医師を辞めたい理由とは?退職する医師の割合や向いていない人の特徴も紹介
更新
医師という職業は、栄誉と責任が重くのしかかるものです。しかし、どんなに優れた医師でも時に挫折や葛藤に直面してしまいます。
本記事では、医師を辞めたい理由や退職者の割合、この職に向いていない人の特徴などについて詳しく見ていきます。
医師を辞めたい理由6選
医師が辞めたいと思う理由は働く環境や心身の疲弊、人間関係や生命に関わる仕事ならではの重圧や待遇・人事関連など様々となっています。
以下に代表的な6つの理由を挙げます。
①労働条件の過酷さ
医師の長時間労働は深刻な問題となっています。
多くの医師が休日がほとんど取れず、家族との時間を持つことが難しい状況が続いています。また、自己研鑽のための時間を確保するのも困難です。
厚生労働省の調査によると約5分の1の病院で医師が週80時間以上働いており、特に大学病院や救命救急病院ではその割合が約半数に達しています。
②精神的なストレス
また、医療現場は非常に過酷な環境であり、医師たちは常に高いストレスにさらされています。
日々の業務に加えて緊急時の対応やオンコール勤務が重なることで、さらに大きなプレッシャーがかかることもあります。
また、時には患者やその家族から不当な苦情や暴言、さらには暴力を受けることもあります。
以下は、自分自身の健康状態についての医師の健康調査結果です。
健康状態 | 割合(%) |
---|---|
健康である | 47.1 |
健康に不安がある | 42.5 |
大変不安である | 5.0 |
健康とはいえない | 5.4 |
出典:医師ユニオン『勤務医労働実態調査 2022 実行委員会』
実際、自分が健康であると感じている医師はわずか47.1%にとどまり、残りの医師たちは何らかの健康不安を抱えています。
2017年と比較すると「健康である」と答える医師の割合は10%以上も減少しており、医師の健康問題がますます深刻化していることが明らかです。
特に若手医師の間では、精神的な問題を抱える割合が高まっていることが懸念されています。
③病院内の人間関係
さらに、医師が退職を考える大きな理由の一つに病院内での人間関係の問題もあります。
患者や看護師、他の病院スタッフとの関係がうまくいかず、心理的なストレスを感じることは少なくありません。
特に他の診療科との交流が乏しいと、孤立感や理解不足から仕事への意欲が低下するケースも見受けられます。
大学病院のように規模が大きく科ごとに派閥が形成されやすい環境では、他科からの疎外感が強まり、医師としての職務遂行がさらに困難になることもあるでしょう。
④医療訴訟の可能性
医療現場では、医師たちは患者の命を守るために細心の注意を払いながら治療や手術を行っています。
しかしどれだけ努力しても万が一の事態が起きた場合、患者の家族から怒りや非難を受け、さらには医療訴訟に巻き込まれるリスクがあります。
最高裁判所の統計によると、2021年には785件もの医療関連訴訟が発生しています。
これらの訴訟は時間的・精神的なストレスだけでなく、経済的な負担も医師にとって大きなものとなります。
⑤新型コロナウイルス関連
新型コロナウイルスの影響により、医療現場はかつてないほど過酷な状況に直面し、医師たちは身体的にも精神的にも深刻な負担を強いられていました。
患者対応や治療法の模索、病床の確保といった緊迫した現場での判断が求められる中、医師たちは絶えず悩み、身体的・精神的な消耗を避けることができませんでした。
特に新型コロナウイルス患者を受け入れている病院では、離職者が増加し人手不足による十分な対応が難しくなっています。
その結果、患者からの批判を受けることも少なくないのです。
⑥人の命の重さ
医師という職業は人の命に直接関わるため、その重圧に耐え切れずに辞職を選ぶ人も少なくありません。
医療現場では小さなミスさえ許されない状況が続き、医師をはじめとする医療関係者は常に緊張を強いられています。
特に、命に関わる治療や手術を行う際のプレッシャーは計り知れないものです。
たとえ正しい治療や手術を行ったとしても患者やその家族から恨まれることもあり、その精神的な負担は大きいものとなります。
辞めたいと思ったことのある割合は?
