税理士試験の簿記論とは?難易度や勉強法・財務諸表論との関連まで解説

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税理士試験の一科目である「簿記論」は、どのような内容なのでしょうか。

この記事では、簿記論の概要や難易度、効果的な学習方法について解説します。さらに、財務諸表論との関連性にも触れていきます。

受験生の方はもちろん、税理士業界への理解を深めたい方にも役立つ内容となっています。

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税理士試験の簿記論とは?

簿記論は、2つある必須科目のうちの1つであり、会計の基礎知識を問う試験科目です。

税理士試験では科目ごとに合否が判定されるため、受験生は全科目を一度に受けるのではなく、1年に1、2科目ずつ挑戦することが一般的です。

簿記論は必須科目であるため、初めに取り組む人が多く、税理士試験の最初の関門となっています。

学習内容について

簿記論では、会計の理論と実践的なスキルを体系的に学ぶことができます。

財務諸表作成の方法や取引記録の仕方、評価ルールなどを習得することで、企業の経営状況を適切に把握し、税額算定の基礎となる情報を正しく処理できるようになります。

加えて、簿記検定のカリキュラムとの関連性が高いため、資格取得の準備としても有効活用できます。

簿記論の学習を通じて、税理士として必要な専門知識と実務能力を身につけることが可能となります。

出題範囲と配点について

簿記論の出題範囲は広範かつ抽象的なため、幅広い学習が求められます。

この科目の主な特徴は、ほとんどの問題が計算問題であり、解答では計算過程の理解と適用が重視される点にあります。

また、出題論点は年度ごとに変更されるため、受験生は柔軟に対応する必要があります。

100点満点の試験となっていますが、採点基準は非公開です。

計算問題について

計算問題は、簿記の基礎知識と実務能力を問う重要な問題です。計算問題は個別問題と総合問題に分けられます。

個別問題は学者試験委員が作成しており、簿記の基本原理から複雑な会計処理まで、詳細な理解が求められます。

一方、総合問題は実務家試験委員が作成しており、実務に即した計算力が問われます。具体的には、決算整理前残高試算表と決算整理事項から、個々の仕訳を立て、決算整理後残高試算表を作成する必要があります。

簿記論の難易度は高い

簿記論は、税理士試験の中でも特に難しい科目とされています。

内容が複雑で細かいルールが多数あり、問題の難易度も高いため、正解を導き出すには膨大な量の演習が必要とされます。

さらに、ほとんどの問題が計算問題で構成されているため、数学や計算が得意でない受験生にとっては大変厳しい試験となっています。

適切な計算手順を見つけ出す力と、問題の本質を理解する力が求められるため、計算力と論理力を高めることが重要となります。

勉強に必要な時間の目安

一般的には、簿記論を合格するためには約500時間の学習が必要とされています。これは、学習量が多い科目の中でも、特に重点的な学習が必要であると言えます。

しかし、簿記論は得意か不得意かが人によって大きく分かれる科目であり、500時間という目安は個人差があります。

中には、合格するまでにその2倍近い時間を要した受験生もいるため、自分のペースに合わせた学習が重要になります。

簿記論の合格率

簿記論の合格率は、以下のようになっています。

科目名

令和4年

令和3年

令和2年

令和元年

簿記論

23.0%

16.5%

22.6%

17.4%

参考|『令和4年度(第72回)税理士試験結果』

過去4年間の税理士試験の簿記論科目の合格率データを分析すると、その合格率は比較的高い水準で推移していることがわかります。

合格率は16.5%から23.0%の範囲にあり、平均すると約20%となっています。

他の科目と比べると、合格率がある程度高めであると言えます。

簿記論の合格ライン

簿記論の試験では、公式上は満点の60%の取得が合格ラインとされています。

しかし、実際には合格率が約15%と低く設定されているため、全問正答の約50%程度の点数取得が求められています。

つまり、簿記論の試験は名目上は絶対評価制度となっていますが、実質的には受験生の上位15%に位置することが合格の条件となる相対評価制度となります。

簿記論の難易度が高い理由

簿記論の難易度が高い理由は、主に3つあります。

まず、出題範囲が広範囲に渡り毎年異なる論点が出題されるため、幅広い理解が求められます。

また、簿記論の問題は考察力と応用力が問われるため、単に知識を詰め込むだけでは対応できません。

さらに、簿記論と財務諸表論を並行して学習している人が多く、理解を深めるのが大変となっているからです。

【比較】簿記1級と税理士試験の簿記論

簿記一級と税理士試験の簿記論を比較すると、簿記一級の合格率は約10%となっており、一見簿記1級の方が難易度が高いように思われます。

しかし、出題内容を詳しく見ると、税理士試験の簿記論の方が高難易度の問題が多く含まれています。

簿記論では企業会計だけでなく、税法に基づく会計処理も扱われるため、内容がより高度で複雑になっています。また、基本問題のレベルも簿記一級よりも高く設定されています。

