介護処遇改善手当とは?加算の計算方法や職員への支給額なども解説

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介護職員の処遇改善を目的とした制度の一つに「介護処遇改善手当」があり、この手当は介護職員の給与や報酬を向上させるために設けられたものです。

この記事では、この手当の内容や重要なポイントを分かりやすく解説します。

介護処遇改善手当とは?

まず初めに、介護処遇改善手当について説明していきます。

介護処遇改善手当ができた背景

日本では高齢化が進む中で、介護人材の確保が大きな課題となっています。

介護職は待遇が良くないために離職率が高く、深刻な人手不足に直面しています。

厚生労働省によると2040年には280万人の介護人材が必要とされていますが、現状では214万人しかおらず人員不足は避けられない状況です。

介護処遇改善手当の導入は、介護職の賃金を引き上げることで待遇を改善し雇用の安定を図ることを目的としているのです。

参考:厚生労働省『第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について

特定処遇改善加算との違い

介護処遇改善手当は全ての職員の処遇改善を目指しています。

一方で、特定処遇改善加算は経験豊富な介護福祉士を対象とした制度です。また、彼らに対して月額8万円相当の追加支給を行い、より手厚い待遇改善を図っています。

どういった職種に手当がもらえる?

介護処遇改善手当は、介護現場で実際に利用者の介護業務に携わっている職員を対象としています。

介護施設で働く介護スタッフや看護師、ケアマネージャーなどの利用者の日常生活を直接支援する職種が受給対象となります。

一方で、理学療法士や栄養士、事務職や清掃職などの間接的な業務に従事する職員はこの手当の対象外となっています。

介護処遇改善手当の支給条件

介護処遇改善手当を受け取るためには、いくつかの条件を満たす必要があります。

介護処遇改善手当加算のためのキャリアパス要件を満たす

介護職員の処遇改善を受けるためには、「キャリアパス要件」を満たす必要があります。

まず職員それぞれの能力や経験、業務内容に応じた適切な待遇を保証するため、職位や職責に対応した任用要件と賃金体系を整備することが求められます。

次に、職員のスキルアップを促進し質の高いサービスを提供できるよう、資質向上のための研修計画を策定しその実施が必要です。

また、職員のモチベーションを高め長期的なキャリア形成をサポートするために、経験や資格に基づく昇給制度や定期的な昇給評価の仕組みを整えることも求められます。

職場環境等要件を満たす

介護職員の処遇改善には、賃金アップだけでなく働きやすい職場環境の整備も不可欠です。

具体的には、身体的負担を軽減する設備の導入や子育て世代への産休・育児休暇制度の確立など、仕事とプライベートの両立がしやすい環境が含まれています。

また、雇用者は賃金や労働条件についてスタッフ一人ひとりに対して分かりやすく説明し、公平な待遇を実現することが求められます。

介護処遇改善手当加算までの流れを簡単に紹介

介護事業所が手当を受け取るには、いくつかのステップを踏む必要があります。

まず初めに、キャリアパス要件や職場環境等要件を満たしたら、その成果を自治体に報告することが求められます。

次に、自治体の審査を通過すれば介護報酬の加算が認められ、事業所はその加算分を介護職員の給与として支給しなければなりません。

また、事業所は手当が適切に支払われたことを自治体に報告する義務もあります。

介護処遇改善手当加算に必要な書類

介護サービスの質を維持・向上させるためには、介護処遇改善手当加算の申請が不可欠です。

まず、介護事業所が作成・提出しなければならないのが「介護職員処遇改善計画書」です。

そして加算を受けた後には「介護職員処遇改善実績報告書」を提出し、基準を満たしているかを評価する必要があります。

書類に不備がある場合は加算金の返還請求や加算認定の取り消しリスクがあるため、慎重に対応することが求められます。

介護処遇改善手当加算の計算方法を紹介

介護処遇改善手当加算の計算方法について、正確に理解しておくことが求められます。本章では、加算額の算出方法について詳しく紹介します。

介護処遇改善手当加算の計算方法を紹介

月額3万7000円相当の加算

介護職員に対して月額3万7,000円相当の処遇改善手当を支給するためには、以下の3つ全てを満たす必要があります。

キャリアパスの明確化と職員の知識・技能の向上を目指す研修の実施、そして従業員が安心して働ける職場環境等要件です。

月額2万7,000円相当の加算

月額2万7,000円相当の手当を介護職員に支給するためには、二つのキャリアパス要件と職場環境等要件を満たす必要があります。

具体的には「職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備する」ことと、「資質向上のための計画を策定し、研修の実施または研修の機会を確保する」ことが求められます。