勤務医労働実態調査によると、約6割の医師が「医師を辞めたいと思ったことがある」と回答しています。
しかし一度辞めたいと思って、実際に医師の職を離れる人は少ないのが実情です。
多くの医師は退職せずに我慢して働き続けたり、勤務先や診療科を変えて医師としてのキャリアを続ける傾向にあります。
辞めたい医師・看護師の実際の離職率
令和2年度の衛生行政報告例(就業医療関係者)によると、医師の離職率は3.0%と報告されています。
また、厚生労働省が発表した令和3年雇用動向調査では医療・福祉業界全体の離職率は6.5%となっており、これは全産業平均の10.9%よりも低い数字です。しかし、コロナ禍における離職率は特に高い傾向が見られました。
たとえば、公益社団法人日本看護協会が実施した2022年の病院看護実態調査によれば、新卒看護職員の離職率は14.8%に達し、前年度の13.7%から上昇しています。
特に、コロナ対応病棟に配属された看護師の離職率が高かったことが明らかになっています。
出典:厚生労働省『令和3年雇用動向調査』
医師をすぐに辞めた方がいい人の特徴
ここまで医師を辞めたい理由を紹介していきましたが、実際にやめた人がいい人の特徴には何があるのでしょうか。
激務により何らかの健康障害が生じている
もし激務な勤務状況にあり慢性的なストレスや寝不足、さらには精神疾患を患う恐れがある、もしくはすでに患っている場合は長期休暇の取得や退職を真剣に考えるべきです。
現場では当直明けの外来診療や手術、他の医師の退職による一人への負担増といった過酷な労働状況が報告されています。
このような状況においては、適切な休暇の取得や離職を含めた対策を検討し、医師の心身のケアに十分配慮することが重要です。
給与手当が不当
医師は非常に責任の重い仕事であり、患者の命を守るために深夜や休日を問わず緊急対応が求められることが多くあります。
その結果、長時間労働が常態化している職場も少なくありません。
しかし、こうした過酷な労働に対して労働時間に見合った適正な報酬が支払われないケースも多く見受けられます。
患者とのトラブルが続いている
病院は生と死が交わる場所であり医師たちは日々懸命に努力していますが、時には救うことができない患者もいます。
感謝の気持ちを示してくれる患者もいる一方で、医師と患者との間でトラブルが発生することも少なくありません。
近年では、医師不足や高齢化が進む中で一人の医師にかかる業務負担が増加しており、それに伴ってトラブルの件数も増加しています。
病院内でパワハラを受けている
医療現場では厳しい上下関係や派閥対立が存在しそれに気を使わざるを得ないため、本来の業務に集中できないことがあります。
また、他の医療スタッフとのコミュニケーション不足はチームとしての連携を阻害し、医療の質の低下につながる可能性があります。
特にパワハラなどの問題が発生すると精神的・肉体的なストレスが増大するため、職場を離れても良いかもしれません。
医師に向いていない性格の人は要注意
医師という職業は、体力的な負担が大きいだけでなく優れたコミュニケーション能力と思いやりの心が求められます。
もし自分に体力的な限界を感じたり、コミュニケーション能力や思いやりが不足していると感じる場合は、医師を目指すことを再考する方が良いかもしれません。
医師は人と深く関わる仕事であり、その責任は非常に重いものです。自分に合わないと感じた場合は別の道を模索しましょう。
医者を辞めるにあたっての不安を紹介
医者を辞めるにあたっての不安として、次のような点が挙げられます。
医局の後ろ盾がなくなってしまう
医師にとって、医療ミスなどのトラブルが発生した際に医局からのサポートがなくなることが大きな不安要素です。
医局を辞めた後、果たして一人で医師としてやっていけるのかといった悩みを抱えることもあります。
医局からの圧力を受けそう
また、医局を離れようとすると、患者の紹介が難しくなったり地元に戻る際に圧力を受けるのではないかと恐れる医師もいます。
さらに、退局後もパワハラが続くかもしれないといった不安が生じることもあり、医局の影響力が大きな障壁となることがあります。
キャリアが途絶えてしまう
医師としての華やかなキャリアを夢見ている一方で、現実には生活や将来のキャリアに対する不安を抱えている医師も多くなっています。
医師を辞めたいと思ってもその後の生活が成り立つかどうか、将来への不安を常に感じているのが実情です。
医師は高度な専門スキルを持っていますが、それが他の分野で活かせるかは不確かです。また医療知識は日々進化しており、学び続けないとすぐに時代に取り残されるというプレッシャーもあります。
新しい就職先が見つかるのか
キャリアを進める中で新しい環境への転身を考えることはありますが、新しい職場が見つかるかどうかという不安もつきものです。
開業医の場合は患者の確保や経営といった新たな課題に直面し、非常勤医師の場合は雇用の安定性や多様な施設での経験とのバランスを取ることが求められます。
医師を続けるメリットは?
