介護業界の今後はどうなる?現状の給料や需要とこれからの将来性について解説
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高齢化が進む中で、介護業界への需要が高まっています。
それと同時に給与水準や労働環境の課題も浮き彫りになってきました。
そこで本記事では、介護の現場の実情や将来の展望に迫ります。介護に従事する方々はもちろん、介護の仕事に興味がある人にも役立つ情報をお届けします。
日本の介護業界の現状・課題
ここでは、介護業界の現状と課題について説明していきます。
介護業界は人手が足りていない
介護業界では、高齢化によって深刻な人手不足が続いており、今後さらに加速することが予想されています。
介護職は社会貢献度が高く、やりがいのある仕事です。人材不足解消には、報酬改善や働き方改革などの多角的なアプローチが必要となってきます。
介護職の需要は高まっている
日本では高齢化が急速に進行しており、介護を必要とする高齢者の数も年々増加しています。
総人口に占める高齢者の割合は約3割を占めています。
高齢者の人口だけが増加傾向にあり、それに伴って介護需要は増加傾向にあると予想されます。
介護保険料は上がり続けている
年度 | 介護認定者数 |
---|---|
2000年 | 約256万人 |
2021年 | 約690万人 |
日本は高齢化が急速に進み、介護需要が拡大しています。介護保険料が導入された2000年に比べ、2021年時点での認定者数は約2.7倍に増加しました。
年度 | 保険料の全国平均 |
---|---|
2000年 | 2911円 |
2020年 | 5514円 |
また、2020年時点での介護保険料は、2000年に比べて2倍近く増加していることがわかります。これからも保険料の負担が増していくと考えられるでしょう。
参考:厚生労働省『介護給付と保険料の推移』
1人暮らしや夫婦だけで生活している人の増加
日本では核家族化や少子高齢化が進み、高齢者を家族で介護することが難しくなってきました。
そのため、介護保険制度の導入により民間の介護サービスを活用する機会が増えています。
子どもが親を介護する時代は終わりに近づいている
子どもが親を介護することは時代と共に変化しつつあります。近年では少子高齢化や女性の社会進出や同居率の減少などにより、その考え方は変わりつつあります。
民間の介護サービスの発展や介護保険制度の普及により、家族による介護から介護サービスの利用へと移行しています。
しかし一方で、親の自立期間中は家族がサポートしたり費用面から家族で介護を分担したりするケースも多く残されています。
つまり現代の介護には、従来の家族介護と介護サービスの利用が併存し、それらが協力し合う「共同介護」が求められる新たなトレンドになっていると言えるでしょう。
10年後の介護職はどうなっているのか
次に、10年後の介護職がどのようになっているのかについて説明していきます。
介護職は日本で将来性が高い職業
日本の高齢化が進む中、介護職の存在は不可欠になっています。そして、今後ますます需要は高まると予測されています。
需要の増加に伴って介護職員数も年々増加しており、10年後にはさらに大幅な伸びが見込まれています。
年度 | 平成12年 | 平成24年 | 平成27年 | 平成37年 |
---|---|---|---|---|
介護職員数 | 55万人 | 149万人 | 167~176万人 | 237~249万人 |
参考:厚生労働省『公的介護保険制度の現状と今後の役割』
介護職は誰でも就くことができる
介護の仕事は、誰もが公平にキャリアを築けるチャンスに恵まれた職場です。
年齢や性別、学歴は関係ありません。実務経験を積み資格を取得することで、着実にスキルアップしながら昇進することができます。
今後は労働環境が整っていく
介護職の労働環境は今後大きく変わり、労働時間の調整や外国人介護人材の受け入れ拡大、職業訓練の支援などの働き方改革が進められています。
先端技術の活用も進み、介護ロボットの導入や業務のICT化による効率化が図られ、手間のかかる介護業務が軽減されるでしょう。
次世代の介護施設では「科学的介護情報システム」の導入が期待されています。このシステムでは、利用者の状態や介護計画、提供サービスをシステムで管理・分析し、質の高いケアを実現できます。
さらに、ハラスメント防止対策や仕事と家庭の両立支援体制の構築など、従業員が働きやすい環境づくりも求められています。
段々給料が上がると予想されている
介護職の将来を見据えると、給与の増加が大きな期待となるでしょう。
政府は近年、介護職員の賃金向上に向けた様々な対策を推進してきました。
特に注目すべきは、介護職員処遇改善支援補助金と介護職員処遇改善加算の導入です。
前者は、2022年2月から9月にかけて交付されたもので、介護職員の月収を平均3%引き上げるための補助金制度です。具体的には1人あたり月額9,000円の賃上げ相当額が支払われました。