月額1万5,000円相当の加算

月額1万5,000円相当の手当を介護職員に支給するには、一つのキャリアパス要件と職場環境等要件を満たすことが必要です。

この場合、キャリアパス要件については「職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備する」か「資質向上のための計画を策定して研修を実施する」のいずれかを満たせばよいとされています。

介護処遇改善手当の職員への受給過程

介護処遇改善手当が職員に支給されるまでの過程には、いくつかのステップがあります。この過程を理解することで、手当がどのように受給されるのかを把握することができます。

職員にいつ手当の支給がされる?

介護職員処遇改善加算は職員の給与改善を目的としていますが、具体的な支給方法や時期については決まりがありません。

毎月の給与に上乗せして支給する場合もあれば、年間分をまとめてボーナスや一時金として支給するケースもあり、施設や事業所によって運用が異なります。

自分の施設での取り扱いについては事業所に直接確認しましょう。

介護処遇改善手当をもらえない事務所

介護事業所が介護処遇改善手当を受け取れるかどうかは、事業所の状況や職員の役割によって異なります。

介護職員処遇改善加算を適用していない事業所や、訪問看護や福祉用具の販売・貸与を行う事業所では、この手当を受け取ることができません。

また、加算を適用している事業所であっても、手当の金額が職員ごとに異なる場合もあります。

介護処遇改善手当をもらえない人

「介護処遇改善手当」は介護職員の待遇改善を目的としていますが、すべての介護職員が受給できるわけではありません。

受給の要件を満たさない場合や事業所が対象者として選定していない場合、または業務内容が介護職に該当しない場合には、手当を受けることができません。

特に、訪問介護や福祉用具販売などを行う一部の事業所では、加算取得が進んでいないことが多いです。手当の受給資格については所属事業所に確認しましょう。

特定処遇改善加算について

ここでは、特定処遇改善加算について深掘りしていきます。

特定処遇改善加算の受給条件

介護職員の処遇改善を目的とした特定処遇改善加算を受けるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。

まず、キャリアパスに関する3つの要件を満たすことが求められます。

次に、「資質の向上」「労働環境・処遇の改善」「その他」の3つの区分から1つ以上の取り組みを実施することが求められます。

さらに、透明性が重視され、これらの取り組みをホームページなどで公表することが必要です。

加算には2つのパターンがあり、より手厚い加算を受けるためには事業所がサービス提供体制強化加算、特定事業所加算、日常生活継続支援加算、入居継続支援加算のいずれかを取得している必要があります。

特定処遇改善加算IとⅡの違いについて

特定処遇改善加算には「特定処遇改善加算(Ⅰ)」と「特定処遇改善加算(Ⅱ)」の2種類があります。この二つの違いは、職員の配置基準にあります。

特定処遇改善加算(Ⅰ)の方が加算率が高く、より専門性の高い介護職員を配置している事業所が対象となります。

一方、特定処遇改善加算(Ⅱ)は、それ以外の事業所が対象となります。

特定処遇改善加算(Ⅰ)の要件を満たすためには、多くの施設でサービス提供体制強化加算ⅠまたはⅡを取得することが求められます。

ただし訪問介護の場合には、特定事業所加算を取得することが必要な点に注意が必要です。

特定処遇改善加算の計算方法

特定処遇改善の加算率は、施設の具体的な処遇改善の取り組み内容によって異なります。

以下は介護職員等特定処遇改善加算の種類と単位数を表にしたものです。

サービス区分

加算(Ⅰ)

加算(Ⅱ)

訪問介護夜間対応型訪問介護定期巡回・随時対応型訪問介護看護

6.3%

4.2%

訪問入浴介護

2.1%

1.5%

通所介護地域密着型通所介護

1.2%

1.0%

通所リハビリテーション

2.0%

1.7%

認知症通所型通所介護

3.1%

2.4%

認知症対応型共同生活介護

3.1%

2.3%

特定施設入居者生活介護地域密着型特定施設入居者生活介護

1.8%

1.2%

小規模多機能型居宅介護複合型サービス

1.5%

1.2%

介護福祉施設地域密着型介護老人福祉施設短期入所生活介護

2.7%

2.3%

介護療養施設短期入所療養介護(病院など)介護医療院短期入所療養施設

1.5%

1.1%

介護保険施設短期入所療養介護(老健)

2.1%

1.7%

出典:花王『花王プロフェッショナル業務改善ナビ

訪問介護などのサービスにおける特定処遇改善加算の加算率は、Ⅰ型で6.3%、Ⅱ型で4.2%と設定されています。

訪問入浴介護ではⅠ型で2.1%、Ⅱ型で1.5%とやや低めの加算率です。

通所介護やデイサービスでは1%前後と比較的低くなっていますが、認知症対応型通所介護では3.1%とやや高めの設定がされています。

特定処遇改善加算はどう分配される?