実際、多くの医師がこの職業にとどまることを選んでいます。医者を続ける良い点としてどのようなものがあるのでしょうか。
人に直接感謝される
医師という職業は、人々の健康を守り命を救うという非常に重要な役割を担っています。
そのため、患者から直接感謝の言葉をもらい治療の結果として患者の笑顔を見ることができることは、医師にとって大きな喜びとやりがいとなります。
また、一人ひとりの患者に提供する医療行為が、社会全体の健康に貢献しているという実感を得られることもこの職業の大きな魅力です。
高収入かつ安定性がある
医師という職業は、高収入であり経済的な安定性も備えています。
厚生労働省の調査によれば、医師の平均年収は約1,378万円で日本全体の平均年収である約400万円の3倍以上に達しています。
サラリーマンに転職すると年収が3分の1以下に減少するリスクがあるため、経済的な不安を感じる人にとっては、医師としてのキャリアを続けることが有利であると言えるでしょう。
出典:厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』
多種多様な働き方ができる
医師には多様な働き方が用意されています。
病院やクリニックだけでなく介護施設や保育園、企業、研究機関などの様々な場で活躍することが可能です。
また職場に応じて柔軟に働くことができ、自身の生活スタイルや価値観に合った環境を選ぶこともできます。
プライベートを重視する人は、企業医として一般企業で働くことも考えてみましょう。残業が少なく休日出勤もほとんどないため、私生活を充実させることができるはずです。
成長しやすい環境
医師という職業は、日々進化する医療現場において常に新しい知識や技術に触れる機会に恵まれています。
毎日が新たな挑戦と学びの場となりそれぞれの患者や症例から新しい問いや課題が生まれ、成長し続ける環境が整っているのです。
退職後にはどのようなキャリアがある?
医者を退職した後も、その豊富な知識と経験を活かせる様々なキャリアがあります。次に、医師が転身できる可能性のある分野をいくつか紹介します。
他の病院に転職する
近年、医師の間でも転職が一般的になりつつあります。
収入の向上や勤務時間の改善、人間関係のリフレッシュ、さらにはスキルアップを目指して前向きに職場を変える医師が増えています。
転職を通じてより良い職場環境やライフスタイルを実現できるだけでなく、新たな視点を得ることで自身のスキルをさらに磨くことが可能です。
医者免許による再就職
日本では、一度取得した医師免許は更新制度がないため、生涯にわたって医療行為を行うことができます。
医師免許は最高峰の資格であり、多様なキャリアを切り拓くための強力な土台となっています。医師免許を持っていれば医療現場だけでなく産業医や保険会社、製薬会社、公衆衛生、技官などの幅広い分野で活躍の場が広がります。
厚生労働省の調査によると、近年では介護・福祉や産業分野へのキャリア志向が高まっており、医師免許保持者の働き方が多様化して新たな可能性が広がっています。
出典:厚生労働省『医者の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査 』
非常勤・スポット勤務をする
退職後のキャリア選択として、常勤から非常勤やスポット勤務に移行することも考えてみましょう。
非常勤はアルバイトやパートタイム勤務に相当し、自分のライフスタイルに合わせて勤務時間や日数を調整できます。
一方、スポット勤務は病院が人手不足の際に日雇いで働く形態です。
さらに開業しながらも都合に合わせて他の病院で働くことも可能で、医師として自分のライフスタイルに合った柔軟な働き方を選ぶことができます。
クリニックを開業する
医師として自身のクリニックを開業することは、治療方針を自ら決定できるチャンスとなります。
特に既存の医院を引き継ぐことで、初期投資を抑えながら自分らしい医療を実践することが可能です。
開業にはリスクが伴いますが、休日を自由に設定できるなどの医師としてのワークライフバランスを確保することができます。
新たな業種にチャレンジ
退職後の新たなキャリアを模索する際、コンサルタント業界やヘルスケア関連のベンチャー企業などの全く異なる分野に挑戦することも考えてみましょう。
コンサルタント業界では医療や製薬の案件が増えており、専門知識を持つ人材が求められています。医師出身者は論理的思考力に優れているため、この分野でも活躍が期待されます。
また、ヘルスケア分野に特化したベンチャー企業でのキャリアも有望です。医療機器の開発や健康管理アプリの制作、医療サービスの提供など医師の経験や知識が求められる機会が増えています。
さらに、自らの価値観を追求し、医療現場の課題解決に取り組むために起業するという道もあります。
退職にあたってのトラブルは?