一方、介護職員処遇改善加算は、キャリアパスや職場環境の要件を満たすことで賃金改善が期待できる制度です。スキルアップと職場環境の改善が奨励され、結果として賃金の向上が見込まれます。
未来の介護職のために取れる対策
ここでは、未来の介護職のために取れる対策を紹介していきます。
介護のDX化を進める
デジタル化の波は様々な業界に影響を及ぼしており、介護業界においてもICT、AI、IoTなどの技術活用が求められています。
「介護DX」は、介護現場でのデータ一元化と業務の自動化を目指し、人的ミスを減らし業務効率を上げることで、介護職員の生産性向上につながる可能性があります。
今現在、介護DXを推進する取り組みが国を挙げて行われています。介護職の労働環境改善のためにもこうしたデジタル技術の活用は不可欠となっており、その動向を理解して対応していくことが大切になってくるでしょう。
介護職の社会的評価を上げる
介護業界では人手不足が深刻な問題となっており、介護職の社会的評価の向上が解決の鍵と注目されています。
厚生労働省は「介護のしごと魅力発信等事業」を通じて、介護職の魅力を多角的に発信し理解を深める取り組みを行っています。
しかし、介護職は厳しい労働環境と報酬が見合わないというネガティブなイメージがついてしまっているため、新規就業希望者が減少したり現職からの離職者が増加したりしています。
そうしたマイナスなイメージを払拭し、新たな人材を引き付けつけながら離職者を抑えることが不可欠となっていきます。
介護職員の福祉を向上させる
介護業界では近年、政府による待遇改善策による成果が見えてきています。
2019年以降、リーダー級の介護職員の賃金を他産業並みに引き上げる取り組みが始まり、2022年には介護職員全体の収入を平均3%上げるための政策も施行されました。
デジタル化による業務効率化と併せ、こうした待遇改善により人材流出は大幅に抑えられるでしょう。
そして、待遇改善に加えてキャリアアップの機会も見受けられます。介護事業者が職員の処遇改善とキャリア形成に取り組めば、「処遇改善加算」という助成金を受けることができます。
実際、9割を超える事業者がこの助成金を受け取っており、介護の質の向上にも貢献しています。
様々な人材を確保する
時代の変化に対応するためには、介護事業者は新しい人材確保策と育成が求められています。
そこで、厚生労働省は「介護現場における多様な働き方導入モデル事業」を実施しています。
朝夕や夜間のみ働くなど働く時間を柔軟に設定したり、本業以外に副業を認める制度を導入するなどスタッフの希望に合わせた働き方を実現しようとしています。
厚生労働省は、こうした多様な働き方の事例を全国の介護事業者に広め人材確保を図っています。
外国人を雇用する
現代の日本には生産年齢人口の減少という深刻な課題を抱えています。この問題を解決するために、外国人労働力の活用が不可欠となってきました。実際、2015年頃から1万人以上の外国人が介護分野で活躍しています。
日本政府は、インドネシアやフィリピン、ベトナムなどの国々と経済連携協定(EPA)を締結し、人材交流を推進しています。
「介護」の在留資格の新設、技能実習制度や特定技能1号といった制度も導入により、留学生などからも介護人材を確保する仕組みを整備しました。
介護職で働く人が抱える問題点
介護職で働く人が抱える問題を紹介していきます。
離職理由 | 家庭の事情(結婚等) | 経営理念が不満 | 待遇が不満 | 人間関係 |
---|---|---|---|---|
割合 | 26.2% | 23.9% | 23.5% | 22.1% |
参考:平成19年介護労働実態調査:『介護職の離職理由』
人間関係が良くない
職場での人間関係のトラブルは、特に介護業界で深刻な問題となっています。
不和が生じると仕事に支障が出るだけでなく、精神的・身体的にも悪影響を及ぼす可能性があります。
実際に、介護職員の約22%が人間関係の問題から離職していると報告されています。
この問題を解決するには、施設側が介護職員の意見を直接聞く機会を設けそこから職場環境改善の対策を見つけていくことが重要です。
産休・育休などによる生活の変化
介護職は、夜勤のシフトが設けられているのが一般的です。
そのため、家事や子育てなど家庭と仕事の両立が極めて困難な状況にあります。
近年、男性も育児休暇を取得する傾向にあり、男女問わず休息が必要な人が働き続けられる体制作りが求められています。
収入が不十分
介護職は、高度な専門性が求められているものの、労働環境と報酬のアンバランスが深刻な問題となっています。
厚生労働省の調査では、介護職員の約23%が収入不足等の待遇を退職理由に挙げています。
こうしたギャップから、他の職場の方が働きがいと報酬のバランスが良いと感じ転職を検討する介護職員が多くなっています。
介護職の仕事でやりがいを感じる場面
介護職の仕事でやりがいを感じる場面は一体いつなのでしょうか。
人の助けになれる
介護の仕事は、単に身体的なケアを提供するだけではありません。