学習期間や合格率、出題内容などから総合的に判断すると、税理士試験の簿記論の方がやや合格しにくい試験だと言えるでしょう。

合格率

過去5年間の、簿記1級と税理士試験の簿記論の合格率を比較してみましょう。


簿記1級合格率


簿記論合格率

2023年11月

16.8%

2023年度

17.4%

2023年6月

12.5%

2022年度

23.0%

2022年11月

10.4%

2021年度

16.5%

2022年6月

10.1%

2020年度

22.6%

2021年11月

10.2%

2019年度

17.4%

商工会議所『1級受験者データ』国税庁『税理士試験』

簿記1級の平均合格率は10.6%近くと低いのに対し、簿記論の平均合格率は20%近くと高くなっています。

しかし、この数値だけでは簡単に「簿記1級の方が難しい」と断言することはできません。

なぜなら、両試験の受験者層が異なるためです。簿記1級には受験資格がないため、年齢や経歴を問わず誰でも受験可能でした。

出題範囲

簿記1級と税理士試験の簿記論の出題範囲は、共通点が多いものの相違点も少なくありません。

簿記1級では、工業簿記と原価計算が特に重要な分野となります。簿記論でも工業簿記は範囲の一つですが、出題数はそれほど多くありません。また、工業簿記の問題は直感力が求められるため、そのための準備が合格の鍵となります。

一方、商業簿記の難易度については、簿記論の方が遥かに高いと認識されています。簿記論では、多くの問題を解くために一部の問題を“捨てる”判断力が必要とされるため、「クセの強い試験」と評されることもあります。

キャリアプラン

簿記1級と税理士試験の簿記論は、それぞれ異なるキャリアプランを示しています。

企業の経理業務に興味がある場合は、簿記1級の取得を検討すると良いでしょう。

簿記1級は経理の専門家としての地位を示し、その分野への深い理解を証明するものだからです。

一方、会計事務所でのキャリアを望む場合は、税理士試験の簿記論の取得をおすすめします。簿記論は税理士試験の一科目ですが、会計事務所での就職や転職の際に高く評価されます。

さらに、将来的に他の科目の勉強を進めれば、税理士資格の取得を目指すこともできます。

簿記論と財務諸表論の共通点と相違点

簿記論と財務諸表論は、会計および経営における理解を重視する内容です。

この2つを同時に勉強することで理解を深めることができ、両方とも必須科目であるため、同時に受験する人が多いのも事実です。

共通点

両者は、学習範囲や計算手順、処理方法、解答方法などで共通点が多く密接に関連しています。同時に学習すれば効率的であり、相互に補完し合いながら幅広い知識が身につくことでしょう。

もし時間に余裕があれば、両科目を並行して学ぶことをおすすめします。

お互いの知識やスキルを組み合わせながら着実に理解を深めることができ、より一層の相乗効果が得られるでしょう。

相違点

簿記論と財務諸表論は、焦点が置かれる部分が異なります。

簿記論では、取引の詳細な記録方法と仕訳処理に重きが置かれ、複雑な取引ケースが扱われます。

一方、財務諸表論では、貸借対照表や損益計算書の解読能力が重視され、その意味理解が問われます。

同時に学ぶメリット3選

トータルの学習時間が短くなる

簿記と財務諸表の学習は相互に関連しているため、同時に学ぶことで学習時間を大幅に短縮することができます。具体的には、簿記と財務諸表を組み合わせて学習すれば、財務諸表の学習時間を30~50%短縮できるとされています。

財務諸表の理解には簿記の知識が不可欠なので、簿記を先に学んでおけば、財務諸表の学習がスムーズに進みます。

簿記の仕訳の基礎ができていれば、財務諸表での仕訳の学習は確認程度で済むからです。

計算力・計算スピードが見につく

決算整理型の総合問題が両論で共通して出題されるため、より効率的に課題解決能力を身につけることができるでしょう。

しかし、簿記論の知識だけでは財務諸表論の計算問題を完全に解決するのは難しく、異なる視点からのアプローチが必要となります。

それでも、簿記論の学習は仕訳のスキルと計算スピードを養うことができ、財務諸表論の計算力の底上げと全体的なパフォーマンス向上につながる可能性があります。

会計処理の記憶が定着する

簿記論と財務諸表論を並行して学習することで、会計処理の理解がより深まり、記憶に定着しやすくなります。

簿記論では、具体的な会計処理の手順を反復練習することで知識を身につけます。

一方、財務諸表論では、会計処理の意義や背景、財務諸表の理解を追求することで、会計処理の意味を深く吸収できます。

簿記論を学ぶときのおすすめ勉強法

独学は非常に大変

税理士試験を受ける多くの人は予備校や通信講座を利用していますが、独力で簿記論を学ぶ人はごくわずかです。

簿記論は相対評価の試験なので、予備校生との競争に勝つには彼らと同等以上の努力と工夫が必要となります。

独学の場合、効率の悪い学習をしてしまうリスクがあり、間違った知識を身につけてしまうこともあるでしょう。

「とはいえ予備校に40万円も50万円もかけるのは厳しい」という方も多いでしょう。その場合は、一般的な予備校の半額以下で受講可能なスタディングの税理士講座をチェックするのが良いでしょう。

