概要
- 主な出典データ:中央防災会議 防災対策実行会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ「都心南部直下地震の被害想定【定量的な被害量】」(令和7年12月19日公表)(https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg_02/pdf/r7higai_soutei1.pdf)
- 補足に用いた出典:中央防災会議 防災対策実行会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ「首都直下地震の被害想定と対策について(報告書)」(令和7年12月19日公表)(https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg_02/pdf/r7houkoku3.pdf)、内閣府「首都直下地震緊急対策推進基本計画の変更(令和8年6月12日閣議決定)説明資料」、内閣府「令和7年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査(概要)」(令和8年3月公表)、内閣府「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」(令和8年1月改定)
- データの位置付け:2026年7月時点で公表されている最新の首都直下地震の被害想定
- 算出主体:スキルアップ研究所
- 算出方法:報告書が公表している被害額をもとに、対策ケースごとの削減額・削減率・倍率、および構成比を算出
- 対象とする地震:都心南部直下地震(マグニチュード7.3、最大震度7)
- 経済的被害の評価条件:被害額の評価は、経済被害が最大となる冬・18時を対象に行われている
- 帰宅困難者の算出条件:平日の12時に地震が発生し、公共交通機関が全域的に停止した場合
- 生産・サービス低下による影響の推計期間:被災後1年間
留意事項
本レポートの数値は、報告書が公表している推計値と、それをもとにスキルアップ研究所が算出した削減額・削減率・倍率である。実測値ではない。
そのうえで、次の点に留意が必要である。
被害想定そのものの性格について
- 報告書は、被害想定について「マクロの被害を把握する目的で実施しており、都県別の数値はその計算根拠を明確にするために示したものであるため、ある程度幅をもって見る必要がある」と述べている
- 報告書は「地震調査研究推進本部によると、南関東地域の直下でプレートの沈み込みに伴うM7程度の地震が発生する確率は今後30年間で70%程度と評価されているが、今回の被害想定に用いる地震が、次に必ず発生するというものではない」と明記している
- 報告書は「各項目の被害想定手法は必ずしも確立されたものではないため、引き続き、被害想定手法についても不断の点検・見直しを行い、必要に応じて、被害想定は修正すべきものである」としている
対策効果の試算について
- BCPの策定率100%による65.6%の削減は、経済的被害のうち「生産・サービス低下による影響」に限った数値である。資産等の被害45.1兆円を減らす効果は示されていない。経済的被害の全体が65.6%減るという意味ではない
- 報告書がいうBCPは事業継続計画(BCMを含む)全般を指しており、テレワークやバーチャルオフィスなど特定の手段を指すものではない
- 各対策ケースは「100%になった場合」という仮定に基づく試算であり、現在地からの距離は対策ごとに異なる(住宅耐震化率は現状約90%、感震ブレーカー設置率は現状20%、BCP策定率は大企業75.8%・中堅企業54.8%)
- 削減額の倍率は、同一の試算・同一の指標(生産・サービス低下による被害額)どうしの比較として算出したものである。異なる指標や、人的被害の削減効果を比較したものではない
帰宅困難者について
- 帰宅困難者が前回想定より増加したのは、被害想定手法の見直し(要配慮者を帰宅距離によらず帰宅困難者として推計)等によるものであり、危険が増したことを示すものではない
- 840万人は「平日の12時に地震が発生し、公共交通機関が全域的に停止した場合」の値であり、発災の時刻や曜日により変動する
- 帰宅困難者の推計は、東京都市圏内の5歳以上の人を対象としたパーソントリップ調査データに基づくものであり、外国や東京都市圏外からの観光・出張客等(別掲・最大約88万人)を含んでいない
- 報告書は、被害量の推計に用いた人口を「令和2年国勢調査及び平成30年東京都市圏パーソントリップ調査に基づく推定値」としている。時間帯別の滞留・移動者の分布は2018年に実施された調査に基づいており、その後の働き方の変化がどこまで反映されているかは報告書からは判断できない
- 要配慮者等の内訳は、報告書が四捨五入の関係で合計が一致しない場合があるとしているため、内訳の合算値が合計と一致しない
その他
- 鉄道について、報告書は「機能支障に至る程度の橋梁・高架橋の被害(大被害)」を「わずか」としている。経済的被害の試算では道路・鉄道の機能停止が6か月続いた場合の被害額が示されているが、これは復旧期間の予測として示されたものではない
- BCP策定率の調査(内閣府・令和7年度)は、調査対象5,052社・回答率34.8%の一般統計調査である
引用・転載について
本レポートは、内閣府(防災情報のページ)が公表するデータを、公共データ利用規約(第1.0版)に基づき加工して作成しています。削減額・削減率・倍率等の算出値は、内閣府ではなくスキルアップ研究所によるものです。
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引用・転載される際は、必ず「スキルアップ研究所調べ」などの形で出典を明記し、本記事およびスキルアップ研究所(https://reskill.gakken.jp/)へのリンクを付してください。
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調査結果の引用・転載について
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