高齢者は、日常生活で困った際、介護職員からの優しい言葉かけや思いやりのある対応を求めているのです。「手を差し伸べましょうか?」という一言が、高齢者にとっては大きな安心感と感謝の気持ちを生み出します。
介護職員は、高齢者から直接「ありがとう」と言われることで、人のために尽くせる喜びを実感してさらなる原動力となります。
高齢者の生活を支えるだけでなく、生きる喜びを感じ深い人間関係を築くことにもつながるのです。
経験を積めばキャリアを上げることができる
介護職は経験を重ねることで飛躍的にキャリアアップが可能な職業です。
未経験からでも日々の取り組みを通じて積み上げた経験がキャリアを形成することにつながります。
管理職やケアマネジャーなど、より高度な職種への道も開かれます。
介護が必要な方の自立を一緒に喜べる
介護保険制度の究極の目標は、支援を必要とする人々が尊厳を持って自分らしく生きることができるようにすることです。
利用者一人ひとりの能力に合わせたリハビリなどのサポートを通じて、自立への一歩を支援することが介護職員の仕事です。
利用者が自立を果たした時の喜びは、介護職員にとって大きな励みとなります。
介護の現場では、かつて困難だったことができるようになった利用者の笑顔や新しいチャレンジに向けた意欲に満ちた表情を目にすることができます。
人生の先輩にアドバイスをもらえる
介護職は、高齢者との対話を通じて人生の先輩から豊富な経験と知恵を学ぶ貴重な機会を得ています。
現代社会では核家族化が進んでいます。そのため、高齢者と触れ合う機会が減っており、介護の現場は高齢者の方からお話を聞く良い機会となるのです。
過去の仕事や日常のエピソードから、長年生きてきた彼らの持つ技術や知恵を垣間見ることができます。
これから介護職に転職したい人がやるべきこと
ここでは、介護職への転職を成功させるためのポイントをご紹介します。
これらの知識を活用し、あなたの介護職転職が実現することを願っています。
介護職についての知識を得る
介護の仕事は大きく分けて身体介助と生活支援の二つがあります。
身体介助は利用者の身体に直接関わる食事や入浴、排泄などのサポートです。また、利用者の状態に応じて細かな介護が必要です。無資格者でも有資格者の監督の下で行うことができます。
一方、生活支援は家事全般の手伝いで身体には直接関わりません。生活支援については、資格がなくても家事の基本的なスキルがあれば対応できます。
介護サービスには細かな決まりがあり、トラブル防止と適切なケアを提供するため、介助者の行える範囲と限界を理解しておくことが重要です。
介護の仕事を目指す人は事前にこうした規定を把握し、自身の役割を認識する必要があります。
自分に合った働き方を考える
介護職を選ぶ際は、個人の生活状況やキャリアプランに合わせて働き方を検討することが大切です。介護スタッフには正社員だけでなく、様々な雇用形態があります。
例えば、育児と両立するにはパートタイム勤務を選び、子供が成長したらフルタイムへと移行するのも一つの選択肢です。
入所施設では夜勤が必要な場合もありますが、デイサービスでは夜勤がない場合もあります。同じ施設内でも、グループホームと訪問介護では全く異なる働き方になるかもしれません。
分からないことがあれば、施設に直接問い合わせて希望の働き方について話し合うのも良いでしょう。
無資格でもできる施設を探す
介護の仕事は、資格の有無にかかわらず様々な形で就職することができます。
求人サイトやハローワークに応募すれば採用される機会がありますが、業務内容は大きく異なります。
施設入所やグループホーム、訪問介護、デイサービスなど、サービス形態によって利用者の状況が異なるため、未経験者は入職前に介護サービスの種類を理解しておきましょう。
また、仕事内容についても事前に把握しておくと良いでしょう。
介護職員初任者研修を取得する
介護の仕事に興味のある方は、最初に介護職員初任者研修の資格を取得するのが良いでしょう。
この研修では、介護の基本的な知識と技術を身につけることができ、資格を持っていれば訪問介護などで身体介助の仕事ができるようになります。
介護の仕事は未経験者でも始められますが、身体介助は監督者の下でしか行えません。
一方で生活支援の仕事はすぐに始められ、仕事をしながら資格を取得することも可能です。
介護職員初任者研修の費用は提供元や地域によって違いますが、おおよそ4万円から10万円程度です。この研修を修了すれば、介護の基礎を身につけたことが証明されます。
初任者研修の後は、経験を積んで介護福祉士実務者研修を受講しさらにスキルアップを図ることができ、将来的には国家資格である介護福祉士の取得も可能です。
介護業界の今後の動向まとめ
高齢化社会の進行に伴い、介護サービスへの需要が高まっています。
その一方で、介護現場では人手不足や待遇の問題が深刻化しています。
給与水準は現段階では高くありませんが、介護スタッフの専門性の向上や働きやすい環境を整備により改善の余地は十分にあります。
介護業界には大きな成長の可能性があり、国や施設による具体的な対策が欠かせないでしょう。