スタディングは圧倒的に安く税理士対策講座を受講できる上に、スマホで隙間時間に勉強できるので仕事と勉強の両立もしやすくなっています。

実際、令和5年度だけでも488名がスタディングで簿記論や財務諸表論といった科目合格を果たしているので、ぜひこの機会に受講を検討してみてはいかがでしょうか。

問題演習を中心に勉強を進める

簿記の学習において、問題演習を中心とする方法が最も効果的です。

理論を学んだ後は、すぐに問題集に取り組むことが大切で、問題を解く過程で理解が不足している部分や誤解している部分に気づくことができます。

特に、計算問題は多くの演習を重ねることで習熟度を高められます。

問題を解きながらつまずいた点を確認し直すことで、知識を確実に身につけられるのです。

必ず解答をチェックして復習しよう

また、問題を解くだけでなく解答のチェックと丁寧な復習も欠かせません。

特に、間違えた問題についてはどこが理解不足だったのかを見つけ出し、再度取り組むことが重要です。

その理由としては、新しい知識が定着する前に次の問題に進んでしまうと混乱を招いてしまうからです。

同じ問題を反復練習し、確実に理解できるようになってから次に進みましょう。

貸借対照表や損益計算書の作成には計算練習

税理士試験の簿記論では、企業の財務状況や経営成績を正確に把握し、適切に表す能力が問われます。

そのためには、会計原則に基づいた計算手順の理解と、繰り返しの計算練習が欠かせません。

理論的知識と、実践的な数値計算の両方を組み合わせた学習が重要となるでしょう。

過去問は総仕上げと普段の勉強で取り入れよう

過去問を効果的に活用するには、2つの方法があります。

普段の学習では、過去数年分ではなくそれ以前の過去問に取り組むことをおすすめします。

一方、直前期の総仕上げでは、直近2~3年分の過去問に集中して取り組むことがおすすめです。

過去問を解くことで、合格レベルの問題や本番で避けるべき難問の見分け方が分かります。

間違いノートの作り方を学ぼう

簿記の学習において、間違いノートを作成することは非常に有効な手段となるでしょう。

間違いノートの作り方は簡単で、解答できなかった問題や間違えた問題をノートに書き留めていくだけです。

その際、自分が理解不足だった箇所や苦手な分野を具体的に記録することをおすすめします。

そのノートを繰り返し見直すことで抜けていた知識を補い、同じミスを繰り返さずに理解を深めることができます。

試験合格を引き寄せるためのテクニック

​本章では、試験合格を引き寄せるためのテクニックについて説明していきます。

難問に時間を使いすぎない

問題の難易度にばらつきがある場合は、まず簡単な問題から解答していくことで確実に得点を積み上げていくことをおすすめします。

全問解答を目指すよりも、限られた時間内で効率的に得点を重ねることが肝心です。

特に試験直前の準備期間では、難問を見抜く力を磨くことが欠かせないでしょう。

解ける問題と解けない問題を見極める

試験に合格するためのカギの一つは、「解ける問題と解けない問題を見極める」能力です。

試験は本来、受験者を選別することを目的としているため、万人が解答できる問題ばかりでは試験の意味がなくなってしまいます。

そのため、正解に辿り着きやすい問題には対応する一方で、正解が難しい問題については無理に取り組む必要はありません。

ケアレスミスをなくす

試験で良い成績を残すためには、自分のミスの傾向を認識し、その傾向を改善することが重要です。

例えば、時間がなくなると問題を見落としてしまうなど、あなた自身が原因でミスを起こしていないか振り返りましょう

そして、その癖を改善する工夫をすることで、ケアレスミスを減らすことができます。

検算のコツを掴む

試験に合格するためには、計算の正確性を確認する「検算」が必須となります。問題を解いた後には、必ず検算を行う習慣をつけましょう。

検算には、実際に手を動かして計算する方法と、頭の中で計算する方法があります。

特に後者は、数字に対する洞察力が求められます。求められた答えと自分の計算結果が明らかにかけ離れていないかを見抜く力が必要となるのです。

この「数字の妥当性を即座に判断する能力」は、問題を解き進める中で自然と身についていきます。

税理士試験の簿記論まとめ

本記事では、税理士試験の1科目である簿記論について紹介してきました。

簿記論は税理士試験の中でも特に重要な科目であり、広範囲な知識と概念の理解、問題解釈力が必要とされます。

また、無理なく効率的に学習を進めるには、計画的なアプローチが重要です。一度に全てを理解しようとせず、一つひとつを確実に理解することが大切となります。

税理士試験の簿記論は高い難易度を誇っていますが、この記事がみなさまの学習の一助となれば幸いです。