特定処遇改善加算制度は、一定の基準を設けながらも事業所の実情に応じた柔軟な運用が可能です。

基本的には10年以上の勤続経験を持ち、介護福祉士の資格を有する職員を中心に処遇改善が行われることが求められています。

事業所は、勤続年数の解釈や対象職種の選定において一定の裁量を持って加算を配分することができます。

特定処遇改善加算をするときの条件

特定処遇改善加算制度において、事業所は介護職員を経験や技能に応じてA、B、Cの3つのカテゴリーに分け、それぞれに対して賃上げ措置を講じる必要があります。

  • Aカテゴリー: 経験豊富で高い技能を持つ介護福祉士資格保持者。
  • Bカテゴリー: A以外の介護職員。
  • Cカテゴリー: その他の職種の職員。

ただし、年収が440万円以上の職員(役職者を除く)は加算の対象外となります。

Aカテゴリーの職員に対しては、以下の2つの条件を満たす必要があります。

  1. 月額8万円以上の賃上げまたは年収440万円までの増額: A職員の中で最低1人に対して、これを行うことが求められます。
  2. 賃上げの配分バランス: A職員の処遇改善額がB職員を上回ること、そしてC職員の改善額がB職員の半額を超えないようにすることが必要です。

出典:厚生労働省『介護職員等特定処遇改善加算の仕組み

パート職員は介護処遇改善手当の対象?

パート職員は介護処遇改善手当の対象になるかどうか気になるところです。この章では、パート職員が手当を受け取る条件やその実態について詳しく解説します。

パート職員はいくらもらえる?

パート職員も、直接介護業務に従事していれば介護処遇改善手当の支給対象となります。

ただし支給額は事業所ごとに異なり、正社員とパート職員の間で差が生じることもあります。パート職員としての具体的な手当額については、事業所のルールを確認する必要があります。

パート職員の処遇改善手当による給与の増加

厚生労働省の調査によると、令和3年から4年にかけて介護職のパート職員の平均給与は上昇しており、この背景には介護報酬に含まれる「処遇改善加算」が大きく寄与しています。

この加算は介護職員の賃金改善を目的とした制度で、介護保険と国費から財源が確保されており、直接給与に反映される仕組みです。

介護職の時給はこれまでも着実に上昇しており、今後も給与水準の向上が期待されています。

厚生労働省『令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果

扶養内勤務なら確認を忘れずに

パート職員も介護処遇改善手当の対象となる可能性がありますが、扶養範囲内で働いている場合は注意が必要です。

手当の支給により、収入が扶養範囲を超えると予期せぬ税金負担が発生する恐れがあります。

そのため事業者側と職員側が連携して手当の支給状況や勤務時間を調整し、適切な対応を行うことが求められます。

介護処遇改善手当は給与明細に記載がある?