医師が退職する際には引き継ぎの不備や患者との関係整理、退職金や契約の条件に関する問題などのトラブルが発生する可能性があります。
次に、その代表的なトラブルについて詳しく見ていきます。
辞めるのを強く引き留められる
医療現場などの専門性の高い分野では、優秀な人材の育成に多大な時間と資金が投資されています。
そのため、その能力を最大限活かしてほしいという理由から退職を申し出る際に強く引き留められることが多くあります。
辞めたいと伝えたら、人間関係が悪くなった
退職を申し出ると、予期しない人間関係の悪化に直面することもあります。
上司や同僚から冷たい態度を取られたり仕事量が減らされたりと、いじめに近い扱いを受けることもあります。
このような状況では、冷静さを保ち必要であれば上司や人事部に相談することが求められます。退職は個人の意思だけでなく職場全体に影響を及ぼす問題であるため、慎重に対応する必要があります。
病院の都合で引き延ばされる
退職を希望しても、病院側の事情で手続きが遅れ本人の意思が十分に尊重されないことがあります。
長期間にわたって見通しの立たない待機状態が続くと、本人のストレスが高まりモチベーションが低下して仕事の質が下がる恐れがあります。
病院側の都合に振り回されがちですが、自分の人生とキャリアを見据えしっかりとした意志を持って冷静に対応することが重要です。
退職時のマナーや方法について
退職の方法やマナーを守ることで、今後のキャリアにも良い影響を与えるでしょう。
次に、具体的な退職時のマナーや適切な手順についてご紹介します。
病院に辞めたい意思を早めに伝える
退職を考えた場合、早めにその意思を上司に伝えることが重要です。
通常、退職の2ヶ月前を目安にすることで業務の引き継ぎや後任の人材確保がスムーズに行えます。
特に緊急性の高い職場では、早期の意思伝達が混乱を最小限に抑えるために欠かせません。
直属の上司には直接話す
退職を決意したら、まずは直属の上司に直接伝えるのがマナーです。
同僚や上司の上司に先に伝えると、直属の上司が他人からその情報を知ることになり不信感を抱かれる可能性があります。
上司への伝え方としてはメールや電話ではなく、対面で時間を設けて真剣に話すことが望ましいでしょう。
辞めたい理由はポジティブなものに
退職の理由を伝える際には、できるだけ前向きな表現に言い換えることが一般的です。
たとえば人間関係の問題や給与に対する不満があったとしても、「新しい環境で成長したい」や「より良い生活を目指したい」などのポジティブな理由に変えて伝えることで、上司や病院側の理解を得やすくなります。
転職エージェントを利用するとスムーズに済む
医院や医局を退職する際、最悪の場合は過去の責任を追及されるなどして報酬の支払いが滞る事態に陥る可能性もあります。
そのような時、転職エージェントが大きな助けとなります。
特に、医療業界や医師に特化した転職エージェントは、過去の類似の問題を解決した経験が豊富でトラブルを回避するための適切なアドバイスを提供してくれます。
転職エージェントを活用することで、単なるキャリアアップだけでなく人生全体においても良い影響を与えることができるでしょう。
医師を辞めたい理由まとめ
この記事では、医師が離職を考える理由や退職後のキャリアについて詳しく解説しました。
医師という職業は高度な知識と技術が求められる一方で、過酷な労働環境や過剰なストレス、そしてワークライフバランスの欠如が離職の大きな要因となっています。
もし医師を辞めたいと感じたら、思い切って転職を検討することで新しい人生が開ける可能性もあります。最後までお読みいただきありがとうございました。