給与明細には、基本給に加えて支払われるべき手当の内容がリストアップされています。明細に記載がない場合は、自分が支給要件を満たしているかどうかを確認しましょう。

給与明細に反映されていなかったら

介護職員の処遇改善を目的とした「特定処遇改善加算」が2019年10月から始まりましたが、実際の給与への反映が不透明なケースがあるようです。

もし反映されていない場合は、勤務先の人事や経理部門に問い合わせて理由や計算方法を確認しましょう。

また、制度開始後の一定期間は執行猶予期間が設けられており、その間は手当が支給されない可能性もあります。


自分はもらえない人ではないか

特定処遇改善手当は、介護福祉士の資格を持つ職員や長年の経験を積んだベテラン職員を優遇する制度です。

そのため、専門知識や豊富な経験が評価される一方で、新人職員や特定の要件を満たしていない職員は手当の対象外となることがあります。

自分が手当を受けられないのではないかと感じた場合は、上司や人事部門に相談して確認しましょう。

介護施設や事業所が運営費にしていないか

介護施設や事業所の運営には、設備費や車両維持費、光熱水費、消耗品費などの多額の費用がかかります。

経営が厳しい施設や事業所では、処遇改善のための加算分が運営費に充てられてしまうケースもあります。

このような状況では、給与明細に処遇改善手当が記載されていない可能性があるため、勤務先の経営状況を把握しておくことが重要です。

介護施設・事業所が受給の条件を満たすか

介護職員の給与に特定処遇改善加算が反映されていない場合、所属する介護施設や事業所が加算の受給要件を満たしていないためかもしれません。

受給要件は介護の形態や施設の種類によって異なります。要件を満たしていない施設や事業所ではこの手当が支払われないため、自分の職場が加算の受給資格を持っているかどうかを確認することが求められます。

簡単に令和6年新制度の介護職員等特定処遇改善加算を紹介

ここでは、介護職員等特定処遇改善加算における種類や配分の方法についてを簡単にご紹介します。

介護職員等特定処遇改善加算における種類

介護職員等特定処遇改善加算には、サービス種別ごとに基準を満たす場合と満たさない場合の2つの区分があります。各サービスの加算率は以下のとおりです。

介護サービス種別

(Ⅰ)

(Ⅱ)

訪問介護

6.3%

4.2%

夜間対応型訪問介護

6.3%

4.2%

定期巡回・随時対応型訪問介護看護

6.3%

4.2%

訪問入浴介護

2.1%

1.5%

通所介護

1.2%

1.0%

地域密着型通所介護

1.2%

1.0%

通所リハビリテーション

2.0%

1.7%

特定施設入居者生活介護

1.8%

1.2%

地域密着型特定施設入居者生活介護

1.8%

1.2%

認知症対応型通所介護

3.1%

2.4%

小規模多機能型居宅介護

1.5%

1.2%

看護小規模多機能型居宅介護

1.5%

1.2%

認知症対応型共同生活介護

3.1%

2.3%

介護老人福祉施設

2.7%

2.3%

地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護

2.7%

2.3%

短期入所生活介護

2.7%

2.3%

介護老人保健施設

2.1%

1.7%

短期入所療養介護(老健)

2.1%

1.7%

介護療養型医療施設

1.5%

1.1%

介護医療院

1.5%

1.1%

短期入所療養介護(老健以外)

1.5%

1.1%

参考:介護保険最新情報vol1215

介護職員等特定処遇改善加算の配分の仕方は?

介護職員等特定処遇改善加算は令和6年度から導入される新しい制度で、その配分方法にはいくつかの重要なポイントがあります。

経験と技能を持つ介護職員に対しては最低でも1人以上が対象となり、その月額賃金は平均で8万円以上引き上げ、年収を440万円以上にする必要があります。

また、この賃金改善は他の介護職員よりも高い水準で行われることが求められます。

一方、他の介護職員についても賃金改善が求められますが、その改善額は他の職種の2倍以上とする必要があります。

ただし他の職種の職員については、年収が440万円を超えてはいけないという条件があります。

介護職員等特定処遇改善加算の計算方法について

介護職員等特定処遇改善加算の計算方法は比較的シンプルです。

まず、基本報酬と各種加算・減算の合計単位数を算出し、その単位数に一定の加算率を掛けることで介護職員の待遇改善に向けた金額が決まります。

計算の結果端数が出た場合は、四捨五入して1単位未満の差異を適切に反映させます。

介護職員等特定処遇改善加算の条件

令和6年に導入される介護職員等特定処遇改善加算(Ⅱ)の算定には、いくつかの条件があります。

まず、介護職員処遇改善加算のいずれかをすでに算定していることが基本条件となります。

また、介護職員が働きやすい環境を整えることが求められ、賃金以外の処遇改善に関する取り組み内容を公開する義務があります。

令和4年度からは介護職員等特定処遇改善計画書の作成と提出が義務付けられており、加算額に見合った賃金改善を実施して実績報告書を提出することも必要です。

これらの条件をすべて満たすことで、介護職員等特定処遇改善加算(Ⅱ)の算定が認められます。

介護処遇改善手当まとめ

この記事では、介護職場の環境改善と職員の処遇向上を目的とした「介護処遇改善手当」についてその概要や対象者、加算の計算方法、そして職員への支給額を詳しく解説してきました。

手当の計算方法は複雑であるため、正しく理解して活用することが重要です。

介護処遇改善手当の仕組みを把握することで、介護職場の環境改善と職員の待遇向上が期待されるでしょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。